第109話 村を救うことになりました。

 門の大きさも決まったところで、

「アリヨシよ、目を覚ましそうじゃぞ?」

 ノワルが俺を呼んだ。

 俺を見た獣人の子は、

「うわぁぁぁぁぁぁぁ。

 巨人があー!

 食べられるぅー!」

 と恐れおののく。

 ちょっと傷つく俺。

 まあ、初見の巨人を恐れない者は居ないか……。


「落ち着いてください、あの巨人は悪い巨人じゃありません」

 グレアが優しく声をかける

「大丈夫じゃ」

 ノワルも声をかける。

「大丈夫だから」

 ドリスが獣人の子を抱きしめ背を叩くと、子供は落ち着いたようだった。

 俺も縮小化したほうが良かったのだろうか。

 まあ、男が出ていくよりも優しいお姉さんのほうがいいのは流れだよな。


 落ち着いた子が俺を見る。恐れを抱く顔。

 俺が笑うと少し安心したようだった。

「さあ、一度帰るか」

 と皆に言って、グレア、ノワル、ガキんちょを肩に乗せ、ドリスはウラノスに乗り俺んちへ帰るのだった。

 帝国はこの子に何をしたのだろう。


 俺んちに帰ると、ホールの前で俺はグレア、ノワルそして獣人の子を降ろし人サイズに戻った。

「巨人が人に」

 そりゃ驚くだろうね。


「悪い、巨人で話すよりもこっちのほうがいいだろう?

 さっきみたいに怯えられても困るしな。

 ちなみにグレアはフェンリルだし、ノワルはバハムートだ」

「これが私の本当の姿です」

 グレアがフェンリルに戻る。

「これがわれの本当の姿じゃ」

 ノワルもバハムートに戻った。

 獣人の子はドリスのほうをじっと見ている。

 そりゃこの流れからいったらドリスもってところだが、

「私は人ですから……変化しませんよ?」

 ドリスが獣人の子に言うと、獣人の子はちょっとがっかりしているように見えた。


「ところで、ガキんちょ」

 俺が獣人の子に言うと、

「ガキんちょ言うな!

 アリーダって名があるんだ!」

 と怒られた。

「ご主人様、いきなり『ガキんちょ』は無いのでは?」

 グレアに窘められる。

「じゃあ、アリーダくん」

「『くん』じゃない!」

「アリーダは女性の名前ですよ?」

 ドリスに言われてしまう。

 ん?

 おお、女の子だったのか。

 確かによく見れば胸がある。


「じろじろ見るな」

 おっと、怒られた。

「見たいのなら、われが見せてやる……」

 ノワルがモジモジと体をゆすりながら上半身の服を消そうとしたので、

「今はいい」

 と食い気味に止めた。


「なんじゃ」

 と不貞腐れるノワルを置いておいて、

「おお、悪かったな。じゃあアリーダちゃん。何で追われていたんだ?」

 と聞いてみた。

「そっ、それは……」

 一度目を逸らすアリーダ。しかし、再び俺の目を見ると、

「兄ちゃんは強いのか?」

 と質問で返す。

「強い弱いで言えば一応巨人だから強いだろうな」

 と答えると、

「だっだったら、皆を助けてくれよ!

 帝国の軍隊が村に来て急に俺たちを捕まえたんだ」

 縋るように言うアリーダ。

「ふむ、それをしたら俺に利点は?」

 と聞くと、

「そっ、それは……」

 アリーダは言葉が詰まった。

 まあ、利点などなくても助ける気にはなっていたが一応聞いてみた。

「でも、俺にはこの体しかないから……おっ俺が兄ちゃんの奴隷になるよ。

 何でもする……だから……」

 交渉できる唯一の者だったのだろう。

 震えながらアリーダが言う。

「別に奴隷なんて要らない。

 欲しいとも思わない。

 婚約者結構居るしな……」

 と取り合わない俺に、

「えっ」

 アリーダは俺への隷属の選択肢以外が思い浮かばないようで何も言わなくなる。


「アリーダ」

 あえて呼び捨てにした。

「はい」

 俺を見るアリーダ。

「お前たち獣人は勤勉か?

 よく働くか?」

 俺がそう言うと、

「ご主人様……」

 嬉しそうに尻尾を振るグレア。

「アリヨシも意地悪じゃの」

 口角を上げるノワル。


「えっ」

 アリーダは意味が分かっていないようだったので、

「『お前たち獣人はよく働くのか?』って聞いているんだよ」

 俺は再びアリーダに聞いた。

「ああ、俺たち獣人は良く働く。

 主人と認めた者を裏切ったりしない」

 良い方に向かわせたいアリーダは泣きながら俺に言った。

「そうか……ベアトリス。

 労働力はあったほうがいいよな」

 後ろを向いて言うと、

「アリヨシ様、当然です。

 人の数こそが力です」

 俺たちの様子を見に来ていたベアトリスが頷いた。

 ベアトリスと一緒にウルも来ている。

「ドリスの手下も要るしな」

 ドリスを見ると、

「はい、騎士一人では、ここは守れませんから」

 ニヤニヤしながら頷く。


「さて、決まりだな。

 ベアトリスはここで待機。

 何かあったら調整してくれ」

「はい」

 ニコリと笑って頷く。


「ウル、エルフを動員してできるだけたくさん食事を作ってくれ」

「わかりました」

 ウルは頭を下げ、エルフの集落に走った。


「ドリスはドワーフと荷馬車で壁の手前まで移動して待機。

 歩けない者も居るかもしれない」

「わかりました。

 ドワーフの所に行ってきます」

 ドリスも走る。


 俺は再び巨人に戻ったあと、

「俺とグレアとノワルは魔物だ。

 魔物が村を襲っても問題あるまい?」

 というと、

「そうじゃな、村に居た者はすべて食い殺されたのじゃ」

 ノワルが話に乗る。

「ご主人様のことです、最後には村が無くなるのでしょう?」

 フェンリルに戻ったグレアの口角が上がる。

 グレアはわかってるみたいだね。


「そのつもりだよ。

 兵士と獣人は俺たちに殺された。

 だから、もうこの世にはいなくなる。

 それでいいんじゃないか?」

「わかんない!

 それに獣人が殺されるなんて困る」

 理解できないアリーダが泣き始める。

 説明が要るか……。


「兵士を殺し、村人を逃がした後、その後その村が吹き飛ぶほどの事が起こったら、そこに居た村人はどうなったと思われる?」

「あっ」

 アリーダが思い立ったようだ。

 やっとわかったかな? 


「一緒に吹き飛んだと思われる。

 壁の向こうに行っても追手は来ない」

 アリーダの顔に笑顔が戻る。

 

 壁向こうの仕業じゃないということにもできるしね……。

「そういう事だ。

 だからアリーダにも頑張ってもらわなきゃいけない。

 巨人の俺が説得しても聞いてくれないだろうからな。

 さあ、この手に乗れ。

 アリーダの仲間を助けに行こう」

 手を差し出すと、

「うん!」

 何かを決めたようなアリーダが頷いた。

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