第63話 オヤジさんとやり合うことになりました。
ベアトリスは、護衛に引きずられ(るふりをし)て人垣の一番前に連れて行かれてしまう。
「誰ぞ、開始の合図を!」
オヤジさんが言うと護衛の隊長だろうか、一歩前に出て
「それでは私(わたくし)めが。
いきまずぞ!
はじめ!」
開始の号令をかけた。オヤジさんは動かない。
「メイピ」
オヤジさんの下に深さ二メートル程度の穴を掘ると、見事に落ちた。
一応、怪我をしてはいけないので、地の精霊に頼み、底はフカフカだ。
「ずるいぞ! 正々堂々と戦え!」
穴の中からオヤジさんの声。
「だって、何でもありって言ったし!」
俺が言うと、
「では、魔法無しなら何でもいい!」
条件が変わった。
意外と駄々っ子なのはベアトリスと一緒か。
「魔法無しでいいのか?
あったほうがいいと思うけど」
「魔法無しだ!
魔法が無ければ何でもいい」
あっベアトリスが笑ってる。
あいつ結構悪い奴なんだな。
「じゃあ、魔法無しで……。
文句言わないでよ?」
俺は、スプーンへの魔力供給を絶った。
すると元の身長に戻る。
サーベルが巨大化した。
ああやっぱり、持ってるものや身に着けているものは適正な比率で大きくなったり小さくなったりするんだな。
再確認する俺と唖然とするオヤジさん。
「これでやってもいいですか?」
俺が言うと、
「無理だ、勝てぬ。人が巨人になど、一対一で勝てるはずがない」
結局全面降伏。
ありゃ匙投げちゃったよ。
俺をじっと見上げるオヤジさん。
「いや、えっまさか。
お前、ベアトリスを救ったという巨人なのか?
そう言えば知性を持っておると言っておった」
「ああ、それ俺のこと。
だから、さっき魔物だと言ったのに」
と言ってスプーンに魔力を通し小さくなる俺。
「いや、その格好なら魔物に育てられた野生児かと……」
この世界ならありそうなシチュエーション。
そして何かを考えるオヤジさん。
何かに気付くと、
「お前、岩塩鉱脈を見つけなかったか?」
と聞いてきた。
「ああ、ドリスから手紙がここに着いたんだな。
そう、見つけた。素人目だから専門知識を持つ人に見てもらいたいと思って、ドリスに頼んだんだ」
「ドリス、ああ、手紙の主はドリス・ベックマンだったな。巨人が見つけたと書いておった」
「そう、俺は彼女の従魔だからね」
「じゃが、立場は逆のようじゃな。
お前にドリス・ベックマンが従っているように感じる」
よくお分かりで。
「ベアトリス、ちょっと来い」
口を押え笑いながら登場するベアトリス。
「お前こうなることを予想していたな?」
「ここまで嵌るとは思いませんでしたが、おおよそは」
オヤジさんは俺のほうを見て聞いてくる。
「お前、ベアトリスを妻にするつもりか?」
ベアトリスは不安げにじっと俺を見上げる。
「そうだな、できればベアトリスを妻にしたいと思っている」
するとベアトリスはぱっと明るい笑顔になった。
「ふむ、それには、実績を残してもらわねばならん。
何の実績も無い男に我が娘をやることはできん。
周りを納得させる必要もあるのでな」
「俺は魔物だが?」
「我が家に貢献してもらえるのならその辺は気にしていない。
それに、お前には我々に無い知識がある。
並みの魔物が岩塩鉱脈など知らんだろう?」
オヤジさんは言った。
「それでは婚約……」
ベアトリスは言おうとしたが、オヤジさん食い気味に否定する。
「婚約はまだ無理だ。
岩塩鉱脈が実際に商業的に成り立つと判断されるまでは婚約は無い。
まあどうせ儂がダメだと言っても、こやつのところに行くのだろ?」
「はい、ノワルさんも居ますから、すぐに行けます」
それに呼応するようにノワルが翼をはばたかせた。
「一つ提案があるのだがな」
オヤジさんが言ってきた。
「なんでしょう?」
俺はオヤジさんを見る。
「お互い『お前』ではなく、呼び捨てでもいいから名で呼ばんか?」
「んー、それもそうですね、では、俺はステファン様と呼びます。
あなたの立場もあるでしょう。
こんな小童に舐められているという噂が流れてもいかんでしょうし……」
「儂は、呼び捨てでいいかな?」
「ああ、いいですよ」
「で、名は何という?」
そういや言ってなかったね。
「アリヨシです」
「では、アリヨシと呼ばせてもらおう」
「アリヨシ、この後どうする?」
ステファン様が俺に話しかけてきたので、
「とりあえずは収入でしょうか」
と答える俺。
「岩塩鉱脈の件はベアトリスに任せようと思う」
オヤジさんはベアトリスのほうを見て言った。
「わかりました、お父様。私がアリヨシ様と相談して岩塩鉱脈を成り立たせてみせます」
「ふう……」
とため息一つつくと、
「ベアトリスと仲良くやってくれ」
オヤジさんは俺に言った。
「気遣いありがとう。それじゃ帰ります」
俺はノワルの背に乗り、ベアトリスに手を振る。
そして、ノワルとともにホールへと向かう俺だった。
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