第2話 目覚めました。

 俺は目を覚ます。

 今居るのは何かの培養槽のようなものの中。

 体を丸くして浮かんでいた。


 なんだこりゃ?


 俺の体には様々な色のケーブル。

 それが培養槽の下に繋がっていているのがわかった。

 俺の体は未発達なのか動かない。

 ガラス(?)越しに見えるのは眼鏡をかけたエルフ美人。


 エルフって初めて見た。

 美人だ。

 

 ニコッと笑って俺を見る。

 他にも白衣を着たエルフたちがディスプレイのような画面を見ていた。

 データを取っているのかタブレット端末のようなものを持ち、俺を見ながら何かを書いていた。

「……………………」

 何を言っているのかはわからないが、笑いながら声をかけてくる。


 ズゥーン。

 

 培養槽の中でも揺れたのがわかった。

 そのあと周囲が赤くなりエルフ美人が焦った顔をする。

 そしてその後の俺の意識は無い……。


 

 再び目を覚ます俺。


 どのくらい経ったのだろう……。


 周りは真っ暗だった。

 しかし、俺が目を覚ますとすぐに「起動準備中」の言葉が視界に映る。

 暫くすると「起動OK」の文字が……。


 俺の視界に表示される文字がわかるのはなぜ?


 そんなことを考えていると周りにあった液体が排水される。

 そのあと「この世界の知識を注入します」の文字。

 「はい」も「いいえ」もなく、状態を表すゲージが徐々に伸びはじめる。

 

 パソコンのインストール画面みたいだな。


 そんな事を思いながらゲージを見ていると、すべての色が変わり百パーセント(?)になった瞬間、情報の解凍が始まったのかゲージが跳ねはじめた。

 とたんに負荷が上がったのか俺は頭が痛くなる。

 脳みそをかき回されるような時間が続き「終了」の表示が出と、俺は頭痛からき解放された。

 

 俺って誰?


 そう自分に問うと、

「汎用農作業用巨人」

 と答えがすぐに思い浮かんだ。

 俺の事がわかるようになったって事でいいようだが……農作業用巨人って……。

「身長十八メートル。

 体細胞は過去の神話級巨人族の体組織を利用」

 視界に半透明でエルフとの比較が出ていた。

 数値が出ているが当社比みたいなもんらしい。

 ガンダム並みの身長になったようだ。


 通常エルフらしき人とのグラフの比率を見る。

 ざっと五百万対一の差があると言う事だ。

 各属性農耕用魔法に加え回復治療魔法が使用可能らしい。


 インストールされた知識では、「人族よりも数が少ないエルフが得るために作った巨人」って事らしい。

 人とエルフの戦争中の開発……それも負けそうな時の開発だったらしく、兵器への転用を考えたらしいが開発は間に合ったものの、成長が間に合わなかったようだ。

 だから、戦略的魔法とか戦術的魔法とか使っちゃいけないような魔法も俺の知識にはあった。

 ただ、

「戦いは数だよ」

 と言った軍人が居たから、もし俺が出撃したとしても戦局は変わらなかったんじゃないかな。


 急に視界が明るくなる。

「暗視モードになりました」

 と視界の左下に小さく表示された。

 そして右上には円形の小さな何か……中央に三角形がある。

 三角形の中央には俺?

 ああレーダーか。

 周囲には何も表示されていなかった。


 周囲を見回すと、多くのディスプレイのような物、分析機器のような物が整然と並んでいた。

 ただ長年の埃が堆積しており、それらが使えそうな感じはしない。

 いったいどのくらい放置されていたのだろうか……。

 手を伸ばそうとしたが培養用のガラスのようなカバーが邪魔だった。

 それにこのままでも仕方ない。


 手を無理やり伸ばし、カバーを押しのけようとすると、

「プシュー」

 と言う音とともにもうもうと煙が上がり、案外すんなりカバーが開く。


 立ち上がろう……って思うが、立ち上がれるような高さはない。

 こりゃ無理だな。

 這って動くぐらいの隙間しかないや。

 制作者もどうやって俺をここから出そうと思ったんだ?

 おっ、トンネルの中にレールがあるから培養槽ごと移動する予定?


 俺が育って意識が覚醒するのは「ココじゃないどこか」って事だったようだ。

 とりあえずトンネルの中をレールの上を這って進んだ。

 暗視モードのため先がよくわかる。

 しばらくすると俺が立ち上がっても大丈夫そうな大きなホール。

 正面に俺サイズの扉がある。

 立ち上がって周囲を見回すと俺の身長ほどもある大剣とナイフ、フルプレートの鎧と兜、そして下着的な何かが数着準備してある。

 おっと、俺の息子がモロ見えじゃないか!


 誰も見ていないのに、そそくさとタンクトップとトランクスっぽい下着を着る。

 そこら辺の事はエルフが考えてくれていたらしい。

 放置されていた割には着心地はよかった。

 この世界でわざわざストーリーキングする気も無いし、体がデカいからサイズがデカくなったって訳で、体と息子の比率はどうなっているのかわからなかった。

 若干、山下清をモデルとしたドラマの格好に近いが、このサイズの服を作るのは並大抵のことではないだろう。

 文句は言えないか……。

 食い物はどうすりゃいい?


 自問自答すると、インストールされた知識が浮かび上がり、

「食べ物は魔力。

 超高性能魔力生成炉があるので魔力欠乏の心配は無用。

 ただ、食べようと思えば食べられる」

 ってことらしい。


 自分で作って自分で消費できる訳か。

 巨人サイズの人間を食わすのって難しいだろうから、自己生産ができるように改良されているのかもしれないな。

 さて、外の世界を見てみるか。


 俺はホールにある扉に手をかけ開けようとした。

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