第97話 ケーブルを引こう

「アリヨシ様。

 このノートパソコンは携帯性がいいのですが、魔力が尽きると私では回復できないので不便なのです」

 と困った顔でベアトリスが俺に言ってきた。


 ホールの照明が点いたことで、夜の話し合いがホールで行われるようになった。

 折角魔力炉があるのだ。その魔力を今の施設全体に回し、室内灯や街燈と灯して使ってみるのも有りかと思う。

 たしか、農業試験場の倉庫の中にケーブルがあった。

 それを魔力炉から周辺の設備に繋げば夜を克服できるかも……。

 そして、コンセント的な道具の予備もあったから、電源ケーブルをそれに繋げばベアトリスの事務仕事も無制限になるな……。

 まあ、無理はしてほしくないが……。


 そんなことを考えながら独り言を言っていたようで、

「アリヨシ様?

 大丈夫ですか?」

 とベアトリスに心配されてしまう始末。

「ベアトリスは、夜になると明かりとしては何を使っている?」

 いきなり聞いたのわ悪かったのか、

「どういうことでしょう?」

 とベアトリスが俺に聞いてくる。

「俺が生まれた農業試験場は魔力炉を生かしたことで中は常に明るくなった。

 最たるものがホールで、明るくなったことで中で会合をするようになっただろ?

 俺やグレア、ノワルが本来の姿で居ても十分な広さがあるから便利だ。

 ただ試験場の外……、ベアトリスの馬車やエルフたちの住居にはそれが無い。

 つまりは夜になれば真っ暗なんだ。

 夜の間に何かしたければランプのようなものが必要なんだろ?」

 俺が聞くと、

「はい。

 ランプがあっても暗いですね。

 それにランプは油の補給とススの掃除が必要になります。

 ノートパソコンは画面が明るいので見えますが、仕事を終えると目が疲れて……」

 ベアトリスが頷いた。

「だから、農業試験場からケーブルという魔力を通す線を引いて各家庭やベアトリスの馬車で魔道具が使えるように魔力を供給できるしようかと思っているわけだ

 まあ、昼間のように……とはいかないが、家の中で本が読めるくらいにはするつもり。

 お楽しみに……ってところだね」

 俺が言うと、

「楽しみにしておきます」

 ベアトリスが言うのだった。


 ということで次の日。

 俺は倉庫を漁る。

「確かここに……」

 と見つけたケーブル。

 ドラムに巻かれて転がっていた。

 俺の知識の中では魔石を加工したもののようで、相当な量の魔力を通さない限り高負荷での断線は無いとのこと。

 電線とは少し違うらしい。

 ケーブル同士をつなぐ金具に、建物の中にケーブルを引き込んだ後の分配器、その後のコンセント。

 コンセントはヘッドホンジャックのような感じで差し込めば終わり……という感じだった。

 照明の数は五十ほど。

 各家庭とベアトリスのところに回す分は十分にある。

 まあ、各一部屋分ぐらいだが……。

 在庫を確認した後、エルフが仕事をしてくれるようになって暇になったグレア、ノワルに、

「ということで、ケーブルを各家庭とうちの温泉、エルフたちの温泉、ベアトリスの馬車に引くことにしました。

 お手伝いをお願いします」

 と声をかけると、

「「いいですよ(のじゃ!)」

 とのこと。

 イメージ的には電柱を使った昔ながらの電力網。

 切り倒した木が大分余ってホールの奥にあったから、これを使うことにする。

 高さは……五メートル程度?

 切り飛ばした電柱を掘った穴に埋めていった。

 力が強い俺やノワルの仕事である。


 電柱を埋めた後は石化させる。

 防腐処置をしたほうがいいんだろうけど、どうすればいいのかわからない。

 ウル経由で木の精霊に定期的に魔力を与えることを条件に菌の抑制をしてもらうことにした。

 魔力網の保守も仕事にすればいいと思う。

 こりゃ、精霊と話ができるエルフの仕事になりそうだ。


 エルフたちの場所、温泉二か所、ベアトリスの馬車の近くまで電柱を立てた後、ケーブルを乗せる腕金と呼ばれる部分を取り付けて、ケーブルを乗せていった。

 初日はここまで……。


 次の日には分岐して各家庭へ。

 分配器を使って足元と天井へ。

 照明機器を取り付けて最後に農業試験場の分配器の一つに繋げば終わりである。


 ベアトリスの馬車で点灯式。

 天井に取り付けた照明のスイッチに取り付けた紐を引くと、明るく輝く。

「凄いですね。

 昼間みたい……」

 ベアトリスが呟く。

 ノートパソコンのケーブルをコンセントに繋げば魔力を充填する表示が出た。

「これで安心して使える。

 ただ、使えるからといって夜更かしして無理しないように」

 というと、

「アリヨシ様が添い寝してくれるのであれば、すぐに寝ますよ?」

 と甘えた声で言ってきた。

 周りにいたグレア、ノワル、ウルがざわつく。

「それなら私もです」

われもじゃな」

「私だって!」

 と声を上げ、交代で添い寝することになった。


 なぜに?


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