第5話 私。

 私は銀狼。

 お父さんは……もういない。

 群れで狩りをするはずの銀狼。

 でも今は私一人だけ。

 銀狼は群れで狩りをする。

 私は一人だから……狩りが下手だ。

 ここ何日か何も食べていない。

 お腹が空いてたまらない。

 でも獲物を得られなければ食べられない。

 だからお腹を空かせて寝る。


「ギャーウ!」

 鳴き声で目を覚ました。

 走竜だ!

 私が寝ているところを、声を出して襲ってきた。

 走竜は鼻がいい。

 今の私じゃ勝てない。

 私は全力で逃げ始めた。

 お腹が減って力が出ない私は、一撃一撃と尻尾や足に攻撃を受け、ついには倒れてしまった。

 走竜が私の首に足を置き、口角を上げる。


 勝ち誇っているみたい。

 ああ……私は死んでしまうんだ。

 折角お父さんに助けてもらった命なのに……。


 目をギュッと瞑り絶命を待っていたのに何も起こらなかった。

 目を開けると、見上げるような人間。

 手には剣を持っていた。

 私も人間は見たことがあるけど、こんな大きな人間は見たことが無い。


 人は私に近寄ると、手を添える。

 すると、私の怪我が治った。

 

 えっ、えっ?


 私はきょろきょろと見回した。

 あっ、この人が走竜を倒したんだ……。

 次はこの人に殺されるのかな?

 

 あっ、父さんがどうやっても勝てないと思ったらこれをやれって言ってた。


 私は腹を人に向けて寝転がった。

 そして、すがるような目。


 すると大きな人間は私の腹を撫でる。

 優しい目だ。

 

 きもちいい……。

 

 思わず目を瞑ってしまうわたし。

 撫でられていると、

「おっと、チ〇コないねぇ。お前メスか?」

 と聞かれた。

 言葉がわかっても、

「ワウ」

 と吠えるしかない私。

 でも大きな人間は、

「お前頭いいな。返事できるのか」

 と頭を撫でてくれた。

 嬉しくて、

「ワフ」

 再び私は返事をする。

「やるのう」

 口角をあげる大きな人間。

「ワフ」

 私が返事をするたびに、人間は嬉しそうに頷いていた。


 人間が撫でるのをやめたので、私は大きな人間の横に座る。

 すると、

「お前名前要る?」

 と人が聞いてきた。

 私は、

「ワフ」

 と吠えて、名前が貰えるのが嬉しくて、ブンブンと尻尾を振る。

 すると、

「ポチ」

 と言った。

 

 ポチって何?

 何か嫌。

 適当っぽい!


「クゥーン」

 私は嫌な顔をしたと思う。

 思わず尻尾が垂れた。

「じゃあ、タマ」

 

 これも適当。

 種族的に自分に合わない気がする。


「クゥーン」

 再び私は嫌な顔をする。


 もう少ししっかり考えてください!


 そんな事を考えていると、大きな人間は頭を掻きながら考え始めた。

「日本語の奴はダメか? うーん、灰色だからグレー、ちょっと変えてグレアってのは?」

 と聞いてくる。


 グレア!

 なんかカッコいい!

 ちゃんと考えてくれたって感じ。


「ワウ!」

 私がその名前を受け入れると、その人の何かが私の中に入ってくる。

 何か繋がったようだ。

 何となく

「ご主人様」

 私が言うと、

「ん?」

 と、ご主人様が私を見る。

「ご主人様」

 私は嬉しくて、ご主人様を見上げながら、座りをしてブンブンと尻尾を振ってしまっていた。

 すると主人様が

「グレアか?」

 と確認するように聞いてきた。

「そうです、グレアです。

 先ほどは助けていただいてありがとうございました。

 あのままだったら死んでいました」

 私はご主人様に礼を言った。

 俺を見ているだけだが俺には言葉が聞こえてくる。


 話に聞くと、ご主人様が名前を知った者は話しができるということらしいです。


「グレア、あれどうする?」

 ご主人様が走竜の体を指差した。

 ご主人様には聞こえなかったみたいだけど、私のお腹がグウと鳴り、舌を伝って涎が垂れていました。

「ご主人様、走竜の肉は美味しいのです。

 昔、群れで狩った時に食べたことがあります。

 食べましょう!」

 私は尻尾をブンブン振りながら、ご主人様に提案すると、

「じゃあ、俺んちで食うか?」

 とご主人様が言う。


 やった!

 お肉だ!


 わたしは、

「はい!」

 と頷いた。

 

 ご主人様は走竜の体を軽々と担ぎ、走竜の頭も右手に持つとどこかに歩き始める。

 わたしは、その後を追って、久々の食事を期待しながらご主人様に付いて行く。

 こうして私はグレアになるのだった。

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