第85話 村に説明に行きました。
俺は熊スーツを着て巨人のまま村へ向かう。
肩には四人を乗せた状態だ。
村の門番が俺たちを視認すると奥へ走っていった。
門にたどり着いたときには、
ハアハアと全身で荒い息をする
無理して死なないでね。
暫く
俺は、三人とパスを繋ぎ、会話の情報を得るようにした。
「これはこれは巫女様。えーと、あなたは?」
「クルーム家の娘、ベアトリスです」
「こっ……これは、伯爵様のご息女ですか。
すみません存じませんで」
ぺこぺこと謝る
「いや、いいのです。
私も先触れもなくここに来たのですから」
「巨人様も気にしなくていい。
と言っておられる」
ベアトリスとグレアは
「今日は、確認と報告に来たのじゃ」
ノワルが
「なんでございましょうか?」
まあ、いきなりいろいろとデカくなってるからな。
「確認としては二つ。
一つはそろそろ水は必要かどうかじゃな」
「今のところは大丈夫でございます。必要になればこちらから出向きますのでその時はよろしくお願いします」
「わかったのじゃ。
それではもう一つ。村には定期的に行商が来るのかの?」
「黒の巫女様、わが村への定期的な行商はありません。
いつもはオセレの村へ行って買い物を行っております。
あとは、村の穀物を購入に来た商人が売り物を持ってくるような感じでしょうか」
ふむ、定期的な行商は無いと……。
最終的には、商店ができるといいかな。
「私たちはこの近くで岩塩鉱山を開くつもりです。
商人が定期的に来るのでついでに行商人を派遣してもらおうと思うのですが。
村長、どう思いますか?」
ベアトリスが
「この村に定期的に行商が来るというのは喜ばしい事です。
ちょっとしたものでもオセレまで行く必要がありましたので」
「それではそのように手配しますね」
さて確認を終わった。
では報告か……事前の確認もなしでエルフが近くに集落を作る。
どう思うのかねぇ……。
「それでは、こちらからの報告じゃ。
巨神が作った壁の内側を開墾したのは知っておるの?」
「それは、報告を受けましたから」
「お主たちの手が回らないと言っていたのでこちらで勝手にやったのじゃが、やはり我々では人手が足りぬ。
そこで、エルフを労働力として住まわすことにした。
仲良くやって欲しいのじゃ」
「エルフですと!
五百年前の対戦もあります。我々に危害を加えたりはしないでしょうか?」
「お主らから手を出さぬ限り、エルフがお主らに手を出すことが無いと巨人は保証する」
俺は仰々しく頷く。
「でしたら、村としても問題はありません。
こちらもエルフたちに危害を加えないように言っておきましょう」
俺はウルを手に乗せて降ろす。
「私がエルフの代表となるウルリーク・ヴィルヘルトと申します。
ウルとお呼びください」
ウルは頭を下げた。
「おお、エルフ。美しい……」
村の女性陣の目が痛いが。
エルフの男性もイケメン揃いだ。
逆の状態になってもおかしくはない。
「エルフに関することは巫女かベアトリス、そしてウルに言ってもらえれば問題は無い。よろしく頼むぞ」
「黒の巫女様、承りました」
周りに居た村人も頷いた。
「巨人もエルフと仲良くするなら、巨人の恩恵を与えようと言っておる」
パスを使いノワル経由で
「何ですと? それはどのような」
「まだ、畑の土は起こされておらんのだろう?
その土を起こすと言うておる」
村のはずれにある村人たちの畑に行くと、地の精霊に依頼して土を起こす。
灰色がかっていた地表が水分を含んだ黒い土に変わる。ついでに、ミミズも沸かしておいた。
俺も中学時代に学校が借りた畑を鍬で耕した経験があるが、あれは結構辛い。
「巨神が『これでいいか?』と聞いておりますが」
グレアが
「巫女様、土起こしは大変な作業です。村人は助かります」
そう言って、グレアの手を握り、頭を下げた。
とりあえず「仲良くしてくれたらいいことがある」と印象付けるために行ったわけだが、喜んでくれてよかった。
ほぼ人力だからなぁ。大変だ。
「それじゃ、帰りますね」
グレアが言うと、グレア、ノワル、ベアトリス、ウルの四人は俺の手のひらに乗り、それを俺が右肩に乗せる。
すると、その姿を見て村人たちは俺を拝んでいた。
勘違いも甚だしいが、神と思われていることを利用しない手は無い。
まあ、しばらくはこれで行こうと思う。
厄介な神様だね……。
ベアトリスが、
「ルンデル商会に行商の手配をしてもらわなければいけませんね」
と言ってきた。
「そうだな、岩塩の採掘量と砂糖の製造量にもよるが月一回ぐらいで来てもらえるといいと思う」
俺は頷く。
「わかりました。
そのように手配します。
ノワル様、後でうちまで送ってもらえますか?」
いつもの流れ。
「了解なのじゃ」
ノワルが頷くとバハムートの姿に戻る。
その背によじ登るベアトリス。
二人?
一人と一頭? で町に行くわけね。
最近ノワルはベアトリスの足になりつつある。
「追加でひと月に一回として、運ぶ量としてはどの程度の岩塩が必要かも確認しておいてくれ」
俺の追加に、
「畏まりました」
ベアトリスが頷くとノワルに乗ってくる―向けに向かう。
次はウルが、
「アリヨシ様、ありがとうございました。
お陰で村人もここでやって行けそうです」
俺に頭を下げる。
「そうだな、上手くいくといいな」
「アリヨシ様、他のエルフも噂を聞いてこの土地に来るかもしれないですね。
ただ人間に変に警戒されないといいんですが」
ウルの顔が曇る。
ウルは少し心配のようだ。
五百年前とはいえ戦争していたんだ、そう考えてもおかしくなだろうな。
「普通に暮らしてりゃ大丈夫だろ?
こちらから仕掛けなければ問題ないだろうし……。
ちょっかい出してくるなら俺が何とかするよ。
グレアとノワルが居れば国家相手でも負ける気はしない。
その時は伯爵に迷惑かけるかもしれないが」
チラリとベアトリスを見る。
「それは問題ありません。
その時は勘当してもらいますから」
と頷く。
覚悟決めてるんだ……。
「ありがとな」
「いいえ、私はアリヨシ様の妻になると決めていますから」
ベアトリスはにっこり笑って答えた。
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