第20話 街に到着
その後、一度起きて俺の番の見張りの役目を終え、トランさん達にバトンタッチした後、もう一度軽く眠りについた俺は朝日の光に起こされて目を覚ます。
起き上がって周囲を見渡すと、見張り中のトランさんとマテオ君と目が合いお互いに軽く手を振って挨拶をする。
ゼルトさんはまだ
エルナン君とモルガンさんも既に目を覚まして起きているようで、二人共身支度を整えながら俺に向かって挨拶をしてきた。
ポーラさんは一番早く起きて食事の準備を始めようとしてるところだ。
トランさんと一緒に宿屋の商売を目指すだけあって、こういうところはさすがだなと感心する。
リーザさんが目を覚まし、隣で寝ているゼルトさんにいい加減起きろとパンチを入れている。
パンチを受けたゼルトさんが「うっ!」と苦しそうな声を出して目を覚ます。
思わず吹き出しそうになってしまった。
皆で車座になって朝食を取る。
移動中は大体干し肉と野菜スープの食事だそうだ。
そりゃ俺みたいにアイテムボックスや高機能マジックバッグがあって、いつでも出来たての温かい食事が取れるわけじゃないしな。
改めて自分の恵まれた境遇に感謝する。
朝食が済んで馬にも草を食べさせ水をやり暫く休憩したら出発だ。
予定では今日の午後にオルノバの街に到着予定らしい。
昨日と同じメンバーで二台の荷馬車がオルノバの街目指して走っていく。
徐々に街に近づいてきてるのか、周囲の景色が平原から麦畑らしいものに変わってきた。向こう側には小さな川も見える。
奥の方の丘陵にはぶどう畑のようなものもあるようだ。
昼休憩の時に聞いてみたが、この地方は作物などの生産に適しており、麦の他にも葡萄、オリーブ、じゃがいもなど、多くの種類や量の作物が生産されているんだって。
遠見のスキルで見たら、休憩中の農民達が談笑している姿が見えた。
どこかで聞いた言葉の記憶が蘇る。
土地が肥え、多くの作物が収穫出来、笑顔の農民がいるならば、それはそこを治める人が善政を敷いている証だと…ね。
ここの領主、ラグネル伯爵には今のところ好感が持てそうだ。
まあ、実際どんな人なのか自分の目で確かめるまではわからないけどね。
そうして、荷馬車の後ろに乗ってポクポクと揺れに身を任せていたら前方を走ってる荷馬車からモルガンさんの声が聞こえてきた。
「そろそろオルノバの街が見えてきますぞー」
ようやく街に到着するようだ。
あの森を旅立ってから一週間が過ぎた。
森の拠点から700キロ近く離れてるのかな。
ステータスが上がってるので俺はそんなに疲れないが、飛行機や電車を利用しないで移動したと思うと元の世界との感覚の違いに驚くね。
こっちの世界の人はそれが当たり前なんだからちょっと尊敬しちゃうよ。
街道はちょっとした丘を越え緩やかに進んでいく。
俺は荷馬車の腰掛けていた場所で立ち上がり、積荷の右側から顔を出して前方を確認した。
遠くに街の周囲を囲う城壁が見えてきた。
どんどん街が近づいてくる。
石組みの城壁の高さは3メートルほどかな。
街道の正面に大きな門も見える。
その脇には衛兵と思われる鎧を着た兵が人の出入りをチェックしてるようだ。
そして俺達の荷馬車は大きな門の前に到着した。
モルガンさんが代表して衛兵に何やらカードと羊皮紙のようなものを出し確認を取っている。
衛兵がこちらの荷馬車を確認して納得したようで通行の許可が下りたようだ。
するとモルガンさんが俺の方に歩いてきて、衛兵のところまで私と一緒に来てくれと頼まれた。
俺がモルガンさんに着いていくと衛兵が俺の顔を見てモルガンさんに確認した。
「この人ですか? 入場許可が欲しいという人は」
「そうです、この方は名をフミトさんといいます。身分を証明するカードはないがこの街に入る許可を頂きたい」
「わかりました。では、こちらにある石版の上に手を置いて下さい」
衛兵小屋の前に四角い石版が置いてあり、手形を付けるように手の平を押し付けるのだそうだ。
衛兵に言われた通りに石版の上に自分の手を置く。
手の平をスキャンされたような感覚がしたが何も変化はなかった。
衛兵が口を開く。
「犯罪歴もないようですし、奴隷としての逃亡歴もないので入場を許可します」
ちょっと緊張したけど一安心だな。
「では、仮の身分証を発行しますので街の中の冒険者ギルド、商人ギルド、職人ギルド、農業ギルドのいずれかで個人カードを発行してもらってください」
俺は「了解した」と答え、仮身分証を受け取る。
手続きが済んでホッとしたのもつかの間、衛兵が俺にこう言った。
「街への新規入場者からは入場税を頂くことになっております。銀貨1枚です」
えっ、新規は入場税がいるの?
俺、お金持ってないんだけど!
それを横で聞いていたモルガンさんが
「心配なさらなくていい、入場税は私が出しますので。魔物の襲撃から助けて頂いたのですからこれくらいお安いご用です」
と、言いながらさっさと衛兵にお金を払ってくれた。
「これで全て大丈夫ですな。それでは皆さん街へ入りましょう」
俺以外の一行は衛兵にカードを提示して入場していく。
俺もそれに続いていく。
そして俺は初めての街に足を踏み入れるのだった。
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