第47話 ベアトリス様が……。
アリヨシ殿たちが家に帰り、私とベアトリス様の二人。
「田舎なので特に何もありませんが、どうぞお召し上がりください」
私はベアトリス様に食事を勧めた。
「ワインがあるのですね。
私はワインが好きです。
でも、いつも二杯目ぐらいから記憶が無いのです……。
そして、気が付くとボトルが二本から三本……。
朝になって顔を合わせたお父様には『あまり飲まない方がいいかもな』と言われます」
「そうなんですか。
まあ、自分にあった速さで飲めばよろしいのではないでしょうか?」
そう言って、私はベアトリス様のワイングラスにワインを注いだ。
私もワインを注ぐと、チンとグラスを合わせ、ワインを飲む。
あれ?
ベアトリス様はゴキュゴキュとワインを飲んだ。
その後、ワインのボトルを掴むと再び自分のグラスに注ぎ、ゴキュゴキュと飲み干す。
プハーと酒臭い息を吐きだすと、ベアトリス様の目が据わったような気がした。
「ドリスゥ、私、あなたが羨ましいんですぅ」
完全に酔ってるわよね……。
「ベアトリス様、なぜです?」
と聞くと、
「いいわよねぇ。
ベアトリスはアリヨシ様が近くに居るから。
呼べばすぐに来てくれるじゃない」
ベアトリス様が言う。
「アリヨシ様の気遣いには私も助かっています。
あの方が巨人ではなく、普通の人であれば……。
いえ、今の巨人であっても惹かれています」
「でしょ! でしょ! 私だってそうなの。
強いしやさしいし、気遣いできるし……。
あの方がなぜ巨人なのか……」
ベアトリス様がグイともう一杯ワインを煽った。
ペースが速いけど大丈夫かしら?
そんな事を思っていると、
「なんでドリスはアリヨシ様に呼び捨てされてるんでしゅか?
気軽に話しかけられているしぃ……。
羨ましいのでしゅ!」
あっ、言葉が変わってる。
「許せないのでしゅ。
私をのけ者にしてぇ!
パスを繋いで文句を言ってやるぅー!」
あっ、だめだわこれ。
私じゃ無理。
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俺は温泉に浸かり一日の疲れを取りながらゆっくりしていると、
「ベアトリスれしゅがよろしいれしょうか?」
パスが繋がる。
ん? 酔ってる?
「どうかしましたか?」
「それが嫌れす!」
「ん? それが嫌?」
「他の方は呼び捨てでざっくばらんらのに、私は様付けで敬語れす」
「すみません、アリヨシ様」
ドリスが割り込んできた。
「おう、ドリスか?」
「それが羨ましいのですぅー」
あー、うるさい。
「ベアトリス様なんかあったの?」
「今、食事中なのですが、ワインを勧めたらグビグビと三杯ほど飲みました。
そしたらこういう事に……」
駆けつけ三杯……ってのは聞いたことがあるが……。
「最初はアリヨシ様について話をしていたんです。でもワインが進むにつれ、私がアリヨシ様に呼び捨てされたり、気軽に話しかけられているのが羨ましいとか言い出して……。
で、挙句の果てには『パスを繋いで文句を言ってやるぅー』と言い出して現在に至ります」
「私も呼び捨てにして欲しいのですぅ。皆と一緒じゃないおれすぅ」
「大分酔ってるな。
絡み酒か……」
「絡み酒?
それは何なので?」
「ドリス、そのままだ。飲んで絡んでくるやつ」
「あぁ、そういう事ですか……」
「そこ! 何コソコソ話してる! だーかーらぁ、敬語はやめれ!
私は巨人でもアリヨシ様が好きなのれす。
おしっこ漏らしたのも見られたのれす。
結婚するならアリヨシ様なんれす。優しいんれす。敬語は嫌なのれすぅーーー!」
ベアトリス様の一通りの叫びが聞こえたあと、急に静かになった。
「あっ、寝ました」
ドリスが言った。
寝たらしい。
「何か、聞いちゃいかん事を言っていなかったか?」
「アリヨシ様が好きなのは私も一緒ですが……」
あっ、墓穴。
「呼び捨てで敬語無しにしてあげればいいのでは?
やはり敬語は壁があるように感じますから」
「そんなもんかね?」
「はい、そんなもんです」
「じゃあ、呼び捨て敬語無しで……」
「そうしてあげてください。
私はベアトリス様を寝かせます」
パスが切れた。
ベアトリス様、明日になったら何言ったか忘れてそうだよなぁ。
あっ、ベアトリスだったな。
ベアトリスが今日帰るらしいので、皆でドリスの村へ見送りに行く。
今日はベアトリスが帰る方の門で待機状態だ。見送りだからね。
ドリスが先導しベアトリスの馬車が門の外に出てくる。周りには騎士の護衛。その後ろにはマーカーが居た。
「顔を上げなさい、アリヨシ。ベアトリス様に挨拶をなさい」
人が居るせいで、上からの言い方をするドリス。
俺は顔を上げ、
「ベアトリス様お気をつけて」
と言って頭を下げた。
ベアトリスは馬車の窓から俺のほうを見ていた。
俺はベアトリスとパスを繋ぐ。
「おはようさん、二日酔いは大丈夫か?」
「えっ、ああ、二日酔いはありませんよ?
すっきりしています。でも、昨日ワインを飲み始めてしばらくしてから何も覚えてないのです。
私は何を?」
驚いてる、驚いてる。
「パスを繋いで俺に相当文句言ってたよ」
「文句ですか?」
「俺が、呼び捨てじゃないし話すときも敬語だってね。『みんなと違うのは嫌だ!』って言ってたぞ?」
結婚するならとかは言わないほうが良さそうだ。自分から墓穴を掘る必要はない。
俺はニヤリと笑う。
「だから、今後は呼び捨て敬語無しな。了解?」
「はい、了解です!」
ベアトリスが嬉しそうに返事すると、すぐに
「出発!」
と騎士が声をあげ、馬車が進みだした。
「気を付けてな。まあパスもあるから好きな時に連絡しろ」
「わかりました」
俺はパスを切る。ベアトリスは笑っていた。
そして馬車は去っていくのだった。
「敬語無しで話したんですか?」
パスでドリスが聞いてきた。
「ああ、ちょっとだけな」
「寂しいですか?」
「いや、特には……。パスで話せるだろ?」
「でも、本人が居るほうが嬉しいものです。
私もベアトリス様も、そしてあの三人も」
と呟く。
「そんなもんかね」
俺はあまり考えていなかったが、
「そんなものです」
ドリスが俺を見上げながら頷いていた。
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