第73話 お父様とお話ししました。
屋敷に戻り、私はノワルさんの背から降りた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
結構な頻度かえっているような気がします。
そのせいか兵も慣れたもので、ノワルさんの姿に驚きもせず私を迎えに来ました。
一人は走って屋敷に向かうところを見ると、お父様への連絡に向かったようです。
私は追いかけるようにお父様の執務室に向かい中に入ると、兵士がお父さまに私のことを知らせているところだった。
お父様は兵を下げると。
「どうしたのだ?
なにかあったのか?
ベアトリス」
と聞いてきた。
「アリヨシ様より質問がありましたので、私が代わりに聞きに来ました」
「それで、アリヨシの相談とは?」
「その前に、砂糖はどこから来ているか知っていますよね」
私はあえてお父様に聞いてみた。
「何だ、その質問は……」
と私にその質問をするのか? とでもいうようような顔をした後、
「南方の温かい所で生産されている。
そのせいで、この地に来る頃には輸送費で高価なものに変わってしまっている。
当たり前の知識ではないか」
と答えた。
私は頷いた後、
「そうです、それがこの国では当たり前のこと。
その砂糖がこの地でできるとしたらどう思いますか?」
と言ってお父様を見た。
「何?
そんなことができるはずがない。
原料となるキビは南方でしか育たないと聞く」
驚いた顔をした後、お父様は身を乗り出してきた。
興味津々なのでしょう。
「それは砂糖の成分を持ったキビを使った砂糖づくりであればそうでしょう。
それ以外にも砂糖の成分を持った作物があり、この地でも十分に育つ物があったとしたら?」
ともったいぶるように聞いてみると、
「そんな作物があるのか!」
とお義父様が声を上げた。
「はい!」
私は大きく頷いたあと、
「ここからはアリヨシ様に教えていただいた機密。
これを他に知らしめるのであれば、私はこの家と縁を切ります」
と言ってお父様を見る。
私の真剣さに気付いたお父様は、
「わかった」
と頷いた。
「砂糖の成分を多く含む大根があります。
アリヨシ様はその中でも特に砂糖の成分が多い大根を掛け合わせて、砂糖大根とういう作物を作りました。
この大根の汁を煮詰め灰汁を取れば、この砂糖が出来上がります」
私は砂糖が入った壺を出した。
ふたを開け、
「どうぞ、お父様」
と中のものを勧めると、
お父様はひと口摘まんで舐める。
そして、
「甘い……」
そのものの感想。
「白いんだな、この砂糖は。
南方の物に比べ雑味が無い」
「はい、私も思いました。
これを、アリヨシ様は産物にしたいとおっしゃっております。
現在砂糖大根はアリヨシ様の農場でのみ栽培されており、種もありますので増産は可能です。
それで、どの程度の生産をすればいいか聞いてきて欲しいとアリヨシ様に言われた次第です」
「ふむ……。
わかった。
砂糖をこの地で得られるのなら莫大な富を得られる。
砂糖に関しては、ルンデル商会と話をすればいい。
デニスのほうが、その辺のことは詳しいだろう。
その後の事もベアトリスに任せよう」
という。
アリヨシ様とルンデル商会の間を取り持ち、利益を出せ……ということなのだろう。
「畏まりました」
私は頭を下げた。
これで話は終わり。
私をじっと見るお父様。
そして、
「ベアトリスは、アリヨシが私と敵対した場合、どうする?」
なんだか恐る恐る聞いてきた。
「私は、あの人の妻になる者です。
ですから、お父様、遠慮せずに勘当してください」
と答えると、
「そこまでか……」
と言って驚くお義父様を見て
「はい、そこまでです」
私はニコリと笑うのだった。
そんな時、ノックもせずに扉が開くと、
「あら、ベアトリス。
帰ってきていたのね」
お母さまが部屋に入ってきた。
「はい、少しお父様と相談したいことがありまして」
「ドラゴンが来たと聞いたから、ベアトリスが帰ってきたことがわかったわ。
それにしても、あんなド田舎によく住めるわね?」
言葉尻からバカにされているのはわかる。
私は別にお母さまと仲が悪い訳ではないのだが、この人は少し人を見下すのだ。
「そうですか?
確かに、この街は人も多く物流は盛んですが、アリヨシ様の傍のほうが美味しいものを食べられますが……。
希少なワイバーンのテールスープなど伯爵領でも食べられないでしょう?」
私もつい張り合ってしまう。
悪い癖。
「うっ……」
お母様は食べたことのない料理を聞きお母さまは悔しそうな顔をした。
しかし負けじと、
「お菓子など、そこには無いでしょう?
こちらには砂糖を使った甘いお菓子があります。
サクッとして、美味しくて」
今度は甘味ですね……。
お父様は「砂糖」の言葉が出た瞬間にお母様を止めようとしましたが、すでに遅いです。
「お母さま。
私もこの領地の甘味はほぼ全部食べていましたが、お母さまは『プリン』というお菓子をご存じですか?
この辺のお菓子はサクサクという食感の焼き菓子が多いですが、プリンは冷たくて、プルンとして、甘くて苦い。
私もアリヨシ様に作っていただいて初めて食べましたが、自身がとろけてしまうかと思うほどのお菓子でした。
お母様はそんなお菓子を食べたことがおありですか?」
チラリとお母さまを見た。
「そっ、そんなお菓子ある訳無いじゃない」
劣勢に立つお母さまに、
「あー、あの地で食べた者以外、他の貴族も食べたことが無いでしょう。
私は胸を張って威張れますね」
ちょっと大げさに言ってみた。
「グヌヌ……」
お母さまが悔しさで顔が歪む。
「どうしてそのプリンというお菓子をなぜ持ってこなかったの!」
きつく言うお母さま。
「持ってくる予定もありませんでしたから……」
私はにこやかに言う。
「次来るときに持ってきなさい!
味見してあげましょう」
語勢を上げて言うお母さまに、
「要は食べたいだけですね」
と私はチクリ。
「いいえ、新しいお菓子。
それをブレンダ・クルーム自らが味見するというのです。
光栄に思わないと」
と言い張るお母さまの後ろでお父様の申し訳なさそうな姿が見えた。
「わかりました。
次こちらに来るときには、お持ちしましょう」
私が言うと、
「その、アリヨシという者もね……。
フン」
と言ってお母様は部屋を出ていくのだった。
「すまんな」
「いいえ、お母さまもすることが無いのでしょう」
私が小さなころから何もすることが無く、人のうわさと食べ物の話ばかりしていたお母さま。
「とりあえず一度、アリヨシを連れてこの屋敷に来てくれ。
話したい事もある。
ついでにブレンダと顏を合わせでいいだろう」
「わかりました。
それでは話も終わりましたので、帰りますね」
「ああ、気を付けてな」
こうして、私とお父様の話が終わると、ノワルさんに乗って私の居るべき場所に帰るのだった。
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