第128話 押しかけてきました。

「アデラ様、そのワイバーンは?」

 騎士の一人が聞く。

「安心しろこのワイバーンは私の従魔にした。

 お前たちが攻撃をしない限りこの魔物がお前たちを攻撃することは無い」

「アリヨシ様が乗っているのはスレイプニルですか?」

 兵士の一人が声をかけてきた。

「そうなるな、マサヨシに空を走る感じを体験させてもらっている間に、縁あってこのワイバーンを仲間にしたのだ」

 アデラが言うと、

「すごいな」

「さすが、アデラ様だ」

「ワイバーンなんてなかなか手懐けることはできない」

 などと、騎士たちは喜んだ。


 隊長が強いということは、自分らが生き残る確率が高いということだろうしな。

 今回はほとんど俺がやったってことは言わないようにするか。


「本当にいいのか?」

 アデラは聞いてきた。

「ん? 気にするな。ある意味口止め料だな」


 実際、巨人のことは伏せてもらわないと……。


「失礼な、そんなことされなくても言わぬ」

 おっと、拗ねた。

「要らないなら逃がすが?」

「要らないとは言っていないではないか。意地悪だな」

 あら怒った。

「そうだ、俺は意地悪な男だ。

 嫌ならいいぞ、別の奴が来るようにするが?」

 俺はニヤニヤと笑う。

「嫌とは言ってないだろうに」

 おっ、困った顔。

 コロコロと表情が変わる。

 ちょっと楽しいな。

 でもやり過ぎないようにしないと……。

「さて、俺はそろそろ帰るよ。時間が無いから今回はお菓子抜きだ、

 作る時間がない」

「ふむ、仕方ないな。ワイバーンで我慢しよう」

「お菓子とワイバーン、どっちがいいんだ?」

「うーん」

 アデラは腕を組んで考える。

 即決できないぐらいなのね。


「それじゃな。一か月後」

「ああ、また」

 ニヤリと笑うアデラ。


 多分、そうなんだろうなぁ……。

 こりゃ、もう一つ近日中に揉めごとがありそうだ。


 そんなことがあってしばらくしたある日、昼飯が終わって俺は巨人の姿で見回りをしていた。

 着慣れた熊スーツだ。

「ウォーン」

 フォレストウルフの遠吠えが聞こえる。

 俺んちの周りに何か敵が入ったということなのだろう。

 レーダーを使い周囲を探索すると、高速で移動する光点が一つ。いや、二つが重なって一つか。

 あー、多分来たな。

 あのお転婆なら来ると思う。

 この場所で、俺は周りの木から頭一つ出ていた。

 俺に気付いたのか、まっすぐ俺の方に向かってくる光点。

「アリヨシー」

 やっぱりあいつだったか……。

 アデラはワイバーンから飛び降りると、俺に向かって突っ込んできた。

 熊スーツの俺の胸に捕まる。そして俺を見上げると、

「来ちゃった」

 と言って笑った。


 〇ょうきん族の島〇紳助じゃあるまいし。

 ネタの古さに震える俺。


 ヴァッサ、ヴァッサと風を巻き上げバハムートの姿でノワルが俺の横に降りてくる。

「ワイバーンが出たと聞いたのじゃが……。

 その女が騎乗してきた魔物じゃな?」

 ノワルがジト目で俺とアデラを見る。

 ドラゴンが居るなどと知らないアデラは本気で怯えていた。

「そう言うことだ。

 イーサの町の隊長さんだ。

 獣人の件で世話になってる。

 それと砂糖を卸すお得意さんだな」

「そのお得意さんがなぜ、ここに来たのじゃな?

 それもワイバーンなど使役して」

「んー、前も言ったが懐かれた。

 そしてワイバーンの足ができたからここに来たんだろうな。

 壁向こうの集落が俺んちだってのは、この前砂糖を持って行った時にスレイプニルを仲間にしたときに会った騎士が居たから、そいつから聞いたんだろう」

「しかしワイバーンは人になかなか馴れないと聞いたことがあるが、よくその娘が使役できたのう」

「恐怖を与えたからじゃないか?」

 俺が言う。

「誰が恐怖を与えたのじゃ?」

 ノワルがチラリと俺を見る。

 あー、足になるワイバーンを与えたのが俺だってバレてるわ、コレ。


「ご想像にお任せします」

 仕方ないのでそう言うと、

「余計なことをした訳じゃな」

 今度はノワルがジロリと俺を見る。

「さあね。楽しくはなりそうだ」

 苦笑いの俺を見て、

「仕方ないのう」

 そう言うとノワルはホールのほうへ飛び去るのだった。



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