第67話 比率が変わりました。

 どのくらい抱き合っていたのか……急に

「そろそろ行くぞ、皆待っておるかもしれん。

 グレアとウルに焼きもちを焼かれてもいかんしな」

「ああ、そうだな」

 ノワルが俺の唇にキスをしてきた。

 ぎこちないただ触れるだけのキス。

「人は、好きな者にこうするんじゃったな」

 そう言うとノワルはドラゴンの姿に戻る。

 俺は唇に触れてぼーっとしていた。


 要は、慣れていないだけなんだが……。


「アリヨシよ、帰るぞ!」

 姿を変えたノワルが急かす。

 ノワルは俺が背に乗ったのを確認すると、宝箱を持ち、

「帰りはもっと飛ばすのじゃ」

 楽しげな声、照れ隠し?

 音速を越える速さで日が暮れかけた空を飛んだ。


 俺はノワルの背に乗りホールへ帰る。

 ノワルは四枚羽のドラゴン、ブラックドラゴンの上位バハムートになったらしい。

 帰る途中、

われはこんなに強くなれた。

 じゃがアリヨシには勝てぬな。

 じゃがそのほうがいい。

 夫より強い妻はいかん」

 ノワルが言う。

「えっ、やっぱり俺の妻になる予定?」

 俺が聞くと、

「えっ、そのつもりじゃぞ?

 グレアもそうであろう。

 ドリスもベアトリスもおぬしを狙っておる。

 まあわれは、本妻だろうが妾だろうが気にはせんがな。

 お主は小さくなれた。

 われも人化すれば小さくなれる。

 いろいろできるのじゃ!」

「俺といろいろやるのか?

 何をする?」

 ちょっと意地悪く聞くと、

「子供……」

「えっ?」

 ベアトリスには聞いていたが、子供のことなんて考えたことが無かった。

「知っておるのじゃぞ?

 なすことをなせば子ができるのを……。

 であればやはり子は欲しい。

 われとアリヨシの子が……」

「そうだなぁ、付くものが付いてるからできなくはないんだろうが、やれても子ができるかどうかはわからないぞ?」

「それでもいいぞ、アリヨシに抱かれるならばな」

 恥ずかし気にそう言うとノワルは速度を上げ、ドンと音がした。

 あっ、音速越えた……。


「ただいまー」

 ドスンという音をさせながら着陸するノワル。

 周囲に土煙が舞う。

「ノワル、もう少し丁寧に降りような」

「わかったのじゃ」

 気にしていない軽い返事。


 あっ、反省していないなこりゃ。


 ホールに帰ると別人になったノワルにベアトリス、ウル、グレアが気付かない。

 また誰かドラゴンの女(メス)を連れて帰ってきたかな?

 って思われたようだ。

 そのため、三人の機嫌が悪い。

 まあ身長も伸び、体形も女子じゃなくて女性だからな。

 ツルペタからバインバインだから気付かないのも仕方ない。

 しかし、

「あっ、もしかしてノワル様?」

 最初に気付いたのがグレア。

「よく気付いたのう。ノワルじゃ」

「臭いと魔力が一緒だったもので」

「えっ、ノワルさん?」

 ノワルの胸を見ながら答えるベアトリス。

「えっ、ノワル様」

 さらにノワルの胸を見ながら答えるウル。

「ここで暮らしている間に膨大な魔力を吸収してブラックドラゴンからバハムートに進化したのじゃ。

 お陰でグレアに負けない武器を手に入れたぞ」

 胸を強調しながら、何かわけのわからないことを言うノワル。

「「ずるい、昨日まではこっち側だったくせに」」

 離反者に悔しそうなウルとベアトリス。


 すると、

「アリヨシ様は胸があるほうが好きですか?」

 ウルが聞いてきた。

 んー、ストレートだね。

 食い入るように返事を待つ四人。

「そうだなあ、俺はどっちでもいいかな。

 胸が大きい小さいで皆と暮らしている訳じゃないぞ」

「本当ですね?」

 ウルは嬉しそうに聞いてくる。

「本当だ」


 まあ、でも「胸があるほうがいろいろできる選択肢は増える」なんて言うと怒られそうなので言わないでおこう。


 ホールの奥にノワルの宝箱を入れる。

 一応これでノワルの引っ越しは完了だ。

「アリヨシ様、食事はどうしますか?」

 ウルが聞いてきた。

 食材は色々とある。

 ベアトリスが手配して、週一程度で貰ってきていた。

「そうだなあ……スープでも作るか?

 オークの骨を使って作ってみよう」

 寸胴鍋にオークの骨をぶつ切りにして入れる。

 大きいのは四分の一にしておく。そして水を張った。玉ねぎっぽいのやニンジンっぽいのなど野菜を適当にいれて煮込む。灰汁もちゃんと取った。

 灰汁取りはウルが手伝ってくれた。

 最後に岩塩で味を整える。

 小皿に少しとって、一口味見……。

「おぉ、うまい。

 ウルも味見してみ」

 使った皿に再びスープをとって渡す。

 ウルは俺が味見をした場所を確認し、俺を見てニヤリと笑ってから味見する。

「あっ、濃厚です。

 肉と野菜の甘味が塩味で上手く纏まっています」

「おっおお、美味いならいいんだ。

 わざわざ俺が口をつけたところで味見しなくてもいいんだぞ?」

「いいえ、ご褒美ですから」

 あっそう……ご褒美なのね……。


 ちょっと引いた。


 オークの肉は湯がいて油を落とし、その後スープの中に入れる。

 スープ皿にオークの骨を出汁にしたスープと肉の塊を入れ皆の前に置いた。

 あとはサラダ。

 パンは軽く暖めておく。

「じゃあ、いただきましょう」

 ベアトリスの合図とともに食事が始まると、

「んー、アリヨシ美味いのじゃ」

「ご主人様美味しいのです」

 と言いながらノワル、グレアは豪快に食べ始めた。

「ノワルさん、グレアさん、食事は静かにね」

 ベアトリスの声が飛ぶ。

「わかったのじゃ」

「はいです」

 二人はベアトリスの言うことを聞いて静かに食事を続ける。

 ウルは静々と食事をする。

 ウルは記憶が戻っているようだが何も言わない。

 まあ、その時話してくれればいいか……。


「ベアトリス。

 結局、居ついたね」

「はい、居つきました」

 ニコリと笑って返事をする。

 ベアトリスはホールの中に馬車を入れそこで寝起きしている。

 お嬢様らしからぬことにトイレは野になってしまうのだが、あまり気にしていないようだ。

 ウルも居ることから魔法を使って男女別で公衆トイレらしきものを作った。

 ドワーフたちも居るからね。


 食事は俺が作った物に文句を言わない。

 逆に、

「我が家の料理人が作ったものより美味しいです」

 と言い出す始末。


 まあ、気に入ってくれたのなら良しとするか……。


 四人の楽し気な会話が続く。

「俺温泉入ってくる」

 そう言って食卓を離れた。

 スプーンへの魔力を抜き温泉に浸かり、空を見上げると満天の星空。

「俺ってどうなるんだろ……」

 独り言が出てしまった。


「あー、戻ってます」

「残念」

われは戻ればいいだけじゃ」

「私も戻れば隣に浸かれます」

 俺が縮小化したまま温泉に入っていると思っていたようだ。

 イタズラのつもりだったのか、四人は服を脱いでいた。

 四人の裸体を眺めながら、

「まあ、ぼちぼちがんばるかな」

 スプーンを使い縮小化してみんなと湯船に浸かるのだった。

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