第27話 鍛冶屋の配達依頼
朝が来たようだ。
昨日はあれから武器屋や防具屋を覗いてみたが、これといった安くて良い掘り出し物は見つからなかった。
ただ、丈夫そうな大きな麻袋が売っていたので二つ買って帰った。
昨日、宿に帰ったらなぜかゼルトさんとリーザさんが居た。
一瞬、宿を間違えたのかと思って、慌てて外の看板を確認したらアルフさんの銅の帽子亭で間違っていなかった。
リーザさんが俺が心配で様子を見に来たんだとさ。
俺、25歳の大人なんですけど!
しかも、こっちの世界に来てから一年間一人ぼっちで辺境の森に暮らしてひたすら魔物を狩って修行してたんですけど!
まあ、そうは言っても俺なんかを心配してくれる存在がいるのはありがたい。
初めての依頼を受けて、その依頼を完了したと聞いたら、二人で喜んでくれたので満更でもない。
ぶっちゃけ、引っ越しのバイトなんだけどね…
さあ、今日も冒険者ギルドに行って依頼を受けてくるか。
社会人生活をしていた俺は朝の通勤のごとく冒険者ギルドに向かって歩いていく。
これでスーツにネクタイでもしていたら、普通のサラリーマンと大して変わらないよな。
そうこうしてる間に冒険者ギルドに到着だ。
朝から自分のやりたい依頼を見つけようと多くの人が掲示板の前に集まっている。
俺もその人達の中に混ざり、Fランクの依頼を眺めていく。
周りを確認してみるが、さすがに俺の年齢でFランクの依頼が貼られている前にいる人は居ない。
ちょっぴり恥ずかしいな。まるで新しいスーツに身を包んだ新入社員の気分だ。
そういえば、元の世界にいた時は新入社員って雰囲気ですぐわかっちゃったよな。
俺が社会人二年目の春に電車に乗ったら、すぐに「あっ、彼らは今年採用された新入社員だ」ってわかったもん。
独特の雰囲気を醸し出してるんだよな。
俺も周りから見たら新人冒険者だって丸分かりなんだろうか?
その前に、Fランクの依頼が貼られている掲示板の前に居る時点で既にバレバレじゃん!
一人でボケとツッコミをしながら今日の依頼は何にしようかと品定めしていく。
昨日は引っ越しのバイトだったし、今日は別なものにしよう。
ふと見ると、薬草採取の依頼は常時依頼のようだ。
余程、在庫過多じゃなければ依頼書の有無関係なく受け付けているようだ。
今日は街の外でやる依頼を引き受けようかなと依頼書を眺めていると…
おっ、街の外への配達の依頼があるな。
鍛冶屋から品物を受け取って依頼者のところまで配達する依頼らしい。
薬草の採取がてら行ってみるのもいいかもな。
早速その依頼書を剥がし、受付に持って行く事にした。
受付を見るとジーナさんの姿が見えたのでその列に並ぶ。
俺はたまたま最初に受付してくれた人がジーナさんだったので、何となくそこに並んでいるが、冒険者の中には自分の好みや目当ての受付嬢目的で並ぶ人もいるようだ。
俺の二人前の冒険者が何気なく朝からジーナさんを口説いている。
いかにも異世界あるあるの光景だな。
そんな風に思いながら並んでいると、さすがにそういうのは慣れたものなのか、ジーナさんはあしらい上手ぶりを発揮して煙に巻いたようだ。
俺の順番が回ってきて受付の前に置かれた椅子に座り依頼書とギルドカードを出す。
「すみません、この依頼を受けたいのですが…それと掲示板に貼られている常時依頼の薬草採取の事も聞いていいですか?」
「あっ、フミトさんおはようございます」
俺も覚えてもらってるようだ。
「えーと、配達の依頼ですね。鍛冶屋から品物を受け取り荷車を使用しての依頼者への配達になります。それと薬草採取の依頼は常時受け付けております。薬草の種類と採取の仕方がわからなければギルド付属の資料室で調べられますので、行く前に確認して下さい。資料室は二階になります」
「わかりました」
「それでは、依頼を受理したので頑張ってきて下さいね」
受理された依頼書を持ち、二階にあるという資料室に向かう。
資料室と書かれた看板がある部屋はすぐに見つかった。
入り口横に受付があって、持ち出し禁止などの説明を受けて部屋の中に入る。
先客が一名いて椅子に座りながらテーブルの上に本を広げて調べ物の真っ最中だ。
俺もギルド薬草図鑑と採取方法という題名が書かれた本と王国法を手に取りテーブルの上に置く。
この本はしょっちゅう閲覧されているせいなのか、表紙はくたびれている。
えーと、常時受け付けている薬草はハピア草とマピア草とダクシ草か。森や林、草原に生えてるとな。マピア草とハピア草は根っこごと摘み取る、ダクシ草は根っこを摘み取らずに茎から上を摘み取るのか。どれも繁殖力が強いので少し残しておけばすぐに生え広がる。王国法も流し読みしておく。
よし、こんなもんかな。
資料室を出てギルドの外に出る。
まずは依頼を出した鍛冶屋に向かおう。
鍛冶屋が集まってる場所は確認済みだ。その中の一軒のハーゲン鍛冶屋店が依頼を出した鍛冶屋さんだ。
無骨な看板にハーゲン鍛冶屋と書かれている店を見つけた。
建物の中の方から『トンテンカン!』という音が聞こえている。
建物の大きさはそこそこ、大きな扉と小さな扉があったが小さな扉の方をノックしてみた。
「すみません、ギルドの依頼を受けて来ました。ハーゲン鍛冶屋さんはこちらですか?」
暫くすると、扉が開き中から顔に髭がモジャモジャ生えた、肩幅が広く作業着姿の筋肉質のおっさんが出てきた。
あっ! 直感でわかった。たぶんこの人はドワーフ種族の人だ
一応、鑑定眼で確かめたらやっぱり種族はドワーフだったよ。
ラノベを読んでいた知識だとドワーフは極端に小さい種族かと思っていたが、それほどではなく普通よりちょっと小柄くらいだな。見ると聞くとでは違いがあるもんだね。
「おう、いかにもここがハーゲン鍛冶屋じゃ! そしてわしが店主のハーゲンじゃ」
「ギルドから配達依頼を受けて来ました。何をどこへ運べばよいのでしょうか?」
「おまえさんが依頼を引き受けたのか。新しく作った農具と修理した農具、それと鉄の桶を街の外の集落に住んでる農家のアルベルトの所に運んで欲しいんじゃよ。代金は配達料込で貰っとるからそれがおまえさんの取り分じゃ。わしもマルコも今は手が離せないのでのう。そこにある荷車を使ってよい。今日は使わんから夕方までに返せばいいぞ」
農家で必要な農具と大きな鉄のバケツの配達だな。
「ちょっとこっちへ来てくれ。おーい、マルコ積むのを手伝ってやれ!」
「ヘイ、親方!」
工場の中から同じように髭モジャのドワーフさんが現れた。
おー、こっちの人もドワーフだよ。二人共髭モジャだからぱっと見どっちが年上なのか見分けがつかないぞ!
「えっと、アルベルトに渡すやつはここにあるやつじゃ」
外にあった荷車を工場の中に入れ農具や鉄バケツを積んでいく。
俺はステータスが高いのでひょいひょいと持ち上げて積んでいくが、マルコと呼ばれたドワーフも軽々と持ち上げて荷車に積んでいく。ドワーフすげえ!
「おう、おまえさん見かけによらず力持ちだな! これなら大丈夫そうだ」
ハーゲンさんのお墨付きも頂いたようだ。
「じゃあ頼むぞ。アルベルトのところまでの地図を渡そう。東門を出て道なりに行き、二時間くらい歩くと道端に大きな木が五本綺麗に並んで生えてるところで右に曲がる道があるからそこを曲がって道なりに進むとアルベルトの住んでいる集落がある。二軒目の大きな家がアルベルトの家じゃ」
農具も鉄バケツも結構な量なのは集落全体でまとめてアルベルトさんが代表して注文してるからだそうだ。
荷車に荷物を積み終わり出発だ!
「じゃあ行ってきます!」
こうして俺は今日の依頼を完了させるべく鍛冶屋を後にした。
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