第39話 ワイバーンの肉を買いに行きます。
私の部屋でベッドに腰掛けてクルーム伯爵のお金の流れを見ていた時、
扉をノックされ、
「ベアトリス、居るか?」
お父様の声が聞こえた。
「はい居ります。
どうぞお入りください」
私が言うと、お父様が部屋に入ってくる。
「何でしょう?」
とお父様を見あげると、
「ドリス・ベックマン騎士爵の所で程度の良いワイバーンが手に入ったとオピオの冒険者ギルドから連絡があった。
その肉を手に入れるために、価格の交渉に行ってもらいたいのだ」
私を見てお父様が言う。
「そう言えば今度、王都から公爵様が来るということで、近しいものを招いての宴会をすると聞いてはいましたが……」
「そうそれだ。
それの目玉になるものが無いか手を尽くして探していたのだが、先ほど冒険者ギルドから連絡があった」
「それが、ワイバーンなのですね」
と聞くと、お父様が頷いた。
「アントンに行かせてもいいのだが、アントン付きの騎士から聞くには、アントンはドリス・ベックマンに強引な求婚をして、取り付くしまもなく断られたらしい」
「それは私も聞きました。
巨人の討伐を無理強いした上に従えて帰って来た巨人の巫女を手籠めに使用として、巨人と巫女に手を出され、這う這うの体で逃げ出したとか」
「儂の名を出してついてくるような女ではダメだろうがな。
ドリス・ベックマンは違ったようだがな。」
「当然です。
伯爵の名前についてくるような娘がアントンに嫁いできたのなら、私が追い出します」
「まあ、それの謝罪もある。
少々色付けして買い取っても構わない。
」
と言ってお父様は頷いた。
「アントン……。
自領で揉め事を起こすなど、情けない。
メルトナ母様が甘やかすからです。
お父様も甘い」
私はため息をついた。
お父様も苦笑いしている。
「そう言うな。
貴族の次男など、もしものための控えのようなものだ」
と言うお父様。
「だからと言ってお父様の力を笠に女漁りではいけません!
マルスお兄様の片腕となってこのクルーム伯爵領を盛り立てることを考えるべきなのです!」
「確かにそうだな。
そこはこちらから言っておこう」
と言うお父様ですが、あまり強くは言わないのでしょうね。
だからアントンが調子に乗る……。
「あとはマルスが後継ぎを作ればクルーム伯爵家は安泰なのだが……」
顔を顰める腕を組むお父様。
長男のマルス兄さんはマリア義姉さんと結婚して三年ほどになるが、まだ子供ができていない。
その辺を心配しているのでしょう。
そんなことを考えていると、お父様は何かを思い出し、
「そう言えば、お付きの騎士に聞いたのだが、ドリス・ベックマンは珍しい魔物を従えているらしい。
巨人にドラゴンだそうな。
フェンリルは居ないがどこかで聞いた話だな」
不意の情報に思わず、
「えっ?」
と、声をあげてしまった。
まさか、あの巨人?
少しボーっとしていたようです。
私の顔を見て、お父様はイタズラが成功したように笑う。
「それで、ドリス・ベックマンの村に行くのか行かないのか?
行かないというのなら、誰か別の者を行かせるのだが?」
と聞かれ、
「いいえ、お父様からの申しつけです。
当然参ります」
と答えた。
続けて、
「嬉しそうだな」
と聞いてくるお父様に、
「はい、また旅ができますから」
私は心にもない事を言って誤魔化すのだった。
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