第64話 お家騒動

 観光の街トルニアへ向かう旅の途中で正体不明の敵の襲撃を受けた俺達一行。

 見事にその敵を撃滅し、貴重な証人として捕虜2人を確保した。

 それまでの旅が順調だっただけに、予期せぬ襲撃はまさに寝耳に水の出来事だった。


 後方で指揮をしてた敵のリーダーっぽい人物が、戦況が不利になると見るや逃げ出したので、俺がそいつを確保したところ、レノマさんによる人相確認でレノマさんの叔父上の使用人なのが判明した。


 これは何やら一気にきな臭い匂いがしてきたな。


 とりあえず、俺達は現場の処理をしてこの先の集落に向かったシルベスタさんが人を連れてくるのを待つ事になった。


 ゼルトさん達が俺達に近づき労いの言葉をかけてくる。


「フミト、また助太刀してもらったな。ありがとう。礼を言うぜ」

「全く、あたしの弟分は最高の男だよ」


「いえいえ、礼を言われる程の事は…それにリーザさん、最高なんて褒めすぎです」


「いや、私からもお礼を言わせてもらうよフミト君」

「おほほ、謙遜しなくていいのよフミト君」


「トランさんやポーラさんまで…何か恥ずかしいな」


「フミト、おまえから貰ったこの大盾は凄いな。力が盛々湧いてくるぞ」

「あたしが貰った剣も最高の切れ味だったぞ」

「私の杖も申し分なしだよ」

「おほほ、このローブ私に似合ってるでしょ」


 俺があげた装備も今回の戦いで役に立ったようで何よりだ。


「しかしよ、フミトのパーティーは凄く強いな。俺達の約2倍の敵をあっさりやっつけちまうなんてよ」


「クロードさん達の魔法が凄いんですよ…汗」


「フミト、いつでもあたしが相手してあげるからその気になったらおいで!」


「………」


「いや、だからゼルトさんが困った顔してますって…リーザさんは相変わらずだな」


「「「あはは!」」」


 リーザさんは本気か冗談なのかわからないが、いつもの調子で場の空気が和む。

 これって天然のムードメーカーってやつかもな。


「フミト殿、ちょっとよろしいかな」


 クロードさんが手招きをして俺を呼んでるな。


「なんですか? クロードさん」


「いや、先程レノマ殿がチラッと叔父上がどうのこうのと言っていたではないですか」


「ええ、捕虜にした1人の顔を見てそのような事を言ってましたね」


「私の見立てではもしかしたら、お家騒動の類いではないかと…」


「やはりクロードさんもそう思いましたか…」


「ですので、まだ一騒動あるやもしれません。警戒するに越した事はないかと…」


「はい、俺も最大限の注意を払う事にします」


 さて、事後処理はまだ終わっていない。

 道を塞ぐように横たわった倒木をどうにかしないとな。

 俺はアイテムボックスの中から手斧を取り出す。

 久しぶりに使うが、この手斧はスパンスパンと良く切れるんだよな。

 倒木のところまで歩いていき、魔力で手斧を大きくして振りかぶって倒木に叩きつける。


『スパン!スパン!スパン!』


 数回叩きつけたら太い倒木が真っ二つだ。

 相変わらず、神様から頂いた手斧は切れ味抜群だ。

 サクサクと輪切りにしていき、ポイポイっとマジックバッグに放り込む。

 へへ、俺は斧術のレベルも高いんだ。


「凄いわねフミト。木こりになれるんじゃないの?」


「斧を自由自在に振るう男の人って素敵ですね」


 ソフィアは呆れ顔だ。

 エ、エミリアさん、うっとりしてるけど急にどうしたの?


 道に横たわった倒木の処理を終え、皆のところに戻ると丁度捕虜が目を覚ましたらしく尋問が始まる。


「僕達を襲った理由を聞かせてもらおうか?」


 レノマさんが2人の捕虜に質問すると…片方の髭面の捕虜が口を開き弁明を始めた。


「俺は雇われただけなんだ。本当だ信じてくれ! 金をたんまり出すから、今日ここを通りかかる指定した馬車を襲って皆殺しにしてくれって頼まれたんだよ。まさかこんな強い護衛がいるなんて聞いてなかった。知ってたらこの仕事を受けてなんかいないぜ。頼むから命だけは助けてくれよ! お願いだ!」


 どう言い訳しようが、皆殺しの依頼を引き受けるなんて弁明の余地はない。

 もし、こいつらの依頼が成功したら今頃は高笑いしながら逃走していたはずだ。


「誰に雇われたんだ? 正直に言え」


 髭面の捕虜が隣で縛られている男の方を見ながら答える。


「何でも話すよ! この男さ! この男が俺達に話を持ってきたんだ。俺は仲間を集めてここで待ち伏せをしてあんた達を襲うようにこの男に指示されたんだよ」


「この男はこう言っている。おまえが僕達を襲った首謀者で間違いないな」


「…………」


 叔父上の使用人だという男は黙ったままだ。


「おまえは叔父上のところにいる使用人だな。僕は何度か叔父上の家で見た覚えがある。いい加減口を開いたらどうだ? 拷問の方法はいくらでもあるぞ」


「ちっ! まさかしくじるとはな…どうせ俺の命はないのだろう。ああ、あんたが言うように俺はあんたの叔父上の使用人さ。あんたがこの世から消えてくれたら全て上手くいく予定だったんだよ」


 どうやら叔父上とやらがこの男に指示を出したと考えて間違いないようだ。


「おまえ達はトルニアまで連行する。すまないがもう一度猿ぐつわをかましておいてくれ」


 レノマさんの指示でアーノルドさんが捕虜の2人に再び猿ぐつわをかます。

 今後の予定をもう一度組み立て、シルベスタさんの到着を待つ。

 2時間程経ってようやくシルベスタさんが集落から荷馬車と共に10人の人達を引き連れてやって来た。

 集落から来た人達に簡単な説明をして倒した敵と捕虜を荷馬車に乗せて運ぶ。

 その日の夜、集落に着き色々と手続きを済ませて俺達はそれぞれの宿に泊まった。


 明日はトルニアへ到着予定の日だ。

 各自、見張りやそれぞれの役目をして明日に備える事にした。

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