第21話 美人剣士に付き添われて

 オルノバの街に入る。

 正面の門からは真っ直ぐな道が続いている。

 遠くにはまた城壁が見えている。

 あそこの中に領主の館があるそうだ。

 左右には欧州の旧市街のような町並みが続き、まるで中世の時代に紛れ込んだようだ。

 石畳の道も綺麗で衛生環境は結構良さそうだな。


 俺は左右をキョロキョロ見ながら荷馬車の横に着いて歩いていく。


 そんな俺を見たゼルトさんとリーザさんが…


「そういえばフミトは森に住んでたから街は初めてだよな!」

「迷子にならないようにあたし達に着いておいで!」


 トランさんとポーラさんはキョロキョロしてる俺を微笑ましげに見てる。


 他人からは田舎から上京してきた都会を知らない青年って感じに見えるのだろうか。


 まあ、俺も元の世界では一応都会住みだったとはいえ、こんな中世っぽい町並みの中を歩くのは初めてなので興奮してるからお上りさんに見られても仕方ないか…


 俺達一行はまずモルガン商会に向かうらしい。積荷を依頼主の店まで最後まで安全に届けるのが依頼内容だしな。

 暫くこの道を真っ直ぐ進んで大きな交差点を左に曲がるとすぐにモルガン商会に着き店の裏側にまわる。店の中から店員が出てきて作業を始める。


 依頼完了としてモルガンさんが羊皮紙にサインをしてゼルトさんに渡した。この依頼主のサインがある羊皮紙をギルドに持っていけば無事に依頼完了だ。

 そしてゼルトさんは護衛任務道中の途中で倒した魔物の素材をギルドに行ったついでに買取りをしてもらうのだそうだ。


 モルガンさんが俺に近づいてくる。


「フミトさん、何か困った事があったら私を訪ねてきなさい。いつでも歓迎しますぞ。それにこれを渡しておきます」


 モルガンさんは俺にモルガンさんのサインが書かれた名刺を渡してきた。


「これを持って私の店を訪ねてくれば私か私の息子がいつでも対応しますぞ」


「ありがとうございますモルガンさん。何か困った時があったら訪ねるようにします」


 モルガンさんの好意に感謝する俺。


 ゼルトさんが俺に声をかける。


「おい、フミト! おまえにも魔物の素材の分け前を渡すから俺達と一緒に冒険者ギルドへ行こう」


 リーザさんも「フミトはついでに冒険者登録もしないとな。あたしが一緒に付いていってやるよ!」


 リーザさんは勝手に決めてるし。しかも、お姉さんに一緒に付いてきてもらう過保護な弟のようで恥ずかしいんですけど!


 俺達はモルガンさんの店を離れ冒険者ギルドに向かう事になった。元の道に戻り、交差点を左に曲がって進んでいく。


 トランさんが説明してくれる。


「ギルドや役所はこの先の一角に固まってあるから覚えておくといい。私達が入ってきた門が西門、その他に東門と北門がある。宿屋や飯屋は東門側が多い。北門は迷宮に行く時に使う門だ」


 俺のマルチマップスキルが絶賛お仕事中で、どんどん地図に新しい情報が入ってくる。


 暫く歩くと、剣と盾をモチーフにした紋章が正面扉の上に掲げられてる大きな建物に到着した。冒険者ギルドだ。脇の方には建物の裏側に続く道があり、たぶんギルドの裏側に行けるようになってるのだろう。


 木の扉を開けて俺達は中に入る。扉を開ける『ギーッ』という音に気づいた人達が何人かこちらに顔を向けるが、すぐに関心がなくなったのか元に戻る。


 ギルド内部を見渡してみる。受付カウンターと思われる場所が何ヶ所かあり、そこには受付嬢が座っている。その横には仕切りを挟んで大きなカウンターが有り、上の看板には査定所の文字が書かれていた。


 一番手前には大きな掲示板があり、ここに依頼を貼り出すのか、依頼書らしきものが何枚か貼られている。奥の方にはテーブルや椅子が置いてあり酒を飲んだり食事をしてる人達の姿が見える。


 その中の一人が俺達に気づいたようで声を掛けてくる。


 あっ、これってラノベにあるようにお約束の展開なのかなとちょっと身構える。


「よう! ゼルトじゃねーか! 暫く見なかったが依頼でどこか行ってたのか!?」


 どうやらゼルトさんの知り合いのようだ。

 ゼルトさんがその知り合いに対して答える。


「おうよ! 一週間くらい依頼でこの街を離れてたんだ。さっき帰ってきたところだ」


「ゼルト! 儲かったんなら俺に酒でも奢ってくれよ!」


「馬鹿言ってんじゃねー! おまえにはこの前奢ったばっかだろ!」


「ちぇっ! 覚えていやがったか!」


 どうやら腐れ縁の知り合いのようだ。

 驚かせないで欲しいな…汗


 絡まれて騒動になるお約束の展開にならなくてホッと胸を撫で下ろす。


 ゼルトさんは皆からギルドカードを預かり、モルガンさんから渡されたサインが書かれた羊皮紙を持って受付カウンターに行き、トランさんは査定所に向かうようだ。


 査定所と書かれた看板の下の大きなカウンターにトランさんがバッグの中から魔物の素材や魔石を置く。座っていたギルド職員が来て素材の査定を始めた。


 ギルドには鑑定スキル持ちの査定職員がいて、冒険者が持ち込む素材などを鑑定して買取額を決めるようだ。

 ここもお姉さん達がいる一般受付と業務はほぼ同じで、主に素材の買取と評価をしてくれる場所だ。

 鑑定スキル持ちの中でも経験豊富な人がギルドから正式に査定士の資格を与えられているので、査定に文句を言う人は滅多にいないんだってさ。


 どうやら査定が終わったようで、査定職員の「こりゃめったに見ない珍しい素材だな」という声が聞こえてくる。


 珍しくトランさんの顔がニヤニヤしてる。


 査定職員が一旦奥に行き、お金を布袋に入れて持ってくる。一般受付で手続きが終わったゼルトさんがこちらに来て皆のギルドカードを査定カウンターに置いた。

 査定職員がギルドカードを受け取り事務手続きをしてお金をトランさんに渡す。カウンターに置かれた袋を掴み、トランさんがこちらに歩いてきた。


 ゼルトさんが「よし、あとはフミトの冒険者登録をしたら一旦俺達の宿に行って金の配分をしよう」


「じゃあ、あたしはフミトの付き添いでフミトの登録に一緒に行ってくるよ」


 リーザさん、本当に付き添いで来るのかよ!


 まあ、いいか。諦めた俺は大人しくリーザさんに連れられて受付カウンターに向かうのであった。


 受付は4つあってそれぞれに受付嬢が座っている。皆、美人揃いだな。

 一番左の、金髪碧眼で髪を後ろでまとめた年齢は二十歳くらいの受付嬢が居るカウンターの前に置かれた背もたれのない椅子に座る。俺が何かを言うよりも早く、リーザさんが後ろから俺の首に腕を回しながら受付嬢に向かって話しかける。


「こいつ、フミトって言うんだけどさ。冒険者登録させて欲しいんだ! よろしくな!」


 俺の言うべきセリフを先に言うリーザさん。

 しかも胸が背中に当たってるって!

 受付嬢も苦笑いだ…


「わ、わかりました。私は受付嬢のジーナと申します。それではこの用紙にお名前と年齢、性別を書いてもらえますか? もし、字が書けないのなら私が代筆致します」


「大丈夫です。字は書けると思います」


 とりあえず、備え付けの羽ペンで名前と年齢と性別を書く。言語理解の効果なのかスラスラと書けるぞ! 名前だけで名字は書かなくていいな。


 後ろでそれを覗き込んでいたリーザさんが「フミトは25歳なのか! あたしの弟みたいなもんだな!」


 俺はリーザさんの弟キャラ決定っぽいなこりゃ。


 書き終わった用紙を受付嬢に渡す。


「暫くお待ち下さいね」


 そう言って奥にある何かの器具の前に行く。器具を操作した後、一枚のカードを持ってきた。針で指に傷をつけ、血を一滴ギルドカードに垂らしてくれと言われたのでそのとおりにした。


「これがフミト様専用のギルドカードになります。ギルドは銀行業務も兼ねておりますので、カードにお金を預けておく事が出来ます。このカードはフミト様専用のカードなので個別番号で預け入れや他の人からの振り込みは自由に出来ますが、引き出しは本人の同意とギルドの確認がなければお金は引き出されません」


 このカード、なにげに凄いな!


「続けてギルドランクの説明を致します。ギルドランクは上からS→A→B→C→D→E→Fの順になっており、フミト様はFランクからの始まりになっております。依頼を受けられるのは自分のランクの1つ上のランクの依頼まで。但し、FランクはFランクの依頼しか受けられません。一度受けた依頼を途中で放棄したり失敗した場合はペナルティ料金を頂く事になりますのでご注意下さい。三回連続してペナルティを受けるとギルドランクが降格致します。あまりにも酷いようですと、冒険者資格を剥奪される場合もあります。依頼は横にある掲示板に毎日貼り出されるので、自分の受けたい依頼がありましたらその依頼書を持って受付に来て下さい」


 受付嬢の長い説明が終わった。そして鉄色のギルドカードを受け取る。


「説明は以上です。何かご質問はありますでしょうか?」


「いえ、ありません。丁寧な説明ありがとうございました」


 後ろにいたリーザさんが勢いよく俺の肩を叩く。


「頑張れよフミト! これでフミトもあたし達と同じ冒険者だ!」


 こうして俺は異世界で冒険者としての第一歩を踏み出す事になったのだった。

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