第69話 プリンを配達しました。

「ほい、プリンの完成」

 四人の前に一人一個づつ、スプーンと一緒にプリンを置く。

 待て状態の四人、号令を待つばかりだ。

「食べていいぞ」

 俺がそう言うと、四人は一口頬張った。

「……………」

 沈黙の四人。

「おーい、どうした?」

「「「「んー! |おいひい(おいしい)!」」」

 口にスプーンを突っ込んだまま言うと、四人は夢中で食べ始めた。

 これなら作った甲斐はあるな。


 プリンを食べ終わると、

「アリヨシ様、これは是非商品にするべきです。いえ、しないといけません」

 自分で作ったプリンだからそれなりのつもりだったのだが、それでもベアトリスは鼻息荒く俺に詰め寄る。

「まだ材料がない。数は作れないぞ?」

「材料は、私が何とかします」

「俺は別に金儲けがしたい訳じゃないんだ。

 皆のご褒美で作ったんだ。

 まずは自分の近くにいる人が喜んでくれればいいと思う」

「うっ、そんなこと言われたら……何も返せないじゃないですか」

 欲を出してばつが悪いのかモジモジするベアトリス。

「そうじゃ、欲を出してはいかん。

 まずは岩塩鉱山を軌道にのせるのじゃ。

 そうすればアリヨシが新しいお菓子を作ってくれるじゃろう」

 俺に乗っかったノワルの言葉にグレアもウルも頷く。

 予言がかっているが、まあ、新しいお菓子を作る気は十分にあるけどね。

「そうですね、一歩一歩です」

 ベアトリスは納得したようだ。

「お菓子を売るなら、もっと人が増えてからだな。

 お菓子専門の職人も必要。

 まあ、とりあえずは急ぐ必要はないさ」


 さて、残り六個。

 プリンに視線が集まる。

「まだ要る人」

 さっと手が上がる四人。

「じゃあ、一個づつな」

 キャッキャ言いながら、再び四人が食べ始める。

「じゃあ、俺はドリスにプリン持っていくから」

 と言うと、

「ドリス様が気になるのですか?」

 グレアが聞いてくる。

「まあ、あいつは領主やってるからこっちで暮らせないだろ?

 だから、差し入れしようと思ってね」

 という俺を見て、

「優しいのう、アリヨシは……」

 からかい半分でノワルが言ったようだった。

 仕返しとばかりに、

「お前だって、巣まで俺が出向いたときは嬉しかったんだろ?」

 と言い返すと、

「そっ、それはのう。

 われのためだけに来てくれるのなら……嬉しいぞ」

 この前のことを考えているのか、ノワルの目が宙を向く。

「確かにドリスさんだけをのけ者にするのは可愛そうです。

 アリヨシ様がドリスさんの所に行くのを許してあげましょう」

 仕方ないという感じで、ベアトリスが許可をくれた。


 なぜに許可が必要? 


「二人っきり、羨ましいです」

 と、気づいたようにいうウル。

「皆ともそういう時間を作るようにするから」

 そう言うと、

「必ずですよ」

 ウルに念を押される俺。

 そして、同時に頷く残り三人。

「とりあえず行ってくるよ」

「「「「はい」」」」

 プリンを食べる四人に見送られドリスの所へ向かった。


 一応プリンに紙で蓋をして、緩衝材になりそうな藁を入れた箱に入れる。

 埃とか入っちゃ嫌だからな。

 縮小化したまま走るのは初めてだが、走ってみると何てことはなく速い。

 揺らさないように気をつけて走る。

 速いからといって「キーン」とかやって自分で恥ずかしくなった。

 これでコケたら台無しだ……なんて思ったら、フラグだったのか本気でコケそうになる。


 揺れたけど大丈夫かな? 


 まあ、そんなこともあったが、何とかドリスの村に着くとドリスの館へ向かった。

 おっと、俺、ドリスの館へ入ったこと無いや。

 仕方ないパスで呼ぶか。

「おーい、ドリス。今から館の外に来られる?」

「えっ、なんで館に?」

「お菓子を持ってきた」

「今すぐ行きます」

 そう言ってしばらく門の外で待っていると、

「ダダダダダ……ザザー」

 という音の後、

「いったーい!」

 とドリスの声が聞こえる。


 コケたな。


「お待たせしました」

 体に付いた埃を払いながらドリスが出てきた。

「今日は鎧じゃないんだな」

 と言うと、

「いつも鎧では疲れます」

 ため息交じりでドリスが言う。

「そりゃそうか、それにしても埃まみれだな。

 おでこと鼻も擦りむいてるし」

「アリヨシ様が来たので慌てて外に出たら、躓いてしまいました」

 俺は風の精霊に頼んで埃を飛ばしてもらう。そして鼻をヒールで治す。

「可愛い顔が台無しだぞ」

 俺がそう言うと、

「可愛い……」

 と呟き、俯いて真っ赤になるドリス。

 固まったドリスに、

「さあ、お菓子を食べよう。

 テーブルのある場所へ連れていってくれないか?」

 と言ってモジモジしながら歩くドリスの後ろをついていった。


「ここ?」

 ドリスに連れてきてもらった場所には大きなテーブルがありそこにはポツンと椅子がひとつ。

「ドリスは一人で食事するのか?」

「まあ、下男と一緒に食事することはありませんね」

「寂しくないか?」

「最近はアリヨシ様とパスで話ができますから」

 というドリスだが、やっぱり寂しいんだろうなぁ。


「じゃあ、お菓子出すぞ」

 俺は箱の中からプリンを二つ出す。

「ドリス、スプーンを二つ出してくれ」

 ドリスは調理場と思われる場所にいくとスプーンを持って戻ってきた。

 箱の中は水の精霊に頼んで冷やしてあったから冷たい。

 しかし揺れて崩れてなきゃいいが……。


 中から出てきたプリンの蓋を開けると、緩衝材のお陰か表面が少し荒れていたが、崩れていないようだった。

「ほい、新しいお菓子な。

 プリンと言う」

 ドリスの前にプリンを置き、

「食べてみてくれ」

 そういうと、ドリスのスプーンがスッとプリンの中に入った。

 カラメルと一緒に一口掬い上げ、口の中に入れる。

「…………」

 このリアクションは、四人と一緒。

「美味いか?」

「ふぁい!」

 スプーンを口にくわえ返事をするドリス。

「じゃあ、俺も一緒に食べよう」


 やっとプリンを食べることができた。プリン液やカラメル液は味見で舐めはしたが、出来上がりはまだだったからな。

 こんな味だったかな? 

 ちょっと自信がないや。

 久々に食べた向こうの味に涙が出てしまった。

 一年も経っていないのにな。


 涙を流した俺が気になったのだろう、

「アリヨシ様、涙を流しています。

 悲しい事があったのですか?」

 ドリスが心配そうに俺を見る。

「いいや、このプリンが懐かしかっただけだ。

 俺が生まれ変わる前の世界のお菓子だからな」

「この世界に来て辛い訳ではないのですね」

「そうだな、ドリスやグレア、ノワル、ウルにベアトリスと一緒になかなか楽しい生活はしていると思うぞ?

 悪いな、心配させたか」

 俺の答えを聞いて嬉しかったのか、

「良かった!

 この世界が嫌な訳じゃないのですね」

 パッと明るい顔になるドリス。

 そして再びプリンを食べ始める。

 プリンを食べ終わると、

「アリヨシ様はこのお菓子を流通させる気はないのですか?」

 とドリスも聞いてきた。

「ベアトリスと同じことを言うんだな」


 一応小さな村とはいえ領主様だからかな?

 利益を考えてしまうのかもしれない。


「まあ、流通させようにもこのお菓子が長持ちはしない。

 今んとこはみんなのご褒美でいいだろ?」

「そうですね、わたしたちだけのご褒美……それでいいです」

 そう言ってドリスは頷くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る