第40話  再会しました。

 開墾が終わり何日か経った夜に

「アリヨシ様、今いいですか?」

 ドリスからパスが繋がった。

「どうした?」

「冒険者ギルドから先触れがありました。

 明日の朝、村にワイバーンの素材を買い取りに来るそうです。

 ついでにグラスレックスリーダーの素材も売ってしまおうかと思います。

 よろしいでしょうか?」

「了解、明日の朝ドリスの村へ行くよ」

「はい、お待ちしています」

 嬉しそうな声だ。


 そして次の日、暗いうちから支度をすると人化したゴスロリのグレアとノワル、そして町娘なエルフのウルの三人を俺の肩に乗せドリスの村へ行った。

「おはようさん。こんな朝早くから待っていたのか?」

 俺たちが村へ着いたのが、日が出てしばらく経った程度だったので、いつから待っていたのか心配だったのだ。

「私の館の窓からアリヨシさんが来るのがわかるので大丈夫です。

 見えたらすぐ迎えに出ているので、いつも居るように思われているのかもしれませんね」

「無理をしていないなら良かった」

 俺はとりあえず村の外で片ひざをつき待機の姿勢になる。

「グレア、ノワル、ウルはパスを繋いで買取の立会をしてくれ。」

 三人がコクリと頷く。

 そして、ドリスと一緒に村の中へ入っていった。


 暫くすると、村の反対側の門の方に高級そうな馬車と六人の護衛の騎士、その後ろに荷馬車が現れた。


 何か見たことある馬車だ……。


 ドリスがその馬車を出迎え館の方へ向かうと、パスを通してあるので会話が聞こえてくる。

「私はギルドの買取担当マーカーと言います。

 今回はこの買取の担当をさせていただきます。

 こちらがクルーム伯爵の長女、ベアトリス様です。」


 なぜに伯爵家の長女がここに?


「私はこの村を預かる騎士、ドリス・ベックマンです。

 なぜ、この場に伯爵のお嬢様が?」

 と聞くドリス。

「いいねぇドリス。俺も知りたかった」

 とパスで言うと、

「聞いておられるのですか?」

 ドリスから声が入る。

「パスを繋いだからね」

 と返しておいた。


「この度、クルーム伯爵家で催し物があり、その際に提供する目玉料理で悩んでいたそうです。

 たまたまギルドにクルーム伯爵本人が相談に来た時、このティング村でワイバーンを狩ったという報告がありました。

 そこでワイバーンの肉を買い取りたいと申し出があり、クルーム伯爵本人の代わりにベアトリス様がこの場に来た訳です」

 マーカーという男が言った。

「そうですか、ただ、肉は村に足一本、

 残りは巨人とその巫女たち、というふうに分けました。

 村の分についてはすでに食べてしまっております。

 肉については巫女に相談してください。

「ちなみに相場は?」

 パスでドリスに聞く。

「そうですね、拳大の塊で銀貨十枚ぐらいですね」

 銀貨って貨幣価値が分からない……。

「先に肉以外の物を見ますね」

 マーカーはワイバーンの素材を見始めた。


 俺の巫女設定の三人の中にグレアとノワルを見つけると、

「あなたたちは先日の……」

 ベアトリス様が話しかけてきた。

「先日?」

「先日、何があったのかの?」

「先日何があったの?」

 ウルが知らないのはわかるが……グレアとノワルは本気で忘れているようだ……。

 首を傾げて考えている。

「この前、賊に襲われた馬車を助けただろ?」

 俺はパスでグレアとノワルに声をかける。

「賊に襲われた馬車?」

 グレアはまだ思い出さない。

「小さくなれる魔道具を依頼しなかったか?」

「おうおう、そう言えば、そういう事もあったのう」

 ノワルは思い出した。

「そう言えば、そんなことありましたね」

 グレアも思い出した。


「アリヨシ様は?」

 ベアトリス様が俺の場所を聞く。

「アリヨシはドリスの従魔じゃからの、門の外で待っておるぞ?」

 ノワルが答えた。

「そんな事をお父様から聞きましたが、ドリス殿がアリヨシ様を倒したので?

 本当にそんなことが可能なのですか?」

「あっ、まあ、色々事情があるのです」

 ドリスが口ごもる。

「事情……ですか?」

「別に言っていいんじゃない?

 俺がドリスと戦うのが嫌だから従魔になってる……って」

 パスでドリスに声をかけたが、それより先に、

「ご主人様はドリス様と戦うのを嫌がり、ドリス様の従魔になったのです。

 ただ、従魔と言っても縛りなどは有りません。

 家に居てパスで呼ばれたドリスさんの村に来る程度ですね」

 とグレアが説明した。

「グレア、パスの話を向こうは知らないぞ?」

「あっ」という顔をするグレア。

「アリヨシ様は優しいのですね。

 ところでグレアさん、パスと言うのは?」

 すぐにパスシステムの事を突っ込んできた。

 ベアトリス様は頭がいい女性のようだ。

「アリヨシ様は気に入った人と心を繋ぐことができます。

 それをパスと言います。

 パスが繋がると遠くに居ても話ができるのです」

 俺が教えたとおりにグレアが説明する。

「どうすれば、アリヨシ様はパスというものを繋いでくれるのですか?」

「ご主人様が気に入ったらと言う条件ですので……」

 困ったグレアが口ごもる。

「どうすれば気に入るのでしょう?」

「それはご主人様に聞いてみないと……」


 グレアが押され気味だね。

 ちょっと可愛そうかな。


「そんなに俺とパスを繋ぎたいか?」

「えっ、あっ、声が聞こえる」

 ベアトリス様がきょろきょろと周りを見回す

「パスを繋いだんだ。

 あの時、俺は君の名を聞いている。

 だから、いつでも繋げたんだ。

 でも、あなたとの会話が無かった状態でどう繋げばいい?

 いきなり繋いで驚かせてどうする?

『気に入ったらって』言って言うのは、事情を説明して納得してからでないと意味が無いから。

 それに、あんなに押して来たらグレアが困るだろ?」

「すっすみません」

 謝るベアトリスに、

「パスと言うのはこういうものだ。

 わかったか?」

 俺は言うとベアトリスは頷くのだった。


「今繋がっているパスというのはずっと使えるのですか?」

「パスは一度繋いだらずっと使えると思う。

 使えるようにしておきたいんだろ?」

「ええ、まあ、知性のある巨人など聞いたことがありませんから」

 ベアトリスが言う。

「戦争なんかは手伝わん。

 相談ぐらいは聞くが」

「では相談相手としてお願いします」

 とベアトリスが言うので、

「それぐらいなら問題ない」

 と言っておいた。

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