第68話 牛が来ました。ついでに砂糖も……。

 昼過ぎ、クルーム伯爵のところから牛が来た。

 ベアトリスが手配した牡牛二頭、雌牛十頭、子牛(雌)を十頭である。

 この前指定したとおりだ。

 ホルスタインのような品種改良された牛ではないが乳房がパンパンに張っていた。それを子牛が飲んでいる。

 牛たちは柵の中に入り放牧場の草を食んでいる。

 事前に木の精霊に魔力を渡し、草を育てておいたのだ。

 俺、ノワル、グレア、ウル、ベアトリスの立会で使者から牛を受け取る。


 まあ、手続きはベアトリスが全部してくれたんだけど……。


 届け物の使者が帰り、牛の様子を見ようとノワルが近づくと牛たちが固まった。

「何でじゃろうの?」

「お前の強さに怯えてるんじゃないか? もしかしたら、お前って乳絞りに最適人材かもしれないな。

 まず舐められたりしないだろう」

「舐めたりしたら、食ってしまうがの」

「食ってしまう」の声が聞こえた時、明らかに牛たちが動揺するのがわかった。


 俺は台に腰掛けると、

「まあ、見よう見まねだが……」

 と言ってキレイな桶に牛の乳を搾る。

 明らかにノワルより怯える牛たち。


 俺ってそんなに怖い?

 まあ、動かないからやりやすいからいいけど。


 乳首の根元から先にかけて指を絞り込むと、ジュッジュッ……と牛乳が桶に溜まっていく。

 桶半分ぐらい溜まったところで、

「これが牛乳な」

 そう言ってコップに汲んで順番に飲ませた。

「美味いのじゃ」

「美味しいです」

 ノワルとグレアのケモノーズは美味しそうに飲む。

「飲めなくはありませんが、多量には無理ですね」

「私もです」

 ベアトリスとウルはお口に合わなかったようだ。

 ただ、俺が

「でも牛乳って飲むと、胸が大きくなるんだよな」

 と以前言ったことをボソリと言うと、その言葉を聞き逃さず、

「これは、薬です」

「私たちに必要な薬です」

 そう言って二人はおかわりを飲み干す。


「これでいいのかの?」

 ノワルが乳を搾る。

「私もやってみます」

 グレアも乳を搾る。

 黒と白のメイドが乳を搾る姿。

 何か違和感あるな。

 

 しかし、俺のを見ただけなのだが二人(ケモノーズ)は乳搾りが上手かった。

 二人が上位の魔物ということもあり、牛もいうことをよく聞く。

 正しく言えば聞かざるを得ない。

 こりゃ二人に動物系の世話を任せるかな。


「全部絞っちゃダメだぞ。

 子牛が飲む牛乳がなくなる」

「了解なのじゃ」

「わかりましたー」

 一応忠告しておく。

 あっという間に、木桶に二杯分の牛乳を絞ることができた。


 それを見ながら、

「アリヨシ様、これで牛乳の確保ができました。何ができるでしょうか?」

 ベアトリスが期待満々で聞いてきた。

「そうだなあ、あとは砂糖があればいいんだが……」

 ニヤリと笑うベアトリス。

「そう言うと思って、買っておきました」

 荷馬車を指差すベアトリス。

 そういえば荷車も一緒に来てたなあ。

 その中に油紙で封がされた結構大きな壺があった。

 今回の牛の便で一緒に持ってきたらしい。

 よく見ると他にも壺や麻袋がある。

「砂糖以外になんかあるの?」

「飼料大根の種と大豆の種ですね。アリヨシ様が欲しがっていたものです

 ドリスさんが手配しました。」

「服もあるが……」

「巨人状態じゃないときにこの服を着てください」

「ありがとう、助かる」

 ベアトリスの頭を撫でると、気持ち良さそうに目を瞑った。


「種蒔きは明日だな。今日は帰ってプリンだ」

「「「「プリン?」」」」

「俺の世界のお菓子だよ」

「「「「お菓子!」」」」

「ウル、手伝ってくれるか?」

「はい!」

 俺に声をかけられて嬉しいのか無い胸を張るウル。

 俺は荷車を引き皆と一緒にホールへ帰る。

「ウル、簡単だから作り方覚えるといいよ」

「はい!」

 おぉ、ウルがヤル気満々。

 他の三人は食べる気満々。

 定番のプリンを作る。

 順調に増えているランニングバードの卵も朝取れで手に入っていたので、材料も揃っている。

 まあ、大体で……。

 牛乳と卵、砂糖をボウルのような容器に入れ加熱しながらかき混ぜ、織りが荒いキレイな布で濾す。

 本当は、茶こしとかなんだろうけど、無いからなあ。

 適当な容器にプリン液を入れ、湯を沸かして、その中に入れて蒸す。

 蒸してる間にカラメルをっと……。

 出来上がったプリンを冷やすのは、水の精霊に依頼して。

 冷えたプリンにカラメルをのせて出来上がり。

 なんだかんだと十個ほどプリンができるのだった。

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