第54話  ベアトリスを迎えに行ったのじゃ。

 われはアリヨシに頼まれてベアトリスを迎えに行くのじゃが、われはベアトリスがおるところを知らん。

 パスを繋げば話ができるとはいえ、ちと不安じゃのう。


「できるだけ高いところを飛んでくれないか?」

 と言われておったから、高い位置から見下ろしながら飛んでいると、いくつかの村を超えた後に大きな街が見えてきたのじゃ。

 ちなみにわれがそんなことをせねばならん理由は、

「見つかったら町や村に混乱が起こる。

 だから、できるだけ見つからないように」

 とのこと。

「ベアトリスを拾うときはどうやっても姿を見られてしまうぞ?」

 と言うと、

「ベアトリスを拾うときは、仕方ない。

 できるだけ急いで帰ってくるように」

 と言われてしもうた。

「襲ってきたときはどうすればいいのじゃ?」

 と聞くと、

「ノワルなら無効化できるんじゃないか?

 なんてったってブラックドラゴン、それなりの魔法も使えるだろ?」

 とアリヨシが言ったのじゃ。

「ブレスなら一撃なんじゃが」

 と聞いてみたのじゃが、

「決してブレスを吐かないように。

 その辺が焼け野原になっちゃうでしょ?」

 と言われてしまう。

「しかし……」

「ダメ。

 ノワルだからできると思って頼んでいるわけだ」

 そう言われると、なんだか頼られているようでうれしかったのじゃ。

 じゃから、ベアトリスを拾うときはわれはブレスを使わぬことにした。

 


 さて、アリヨシ曰く、

「この辺じゃ一番大きな街らしいから、行けばわかる。

 その大きな街で一番大きな建物にベアトリスは住んでいるわけだ」

 だったのう。


 街の上から目を凝らすと、大きな街では蟻のように人が動いている。

 アリヨシが言った通りの大きな街の上から一番大きな建物を探す。

「あれじゃろうな……」

 われはその建物の上に移動した。

「ベアトリスよ、街の上に到着したぞ。

 どうすればよいかの?」

 パスでベアトリスに聞くと、

「もういらっしゃったのですか!

 アリヨシ様からノワルさんが出たと聞いてそれほど経っていません。

 私としては、もう少しかかると思っていたのに……」

 驚いた声。

「ベアトリスを失神させるほどの速さで飛べるのじゃ。

 ここに来るのもそれほど時間がかからん」

「そうでしたね……。

 ちょっと思い出したくありませんが……」

 われも思い出してしもうて、申し訳なく思ってしまう。

「ちょっと待っていてもらえますか?」

 ベアトリスに言われ、

「わかったのじゃ」

 とわれは言うのじゃった。


 結構な時間が経ち、

「はい、お化粧もできましたし、服も着ました。

 もしもがありますので、着替えも入れたとランクも持ちました。

 準備も終わりましたので、庭に白い建物があると思います。

 そこの横に降りてもらえますか?

 持って行きたいものもありますので」

 とベアトリスからパスでの連絡。

 

 女という者はこれほど準備に余念がないのか……。

 「お嬢様の準備は時間がかかるかもしれないが、怒らないようにな」

 と言われておらんかったら、ブレスを吐いていたかもしれん。


 見下ろせば確かに屋敷に庭があり、そこに白い小さな建物が見える。

 それを目印に降りていると、ベアトリスの姿が見えてきた。

 その横に樽。

 なんじゃろう?


 われが降りるにつれ、われの姿を見たものが指をさす。

 そのうち剣や槍を持った兵士たちも現れる。

 アリヨシが、

「ベアトリスを攫われないように兵士たちも出てくるから、それも殺しちゃダメだよ」

 言うが、われが、

「ブレス……」

 と言ったところで、

「ダメだよ!」

 と念を押されてしもうた。

 確かにブレスは強いんじゃが、手加減が難しいからのう……。


 われは翼を畳み、一気にベアトリスの前に降りる。

 地上に降りる寸前に大きく羽ばたきストンと降りると、兵士たちが吹き飛ぶ。

 ベアトリスが驚いておった。

 ちゃんとベアトリスは魔法で保護しておったのじゃぞ。


「お待たせなのじゃ」

 われが言うと、

「私のほうがお待たせして申し訳ありません」

 ベアトリスも頭を下げる。

「それでは、この樽を持って、私を背に乗せて行ってもらえますか?」

 タルを指差し言うので、

「心得たのじゃ。

 まずはベアトリスじゃのう」

 われは伏せると、ベアトリスを背に乗せる。

 そのあと樽を持つと、

「それでは出発じゃ」

 と飛び立とうとした時、

「ベアトリス、どういうことだ!」

 とはち切れんばかりの筋肉を持った男が現れた。

 われを危険な魔物だと思っておるのか、近寄って来ん。

 まあ、われは危険な魔物なのじゃがな。


「お父様。

 とあるところにお呼ばれをしております。

 本日中には屋敷に帰る予定ですが、もしかしたら明日の朝になるかも……」

 ベアトリスがにこりと笑う。

「まさかその樽は……」

「ワインです。

 せっかくの食事にお酒が無いのも寂しいではないですか」

「えっ……。

 飲んだら、帰ってこられないのではないのか?」

「だから『日の朝になるかも……』と」

「ブラックドラゴン……。

 まさか、巨人のところか!」

「ワイバーンとグラスレックスリーダーの肉を焼くそうです。

 楽しみですね。

 それでは行ってきます」

 と言ってベアトリスが我を見る。

「それじゃ行くかのう」

 われはバサリと翼を羽ばたかせると、空へ舞い上がる。

 心配そうに見上げるベアトリスの父君。

「過保護すぎるのです。

 一人娘も考え物です」

 ベアトリスがため息をつきながら言う。


「良い父君のようじゃな」

「はい、それはいいのですが、まあいろいろと……」

「今日はアリヨシの料理を食べるのじゃろ?

 そんな顔をしてはいかん」

「そうですね。

 今日は皆で食事を楽しみましょう」

 ベアトリスが大きく頷くのだった。


「ベアトリスよ、大丈夫か?」

 われは聞く。

 前回の二の舞にするわけにはいかん。

「一度体験しているのもあるのでしょうが、はい、このくらいなら問題ありません。

 それにしても早いですね。

 あの場所から屋敷まで、あまり時間がかからないのがわかります」

 ベアトリスは地上を見下ろしながら言うので、

「今は、大分手を抜いておるからな」

 とわれは言う。

 行きと倍ほどの時間がかかったがアリヨシが居る山見えてくる。


 さて……今日は肉の日じゃ。

 ワイバーンの肉……。


 思わずヨダレを垂らしてしまうわれじゃった。


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