第26話 現場に遭遇

 冒険者になって最初の依頼が無事に終わった。

 俺は冒険者ギルドに報告に行く為に歩いていく。

 昼が過ぎて腹が減ったので、途中で見つけた露天で肉を挟んだパンを買い石造りの階段に座って食べた。


 水筒の水で食べ物を胃に流し込みながら、そのうちどこかで綺麗な水を汲んでこないといけないなと思う俺であった。


 そんなこんなで歩いていたらいつの間にかギルドに到着。

 依頼完了の報告をしに受付カウンターに並ぶ。

 ジーナさんは居なかったので、別の美人受付嬢が俺の対応をした。


「次の方どうぞ!」


 呼ばれたので椅子に座る。


「依頼が完了したので報告に来ました。これが依頼完了のサインをしてもらった依頼書です」


「はい、担当させていただくラウラです。えー、依頼完了に間違いありません。フミトさんお疲れさまでした。ではギルドカードを一時お預かりしますのでお貸しして頂けますでしょうか? それと、依頼の報酬は現金で受け取りますか? それともカードに預け入れますか?」


 初めての依頼だから現金で受け取ろう。


「現金で受け取ります」


 そう言って俺はラウラさんに冒険者カードを渡す。

 ラウラさんはカードを受け取り奥の器具で何やら操作してまたカードを持ってきた。

 そして依頼書にラウラさんのサインも書く。


「冒険者になって初めての依頼だったのですね。依頼完了おめでとうございます」


「ありがとう」


 受付で報酬のお金を受け取る。

 報酬額は大銀貨1枚だった。


 少しぶらっと掲示板の前に行ってみる。

 掲示板にはほとんど依頼書は貼られていなかった。


 残ってる依頼ではCランク以上の依頼は魔物の素材集めや討伐依頼などだった。

 迷宮に行く人が多そうだ。

 他には護衛依頼、盗賊の討伐依頼なんかもある。

 護衛依頼はこの前ゼルトさんが受けていた依頼だな。

 盗賊もいるのか。食い詰めた冒険者やならず者が盗賊に身をやつすのだろうか。


 大体、どんな依頼があるのかを確認したので、ギルドの中にあるベンチに座ってぐるっとギルド内を見回してみると、子供から大人になりつつあるような年頃の人がチラホラいる。

 この世界の成人年齢は16歳からだそうだ。

 まだ若いと見るか、もう大人だと見るかは俺でも判断しにくいところだ。

 たぶん、農家や商人の次男坊以下で家督を相続出来ない男の子や、女の子でも活発な子や武芸や魔法に才能のある子が冒険者を目指すんだろうな。


 頑張れよ! 俺も今のところ君達と一緒でランクは同じだ。

 いや、もしかして君達の方が俺より上かもな…


 晩飯までまだ時間があるな。

 武器屋や防具屋でも軽く覗いて帰ろう。


 ギルドを出て武器屋や防具屋の店がある一角に向かっていく。

 マルチマップに地図はインプットされてるので近道を通っていくことにした。

 すると、俺が歩いている路地の前方から何か声が聞こえてきた。


「おい、おまえ金出せよ! 持ってるのは知ってるんだぞ!」


 うわぁ、まさかのカツアゲの現場ですか…


 両方とも成人したかしないかの年齢に見える。

 脅されてる方はちょっと良い服を着てるが、脅してる方は冒険者っぽい格好だ。


 うーん、あれって冒険者になったはいいけど、理想と現実との違いや思うほど稼げなくてムシャクシャしてカツアゲに走っちゃったパターンかな。


 どうしようかと考えたが、さすがに見過ごせないのでね。

 マントのフードを被り、隠密スキルを発動して瞬間移動で一気に近寄る。

 脅してる方の両肩を後ろからガッチリと掴み固定する。


「なあ、そのくらいにしといたらどうだい? それ以上やると俺も見逃せないからね」


 二人共に突然現れた俺に驚き声も出ないようだ。

 俺は脅されていた方に「行け」と言いながら顎でしゃくって早くここから立ち去るように促す。

 それを見た彼は一瞬頷いた後に慌ててここから逃げ出していった。


「さて、今度は君の番だ。後ろを振り向かないように。人を脅して金を巻き上げようとするのは駄目だよね?」


「……………」


「口を聞きたくないならまあいいさ。もしかして君は冒険者かな?」


 一応、鑑定眼で鑑定済みなので彼が冒険者なのは既にわかってる。


 無言だが、首を上下に振って肯定する。


「安易に人を脅して金を巻き上げようとするのはかっこ悪いぜ。そんな事をする為に冒険者になったのか? そうじゃないだろ。依頼は結構あるんだから選り好みしないでもう少し真面目にやってみろよ。そうすればいつか報われる時が来るはずさ。やけにならずに頑張ろうよ」


 暫く無言だったが、少しして震えながら「はい、すみませんでした」という声がしてきた。


「今回は反省したようだし見逃してあげるよ。だけど、もし次に同じような場面を見かけたら今度はこんなに甘くないよ。わかったね」


 そう言うと、俺は彼の肩から手を放してその場から去っていく。


 甘いかなと思ったが、この世界の罪の実情を俺もまだ把握していないし、これで俺と同じ冒険者の彼が少しでもやる気になってくれたらなと思ったまでの行動だ。

 後は彼次第さ。


 でも、本物の悪党は懲らしめるつもりだよ。


 さて、少し時間を食ってしまった。掘り出し物があればいいなと微かな期待をしながら武器屋や防具屋のある一角に向かう俺だった。

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