第24話 初買い物は値切ってみよう

 アルフさんの宿はすぐに見つかり、宿の主人のアルフさんに暫くの間よろしくおねがいしますと挨拶をして前金でお金を30日分払った。

 アルフさんは背が高く細身だが引き締まった身体をしている。

 実はハンスさんと同じで元冒険者だった。

 一泊の料金は簡単な朝食と夕食付きで銀貨7枚、ハンスさんの宿も同じ料金らしい。

 両方とも銅級の宿の平均より銀貨1枚高いが、宿に風呂が付いているのを考えれば納得の値段だろうか。


 宿名の帽子亭の由来はアルフさんが普段から帽子を被ってるのにちなんだ名前だそうだ。

 食事は済ませてきたと告げると、アルフさんは早速部屋に案内してくれた。

 部屋は一人部屋でベッドと荷物を置く台があるだけのシンプルな部屋。

 でも、掃除は行き届いていて清潔に保たれてる。


「元の世界でもワンルームマンション暮らしだったからそれほど気にならないな」


 あの頃は会社員だったが、まさか願望が叶って本当に冒険者になるとはね。

 俺は以前居た世界の事を思い出し苦笑いする。


「さて、明日から冒険者としての第一歩が始まるな。でも依頼を受ける前に街を一通り歩いてみようかな」


 拠点で魔物相手に戦ってきた俺だけど、依頼としてお金を受け取る仕事としてやるのは期待と不安が半々だ。

 街の雰囲気にも慣れておきたい。


 まあ、内容は違うが同じ仕事に変わりはないから何とかなるだろう。


 そんな事を考えながら着替えを済まし、受け取ったお金をマジックバッグに仕舞い俺はベッドに転がる。

 暫くすると俺はいつの間にか眠りに落ちていた。



 ◇◇◇



 部屋にある小さな窓から朝日が射し込む。

 そういや、こっちの世界の人達の時間感覚はどうなってるんだろう?


 日が昇ったらそこからが一日の始まりとかなのかね。

 そういう暮らしもいいかもね。


 軽く身支度を終え、下に降りていく。

 既に起きている人も居て軽く挨拶をする。


 水魔法やクリーンの魔法もあるが、こちらの世界に来ても習慣的に水で顔を洗ってるので、挨拶を交わしたおじさんにそれとなく聞いてみる。

 拠点でも、朝は水筒から出した水で顔を洗っていたしな。


「ああ、裏に共同の井戸があるから、井戸から汲んだ水を備え付けのたらいに入れてそれで顔を洗えばいいよ」


 親切に教えてくれた。


「私も行くから君も一緒にどうだい?」


 俺はこのおじさんと一緒に裏に行き、汲んだ水で一緒に顔を洗う。


 顔を洗った後、宿に戻ると他の宿泊客も起き出していた。

 食堂に顔を出してみると、アルフさんが食事の準備をしていた。


「もう少しで用意が出来るからここで待ってるとよい」と声をかけてくれた。


 朝が早い人もいれば、遅い人もいるのでこの時間はまだそれほど人が居ないようだ。


 椅子に座ってるとアルフさんが朝食を持ってきてくれた。

 大麦で作ったような色の濃いパンと野菜スープだ。

 パンは柔らかいパンを食べ慣れていた俺にはちょっと固く感じるが、ステータスの高くなった今では気にならないかな。野菜スープは人参みたいな物が入ってるのか美味しい。


 朝食を済ませ自室に戻り、暫くの間暇を潰す。

 一応、荷物はまとめてアイテムボックスとマジックバッグに放り込んでるが、これだとさすがに見かけが冒険者としては軽装すぎるので、怪しまれないようにリュックと腰に付けるウエストバッグくらいは買わないとな。


 俺は自室のドアを開け部屋に鍵をかけて下に降りていく。

 鍵をアルフさんに預け宿の外に出た。


 マルチマップは既にこの街の地図を記録しているので道に迷う事なく安心だ。


 とりあえず、市場にでも行ってみよう。


 市場はここから歩いて10分ほどの場所にあるようだ。

 バザールみたいな感じの場所らしい。


「おぉ! ここか。朝から結構賑わってるな」


 食材を売る店が並び、店の仕入れ目的の人や一般客も来ていて品定めに余念がない。

 肉を売る店は天井からフックに吊り下げられた大きな肉の塊があり、台の上には塩漬けの干し肉などもある。


 野菜を売る店もじゃがいも、人参などが並び豆なども売っている。

 お金に余裕が出来たらまとめて買ってみたい。


 調味料を売る店もあって、塩や砂糖、香辛料や香草などが並んでいる。

 砂糖や香辛料は値段が高い。


 物を売る掛け声や、ちょっとした雑踏を見てこの世界で初めて人に酔いそうだ。


 市場を後にして、次は雑貨屋などの日用品を売っている一角に行ってみる。

 まだ店を開けているところは少ないが、籠や小物入れなどの雑貨、食器などを売っている店を歩きながら眺めていく。


 日本で例えるとスケールの小さなか○ぱ橋みたいな感じかな。


 ちなみにこのオルノバの街は人口が1万5千人ほどらしく、城壁の外に暮らしてる農民などを合わせると2万くらいだそうだ。

 不定期に入れ替わる冒険者や商人なども含めるともっと多いかもな。


 歩いていて気がついたのだが、この街には共同浴場が何ヶ所もあるようだ。

 風呂のない家や宿に住む人が利用する為にあるんだって。


 昨日、ちょっとだけ見た領主館の横を通り過ぎる。

 昨日は気が付かなかったが兵が駐屯する大きな建物もあるようだ。


 次に鍛冶屋などがある一角に行ってみる。

 ここらへん一帯は騒音などがあるので住民が住んでいる住居とは離れている。

 朝からにぎやかだ。


 表通りに出て、武器屋や防具屋がある場所に歩いていく。

 安くて丈夫そうなリュックやウエストバッグがないかと革製品を扱う店を覗いてみる。

 すると、値段も手頃で良さげな品物を売っている店があった。


 店番をしていたおっちゃんが俺に話しかける


「おう、何か探しものか?」


「ええ、このリュックとウエストバッグがいいかなって思って」


「ああ、これな。物はいいんだが、革に傷が多く付いてるからなかなか売れなくてよ。あんたが買ってくれるならリュックとウエストバッグ二つで大銀貨3枚でどうだい?」


 二個で3万円か。元の世界では薄利多売や激安だのと、大量生産や輸入でこういう品物も価格破壊していたっけ。だけど、本来手作業で一から職人が手作りすればこれでも安いくらいだろう。なかなか売れないみたいだから試しにもっと値切ってみるかな。


「もうちょっと安くなると嬉しいんだけどなぁ」


「うーん、仕方ねえな。なら大銀貨2枚と銀貨7枚でいいや。さすがにこれ以上は無理だぜ!」


 こんなもんかな。


「わかりました。それでお願いします」


 お金を払い、おっちゃんからリュックとウエストバッグを受け取りその場で付けてみる。

 うん、なかなか様になってるな。


 気を良くした俺は冷やかしがてら武器屋や防具屋を見ながら歩く。

 それなりに良い品はあったが、さすがに俺が持ってるような装備はなかった。

 でも、掘り出し物が出る場合もありそうだからちょくちょくと通うつもりだ。


 そして、薬草やポーションなどを扱っている店に行ってみる。

 店にはHP回復ポーションやMP回復ポーションなどが売っていた。


 まあ、俺には白魔法があるし、シントウの実もあるので本来なら必要ないが、なんせ駆け出しのFランクなんで逆に持ってないと無謀に見えたり変に思われるかもな。


「すみません、ポーションを買いたいのですが」


 そう声をかけると中からおばさんが出てきた。


「あいよ、HPポーションもMPポーションも1つ大銀貨3枚だよ。これはどこの店でも取り決めで同じ値段だよ。何をいくつ買うんだい?」


 結構な値段だな。

 標準的なポーションは使用すると、その人の最大数値の約二割を回復するようだ。

 もっと高いやつは一回の回復量も多くなるらしい。

 とりあえず1つずつでいいかな。


「じゃあ、1つずつ下さい」


 金貨1枚を渡して大銀貨4枚のお釣りだ。


「必要になったらまたおいで!」


 よし、これでFランク冒険者としての体裁は整えられたかな。


 ギルドに寄っていこうかと思ったが今日は色々と街の事が確認出来たのでこのまま帰ろう。途中で露天で売っていた焼いた肉と野菜をナンで包んだような食べ物を買い、歩きながら食べて宿に戻る事にした。

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