第3話 ありがたい贈り物

「ステータスクローズ」


 たった今、どこからか謎知識が俺の頭の中に入ってきて覚えたこの言葉で今まで見えていた半透明のボードは目の前から消えた。


「よし、一旦気持ちを整理してみよう」


 今までの事を振り返ってみる。


 俺は自宅に帰る途中であの現象に襲われたとこまでは覚えている。その後記憶がなくなり目覚めた時は森の中に倒れていた。


 つまり、総合的に考えるとどうやら俺はあの現象が原因でこの世界にやってきたようだ。だが、俺は別の世界に飛ばされてもこうして生きている。


 何とも不思議な状況ではあるが、今の俺は好奇心の方が断然勝っている。

 平凡な日常から脱したいと常々思っていた俺は不安よりも未知の世界に対する期待の方が遥かに大きいのだ。


 意識を取り戻した時の心細さや不安はここが憧れていた異世界だという可能性が決まった後はほぼ無くなっていた。

 あと、この平凡な俺が選ばれたというのも滅茶苦茶嬉しい。


 ふと、なにげに目の前の台を見下ろすと今までそこになかったものが置かれていた。とりあえず確認してみる。


 鞘に収められた金属の剣

 革の鞘に収められたナイフ

 黒光りした金属の手斧

 黒色の革の鎧

 茶色の革のブーツ

 フード付きの茶色のマント

 紺色のシャツ

 カーキ色のズボン

 丈夫そうな革のベルト

 短パンのような形の下着?三枚

 ベルトと紐がついた革のバッグ

 口に栓がある金属の水筒

 何やら文字が書かれた腕輪

 そして指輪が四個


 ──これってもしかしたら神様からの贈り物?


 俺は顔を上に向け、太陽のような紋章の彫刻に向かって言葉をかける。


「まだよくわかってないけど、俺の為に用意してくれたのならありがとう」


 そう感謝の言葉を口に出すと、気のせいか身体が少し光ったような気がした。


 神様がこれを俺にくれたって事は、この世界はこれらの物が必要な世界なのだろうか。俺だって異世界ものの小説やラノベを読んでいたので知識はそこそこある。きっと魔物と戦ってレベルも上がる世界に来てしまったんだな。


 そして、この世界の神様が俺が困らないように加護や装備、道具を与えてくれたのだろう。


 こうなった以上は理屈がどうのこうのじゃなくて、今の現状を受け入れて俺自身がこの世界に馴染むのが先決だ。そう自分で納得する俺なのであった。


 気持ちを切り替えたところで、そうとなったらとりあえず現状認識と確認だ。ひよっこで新人に毛が生えたようなものだが、社会人だった俺は確認の大切さを知っている。


 まずは再度ステータスの確認だ。


「ステータスオープン」


 そう唱えるとさっき見たステータスボードが現れた。


 名前:フミト ウエノ

 種族:ハイヒューマン

 年齢:24

 職業:

 状態:普通


 Lv.1

 HP:216

 MP:262

 筋力:238

 魔力:282

 精神:201

 敏捷:227

 運 :862


《スキル》

 言語理解(アーク語)


《魔法》


《加護》

【アーク神の加護】


《ユニークスキル》

【神の気まぐれな力添え】



 上から順に確認していく。

 名前はちゃんと俺の名前だな。

 だけど、名字が後になってるからこちらの世界ではそれが普通なのかな。

 次に種族と…


「えっ! ハイヒューマン?」


 ちょっとちょっと、ハイヒューマンって何ですか!?

 俺、普通の人じゃないの?

 種族が変わってるんですけど!


 まあいいや、現実逃避をする訳ではないが、とりあえず今はそれを後回しにして他の項目の確認を続けよう。


 年齢はそのまんまだな。

 職業が空欄なのはまだこちらの世界で職業に就いてないからか。

 状態は普通、これは病気などに罹ってない普通の状態って事か。


 Lv.1 この世界では当然のごとくまだ俺はレベルが1なんだな。

 HP これは生命値でいいのかな。0になると死んでしまうと認識すればいいか。

 MP これはマジックポイントだからどうやら俺は覚えれば魔法を使えるらしい。異世界ものの定番だな。


 筋力、魔力、精神、敏捷、運。

 ここらへんは俺の基本ステータスか。

 これらの数値が高いのか低いのか?

 この世界の平均値がいくつなのか情報がないので何とも言えないな。

 ただ、運の初期ステータスが高いのは嬉しい。

 もしかしたら運頼みみたいなパターンもあるだろうし。


 次にスキルの確認だ。


 言語理解(アーク語) これってこの世界の言葉なのかな? この世界の人とまだ遭遇していないし、話してもいないので保留だな。


 魔法はまだ覚えていないようだ。まあ、この世界に来たばかりだし、俺に適性があればこれから少しずつ覚えていくのだろう。


 そして加護。ボードにはしっかりと【アーク神の加護】が表記されている。


 いやぁ、神様からの加護を頂いたのはありがたい。


 だってさ、右も左も分からないこの世界で神様からの加護は心強いし心の支えになるじゃん。


 もしかして神様からの加護を貰ったので種族が変化したのかもね。


 これなら種族がハイヒューマンになってる理由になる。何が変わったのか現時点で判明していないがそのうちにわかってくるだろう。


 で、最後にユニークスキルだな。


【神の気まぐれな力添え】


「なんだこれ?」


 言葉の通りだと、神様が気まぐれに力を俺にくれるのかな? 何だかよくわからないや。スキルなのか神様からの特別な恩恵なのか知らないが、そもそも気まぐれなんてアバウト過ぎるだろ!


 ステータスの確認はこんなところか。次に目の前の台にある装備の確認でもするか。


 さて、装備の確認だ。目の前に置かれたものを手に取って確認してみよう。


 まずは剣からだ。

 柄には革が巻かれ滑り止めになっている。

 右手で柄を握り剣を持ち上げてみる。

 見た目と違ってすこぶる軽い。

 加護を貰って俺の筋力が上がったのか、それとも剣自体が軽いのか判断がつかないがめちゃくちゃ軽いのは確かだ。


 これなら剣を振るうのも楽そうだな


 鞘から出すと、両刃の剣の刃の部分は鏡のように研ぎ澄まされ綺麗な刃紋が浮き出ている。そしてよく見ると、刀身の根本には何やら魔法陣のようなものが刻印されている。綺麗なだけでなく、とても切れ味が良さそうな剣だ。


 ──俺の顔が刀身に写ってるな。


 笑ってみる。

 しかめっ面をしてみる。

 ゴリラ顔をしてみる。

 ひょっとこみたいな顔をしてみる。


 いやいや、そんな事をしてる場合じゃないだろ。


 気を取り直した俺は剣を置き、全長20センチ程の片刃ナイフを手に取った。

 これも鞘から出すと、先程の剣と同じように研ぎ澄まされた刀身が姿を見せた。もの凄く切れそうな感じだ。


 次に手斧。

 これは剣やナイフと違って黒光りしていかにも頑丈そうだ。石でも簡単に割ってしまいそうな雰囲気を醸し出している。なかなか使えそうだ。


 手斧を置き、革の鎧を手に取ってみる。胴の部分を覆うタイプだ。これもすこぶる軽い。持っている感覚がしないほどだ。

 何の革を材料にしてるのか知らないが、この黒っぽい革は軽い上に頑丈そうだ。身を守る装備としては動きやすく軽いのはありがたい。剣を背負う為の帯まで付いている。


 次は茶色のブーツ。今履いている通勤用の革靴を脱いで早速履いてみよう。

 だってほら、足は靴擦れとかあるから革を馴染ませないといけないじゃん。


 履いてみると膝下くらいまでの長さだ。革は足にフィットして、これなら足の動きを阻害しなさそうだ。普段、こんなブーツを履く機会がないので新鮮な気持ちになる。


 さて、次はフード付きのマントだな。これも手に取ってみるとめちゃくちゃ軽い。試しに羽織ってみる。何かいい感じ。


 次に紺色のシャツとカーキ色のズボン。そして短パンのようなもの。これって神様がこの世界の普段着や下着を用意してくれたのかな。


 こんなところまで気遣ってくれるなんて気が利いてるぜ。


 革のベルトを手に取ってみる。こちらにはナイフやポーチなどを括り付けられるような工夫が凝らしてあった。細かい気配りマジ便利そう!


 ベルトを戻して水筒を手に取ってみる。口に栓がしてあるので外してみると中は空だった。


 次は革のバッグだな。物を収納するのにこういう袋は便利だからとても嬉しいね。

 試しにさっき脱いだ通勤用の革靴を入れてみるか。靴の底同士を軽くパンパン叩いて土や埃を落とし、バッグの入り口に近づけていく。

 すると、手に持った靴がスポッと引き込まれるように袋の中に入っていった。中を覗くとモヤモヤとした空間が広がっている。


 これってもしかしてマジックバッグってやつですか!


 袋に触れてると、中に入ってる物が何かわかるようになってるな。

 いやー、小説や漫画では知っていたが、実際にマジックバッグの現物を持ってみると感動モノですよ奥さん!


 容量はどれくらいなのか知らないが、結構な量が入りそうだ。


 感動の余韻そのままにマジックバッグを一旦台の上に戻し、腕輪と指輪を手に取ってみる。腕輪には何やら不思議な文字が書かれてる。だけど、なぜか俺は言語理解のスキルのおかげだろうかその文字を読む事が出来た。


《加護の腕輪》と読める。どんな加護なのか現時点では不明だが、たぶん俺にとって役立つものだろう。


 最後に指輪だ。これは四個ある。シンプルな何の変哲もない銀色の指輪だ。とりあえず一個だけ指に嵌めておくか。

 利き腕じゃない左手の薬指に嵌めてみると、何らかの調整機能が付いてるのかぴったりとマッチした。


 一通り確認を終えた俺はようやく一息ついたのだった。


 見知らぬ場所に来て最初は不安だった俺だけど、神様からの加護を貰いなんとなく状況が掴めてきたので精神的にも余裕が出てきたようだ。今は不安よりもこの状況を確かめてみたいという気持ちが大きくなってきた。

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