第78話 王都レガリアに到着
王都レガリアへの旅はこれといったトラブルもなく順調に進み、草原や森を抜けて辺りに大きな畑を見かけるようになってきてからは、そろそろ王都が近いというのを俺に感じさせてくれている。
旅の途中では宿泊地に着くたびに、騎士団長のジェラールさんが模擬戦をしようと、まるで駄々っ子のようにねだってくるので仕方なく俺が持っていた木剣を使って模擬戦をして
さすが騎士団長なだけあって剣の腕前は相当なもので、剣と盾を上手く使った対人戦闘のプロって感じで俺も最初のうちはある意味卑怯とも受け取れるようなその戦いぶりに少し戸惑ってしまった。
だが、仮に戦場で綺麗な戦い方を貫き通して仲間を死なせたり自分が負けて死ぬよりは、どんな手を使ってでも自分や仲間の為に勝とうとする方が、勝てば官軍じゃないけどある意味正しいのかもしれない。
俺自身も神の加護やスキルに助けられている分、どこかに余裕があった気持ちを引き締める機会にもなってジェラールさんとの模擬戦は大変勉強になった。
一応、念の為に言っておくけど、ジェラールさんとの模擬戦は全戦全勝だったよ。
瞬間移動も出さずに純粋な剣のスキルだけで圧倒したし、この模擬戦を通じて自分の癖や弱点を見つけてある程度矯正する事が出来たので、俺にとってもジェラールさんにとっても両者プラスになったのではないだろうか。
部下の騎士の皆さんとも模擬戦をしたけど、「フミト師匠と呼ばせてください」とか、「俺も冒険者になってフミト殿に着いていきます」とか言ってきたので、やんわりと断っておいたよ…汗
さて、街道にも行き交う人の姿が目立つようになり、大きな都市が近くにあるという雰囲気が益々強くなってきたな。
「見覚えのある景色が見えてきたので、あともう少しで王都に着くと思われますぞ」
モルガンさんは商人なだけあって、王都へは定期的に足を運んでいるのだそうだ。
そこで、俺はモルガンさんに質問をしてみる。
「王都のレガリアってどんな街なんですか?」
「そうですね。西方諸国の中でも一番規模の大きい街ですよ。住んでいる人の数も西方諸国の都市の中では最大で経済の中心でもあります。街の歴史も古く、イルキア王国が出来る以前に栄え滅んだ国々もレガリアを国の都としていたと歴史書には書いてあります」
「俺は森育ちなもので、あまりこの大陸の歴史に詳しくなくて不勉強で申し訳ないのですが、イルキア王国の歴史っていつ頃からなんですか?」
「そうですね、イルキア王国が興ったのは確か400年程前と言われています。今の国王が23代目の国王だったと記憶しておりますな。それまでのレガリアの街は東方諸国のアンドール王国から派生した一族が中央山脈を超えてきて300年程レガリアを中心に周辺を統治してたと言われています。今でもレガリアにはその当時の東方諸国の影響を受けた古い街並みが残されていて観光客には好評ですよ」
「へー、アンドール王国って現在のドルナ大陸で一番歴史が古くて大きい国ですよね」
「そうです。一時期はこのドルナ大陸の半分近くを自領にしていたと伝わっています」
「それが何で今は大きいとはいえ規模が小さくなって東方諸国内で収まっているのですか?」
「やはり、国が大きくなりすぎると王家の内紛とか貴族同士の争いがどうしても起きてしまい、国が疲弊して王家の影響力もなくなり国土が荒れてしまいます。アンドール王国もそれらからは逃れられなかったようですね。ただ、今のアンドール王国はドルナ大陸でも特に穏健な国であり、それを面白く思わなかった一部の勢力がアンドール王国から分離独立をしてロビア帝国を打ち立てたのです」
「モルガンさんはロビア帝国に行った事はあるのですか?」
「いやいや、さすがにあそこまでは遠いので…東方諸国にはイルキア王国とアンドール王国との国境を超えてすぐのハマランの街にしか行った事はありません。隠居でもしたらいつかは東方諸国を巡ってみたいと思っていたのですが、王都レガリアに支店を出すので商売の方が忙しくなりそうなので当分はお預けですかな」
「王都支店、繁盛するといいですね。俺も応援しています」
「いや、フミト殿。そんな他人事じゃなくてフミト殿からも助言をお願いしますよ。私はあなたを頼りにしていますから…汗」
モルガンさんとの話が弾んでいたら、脇を並走していた馬上の若い騎士が馬車の中の俺達に向かって話しかけてきた。
「皆さん、王都レガリアが見えてきましたよ!」
その声に促され、馬車から顔を出して進行方向前方を眺めると…緩やかに下っていく街道の前方に城壁に囲まれた巨大な都市がその姿を見せてきた。
遠くからでも大きな都市だとわかるくらいに街を囲む城壁の長さは長大でその高さもオルノバの街の比ではないほど高い。城門も巨大で馬車が余裕ですれ違う様子が遠見スキルで見て取れる。
都市の中央付近には大きな石造りの城が聳え立っており、まるで街全体をその威厳と威容で睥睨してるかのようだ。街中の建物の屋根は朱色で統一されていて、空の青色との対比でより一層屋根の朱色が強調されている。
城壁のあちこちにイルキア王国の王家の紋章である跳ね馬が描かれた旗が風にたなびいていて、この世界の風景や景色に慣れてきたつもりがあった俺でも、暫し言葉を忘れてその壮大かつ優雅な景色に見入ってしまっていた。
「あれが王都レガリアか…大きいな」
「本当に大きい街よね。いや大都市と言った方がいいかしら。あたしは子供の頃に2度程訪れてるけど、ずっと前の事だからほとんど忘れちゃってるわ。だから気持ち的には初めてに近いかも」
「へー、ソフィアはレガリアに来た事があるんだな」
「まあね。ちょっとフミト耳を貸して」
「いいよ」
(ほら、あたしって一応王女だからエルヴィスの友好使節の一員として紹介を兼ねて連れて来られたのよ。ほとんど覚えてはいないけどね)
「なるほどね」
「私は冒険者として滞在していた事がありますぞ。レガリアには迷宮もありますからな」
「レガリアには迷宮もあるんですか? それはそれで興味があるな。エミリアさんのレベル上げも考えてるし」
「フミトさん、私の事も考えていてくれたなんて…」
「そうですな、王都に着いて落ち着いてからそこらへんは説明してあげますぞ」
そして、話しているうちに城門の前に着いたようだ。近くで見ると本当に大きい。城門前には衛兵の詰所があり、レガリアに入ろうとする人達のチェックを行っている。
だが、ラグネル伯爵などの貴族は一般の手続きとは違って、貴族専用の手続きとなるので列に並ばずにレガリアに入れる。
また、普段ならモルガンさんや俺達は一般人の枠なのだが、今回はラグネル伯爵の口利きで簡単なチェックだけでレガリアに入れる事になった。
馬車は大きな城門を潜り、レガリアの街の中に入っていく。
ようこそレガリアへ…俺は街が俺達を歓迎してくれているような気がした。
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