第41話 長いんです。

「それで、ワイバーンの肉はどのくらい要るんだ?」

「今回は足を売ってもらえれば量的に問題ありません。

 しかし、グラスレックスリーダーの肉も珍しいですね。

 金貨三十枚でどうでしょうか?」

「相場が分からないんだよな……」

 この世界に来て初の金勘定である。

「大体一塊で銀貨十枚ですね」

 何かと知っているドリスが居ると助かる。

 単純計算で、一塊が五百グラム。あの足が百キロだとすると。銀貨二千枚か……。

「ドリス、銀貨二千枚って金貨で言うとどのくらい?」

「金貨二十枚ですね」

 貨幣価値では金貨一枚が銀貨百枚って考えればいいのか……。

「ベアトリス様、ちと買い取り額が高すぎませんか?」

 俺が言う。

「いいえ、三十枚でも安いですね。

 残った素材を見ると、丁寧に捌かれ綺麗に血抜きもされている。

 魔力が高いワイバーンだったのでしょう。

 腐敗も無く鮮度も申し分ない。

 私もこれほどの物は見たことがありません」


 そんだけわかるって事は、このお嬢さん相当ワイバーンを見ているってことか。


「俺たちは金貨二十枚で考えていたから、間を取って金貨二十五枚でどうだ?」

 と俺が聞くと、ベアトリス様は少し驚き、

「高く売ろうとする者は多く見てきましたが、安く売ろうとする者は初めて見ます」

 という。

 とはいえ、

「んー、そんなにお金が欲しい訳じゃないしなぁ。

 パスじゃないけどベアトリス様とつながりを持っていたほうが後々得だろうしね。

 金貨五枚でベアトリス様の信用を買えるなら安いもんだろ?」

 俺がそう言うと、ベアトリス様は首をかしげる。

 そして、

「あなたは本当に魔物なのですか?

 損得で動きました。

 肉の値段も暗算ですぐに出しましたね?

 魔物が計算をするなど聞いたことがありません!」

 と聞いてくる。

「さあ、どうなんでしょうね?

 巨人は寿命が長いと聞きます。

 高度な知識を持っていてもおかしくないでしょう?

 代金はギルドへ振り込んでおいてください。

 それでは、パスを切ります。

 話したければ念じると繋がります。」

 俺はパスを切った。

「こうすればいいんですね」

 ベアトリス様がパスを繋ぐ。

「そういう事です」

「じゃあ、切りますね」

 今度はベアトリス様がパスを切った。


 素材の鑑定をしているマーカー。

「これほど丁寧に解体されたワイバーンを見たことが無い。

 痛んでいる場所は、羽の根元の部分と首だけですね。

 皮は革鎧だけでなく鎧の下地に、マントにも使える。

 グラスレックスリーダーの素材もなかなか手に入らないものが多い。

 あーこれだけあればギルドの収入が……」

 

 目がドルマーク……?

 いや、貨幣単位って何だろ?

 まあ、いっか。


「ノワル、悪いんだが家に帰って傷めないようにワイバーンの足を持ってきてくれないか?

 奥に足だけで置いてあったと思う」

 話が長そうなのでパスでノワルに頼む。

「わかったのじゃ」

 ノワルは門の外まで出ると、ブラックドラゴンになり家へ戻った。


「ご主人様、長いですね」

「長いです」

 パスでの会話、グレアとウルが退屈そうだ。

 マーカーは紙に何かを書いて計算をしている。

 査定に時間がかかっているのだ。

「ああ、長いな」

 俺も言うと、

「アリヨシ様、ここまで綺麗な素材は無いのです。牙や爪も武器として使えますから」

 ドリスが説明してくれた。

 でもやっぱり暇だ。

「何を話しているのです?」


 あっ、ベアトリス様がパスを繋いで入ってきた。


「査定が長いって話していたんだよ」

「確かに長いですね」

 ベアトリス様も飽きているようだねえ。

「ノワルがもうすぐ帰ってくるぞ?

 帰ってきたら散歩でも行くか?」

「ご主人様、散歩、いいですね」

「私も行きたいです」

 グレアとウルは賛成らしい。

「私も行きたいですね」

「私もです」


 ああ、ドリスにベアトリス様もですか……。

 ん?

 結局全員?

 まあいっか。


「ただいまなのじゃ、足を持ってきたぞ?」

「おう、ありがとさん」

 結局、肉が届いても査定は続いていた。

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