第19話 ここはドルナ大陸
商人のモルガンさん一行七人と俺を加えた八人はここから東にあるというオルノバの街へ向かって馬車に揺られている。
各々の荷馬車に四人ずつの分担だ。
先頭の馬車の御者席には御者のマテオ、その左横にリーザさん、右横にモルガンさん、そして荷馬車の後ろに腰掛けてるのがゼルトさんだ。
そりゃそうだよな、ゼルトさんみたいな巨漢が御者席に座ったら窮屈そうだもんな。
後ろの馬車の御者席には御者のエルナンと、トランさんとポーラさんの夫婦が座っている。
俺はというと、後続の荷馬車の後ろに座って一応後方監視のお仕事だ。
まあ、護衛の依頼を受けた訳ではないが、街まで荷馬車に乗せてってもらうのでこれくらいのお仕事はどうってことない。
むしろ、移動中に色々と根掘り葉掘り聞かれるよりは一人の方が気が楽でいいかもな。
魔物との戦闘が終わったあと、毛皮や魔石などを剥ぎ取ってトランさんのバッグに入ってる。
変異種の毛皮や魔石は良い値段になりそうだとモルガンさんが言ってたな。
護衛依頼中に倒した魔物は冒険者の取り分になるそうだ。
ゼルトさん
どうやら俺も貰えるらしい。
さっきトランさんが魔物の素材をバッグに入れていたので、なにげなくマジックバッグみたいのがあるのかと聞いてみたらあるらしい。
この世界には迷宮があり、そこで隠し部屋、ボス部屋にある宝箱の中にたまに入っているんだってさ。
モルガンさんも持っており、貴重で高価な商品や割れやすい物、仕入れのお金などを入れているようだ。
容量は大中小さまざまあってモルガンさんが持ってるものは大で荷馬車一台半くらいの容量らしい。
冒険者パーティーはトランさんが荷馬車半台分の容量の小のバッグを持っているようだ。
ただ、一応聞いてみたが容量が底なしで時間がストップするような物は見た事がないとの事。でも、極稀に見つかるアーティファクトならもしかしたらあるかもしれないって言ってたな。
迂闊に俺のマジックバッグの事は詳しく言わない方がいいなと俺は肝に命じたのだった。
そんなこんなで夕方になり今日の野営地に到着。
街道沿いには旅の人や商人が野営しやすいようにちょっとした広場が街と街の間に何ヶ所か整備されている。
簡易的な石組みの
一年中、葉が繁ってる木が植えられており雨除けや陽射し除けの役割をしてるんだってさ。よく考えられてるな。
今のところ、今日この場所を利用するのは俺達一行だけっぽいね。
ポーラさんが飯の準備を始める。
その横でトランさんが火を起こす。
ポーラさんは大きめの鍋を荷馬車から持ってきてトランさんに頼んで水魔法で水を入れて貰った後に何やら具材を入れている。
野菜スープを作るようだ。
そして鍋の具材が煮えるまでトランさんが袋から出した干し肉を取り出し配っていく。
木の椀のような物は余分にあったらしく俺だけ仲間外れにはならなそうだ。
ようやくスープが出来上がり、各々の椀に盛り付けられる。
味付けは塩と胡椒だけだが野菜の旨味が出てとても美味しい。
なぜか俺は冒険者パーティーの真ん中に座っていて、俺の左隣りは美人剣士のリーザさん、右隣りはポーラさんが座ってる。
一行の人達とも徐々に打ち解け話をしてみると、モルガンさんはオルノバの街でかなり大きな商店を経営しているとのこと。
歳は46歳で息子が番頭として働いており、いずれモルガンさんの店を継ぐそうだ。
若いマテオとエルナンは店の護衛兼店員で、モルガンさんが商品を仕入れに行く時は御者として、そして護衛としてモルガンさんに付いていくそうだ。
ただ、護衛といっても強い魔物相手には勝てないので、遠くに行く時はゼルトさん達のように冒険者パーティーの護衛を雇うのが普通だそうだ。
ゼルトさんは歳が28歳、妻のリーザさんも同い年だとの事。
あんなに顔がいかつくてプロレスラーばりのゴツい身体なのに俺と歳が大して変わらないのかよ。
そう思いながら、俺が口をあんぐりと開けているとリーザさんが
「ゼルトはこう見えて意外と優しいところもあって面倒見が良いのさ」
だよな、こんな美人と夫婦になるんだから何かしら良いところがないと一緒にならないよな。
「おほほ、ゼルトさんは私の主人の次に頼もしいですわよ」
ポーラさん、なにげにさらっと
トランさんとポーラさんの夫婦だが、トランさんが40歳、ポーラさんが41歳だそうだ。
ゼルトさんとリーザさんの二人とは三年前にパーティーを組んだそうだ。
何でもそれまで一緒に組んでいたパーティーメンバーが田舎に戻る事になってパーティーを解消して新しいメンバーを探していたらゼルトさんとリーザさんを紹介されたんだって。
ゼルトさん達も丁度パーティーを解散したタイミングだったので渡りに船とすぐに受けて同じパーティーになったらしい。
そして彼らはCランクのパーティーだそうだ。
トランさんとポーラさんはあと何年か冒険者を続けたら引退して、今まで貯めたお金を元手に街に宿屋を開きたいと思ってるのだそうだ。
そんなこんなで他愛のない話を続けていて、色々とこの世界の情報も仕入れる事が出来た。
ここらへん一帯を治めるのはラグネル伯爵という貴族で、これから向かうオルノバの街はその領都。街の人口もそれなりに多くて、近くに迷宮もあり賑わっているらしい。
へー、迷宮もあるのか。最初の街としては当たりっぽいな。
そしてここはドルナ大陸の西方にあるイルキア王国という国だそうだ。
ドルナ大陸には他に5つの国があり、大陸の西側はイルキア王国と南にはグラン連邦国。そしてイルキア王国の左上にはエルヴィス国がある。エルヴィス国と俺が住んでいた大森林は川を挟んで繋がってるようだ。俺が居た大森林は一応イルキア王国の範疇に入っているらしいが、迷いの大森林と恐れられて開拓対象から外れているらしい。だから正式には誰の領地でもないそうだ。
大陸西方では、ここイルキア王国が一番領土が大きく、国の規模や人口も西方諸国の中では一番なのだそうだ。
グラン連邦国は商業や鍛冶が盛んで、小さな都市国家が集まり連邦国家の体制を取っている。優秀な職人や商人を多く排出してる国だ。
イルキア王国とも商業取引を通じて良好な関係を築いている。
大陸の東側は歴史的に古くからあるアンドール王国が一番大きい。
だが、アンドール王国から分離独立したロビア帝国が最近力をつけてきてるそうだ。南のアスラム王国は独自の文化を持っている国で変わった文化が発展していて面白さでは一番なんだって。
大陸全体では、東方のアンドール王国とロビア帝国の間で小競り合いがあるそうだが、西方諸国はここ最近は大きな諍いもなくとりあえず安定しているらしい。
ドルナ大陸の北東に島があると伝わっているが、海が常に荒れている事が多く、海中にも強い魔物がいて船での航海自体が難しいらしい。本当の強者だけがその海を渡れると言われている。
ドルナ大陸の真ん中には西側と東側を分断するように南北に連なる大山脈が鎮座しており、その山々の景色は壮観らしい。
標高の低い安全なところでは東西を繋ぐ街道が複数整備されていて、イルキアとアンドール、イルキアとロビアとの間にも商人や旅人が行き交う交易路がある。
俺にとってこの世界の地理的な情報を得られて有意義な時間だった。
楽しいひと時も終わり、食事の片付けをした後、今夜の見張りの順番を決め、各々就寝する事になった。
今夜の見張り当番は最初にゼルトさんとリーザさん。次に俺とエルナン君。最後にトランさんとマテオ君だ。
ポーラさんは朝晩の食事担当なので見張りから外れてるのだそうだ。
色々と忙しい一日だったが、俺は見張りの番が来るまでの眠りについた。
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