第118話 街の中に入りました。

 人があまり出歩かない町。

 フルプレートメイルを着た兵士がウロウロしている。

 一応俺の奴隷という設定にはなっているが、モデル並みのスタイルを持つグレア。

「あんまり目立ちたくは無いが、グレアが目立つなぁ。

 とりあえず泊まる宿を探すか」

 中央へ向かう通り沿いに歩き続けると、宿屋が見つかる。

「ここにするか」

 そう言って中に入った。


「旅人の宿へようこそ。このような辺鄙な場所へ珍しいですな」

 でっぷりと太った店主が現れる。

「この町で獣人の奴隷が手に入ると聞いたもので。

 珍しいとは思いますが見ての通りの獣人好きです」

 というと、

「確かに珍しいですな。

 この帝国では獣人は忌み嫌われる存在ですから。

 それにしてもそちらの奴隷は見事な毛並みだ。私が欲しいぐらいだ」

 値踏みするようにグレアをじろじろと見る店主。

「今回はこの砂糖と岩塩を売るついでに新しい奴隷を手に入れようとここまで来たのです」

「獣人の奴隷ですか?」

 と残念そうな顔をしたあと、

「今後はこの街での取引は無くなりそうです」

 店主が言う。

「それはなぜですか?」

 と聞くと、

「この前、この近くにあった獣人の村で何かが爆発しまして、村ごと消し飛んでしまったのです。

 奴隷はその村から連れて来られたものだったので、もう獣人の奴隷が供給されることは無いでしょう」

 一応、シナリオ通りに誤解してくれている。


「それでも、消し飛ぶ前に来た獣人の奴隷は居るのでしょう?」

「税金の肩代わりに連れて来られた獣人なら役場の牢屋に居るでしょう。

 気になるのであれば口利きいたしましょうか?

 そちらの奴隷ほど育ってはおりませんが……」

 とグレアを見た後、アリーダを見る店主。

 そして、

「あっ……もう一人の奴隷のような子でも大丈夫な方ですか、それならば問題ありませんね」

 盛大な誤解をしながら店主が俺に言った。

 わざわざ誤解を解く気も無いので、

「この子たちを含めて獣人たちはよく働いてくれますので、はい、よろしくお願いします」

 俺は言う。

「夜の方もよく働きそうですな」

 店主はニヤリと笑い、やっぱり盛大に勘違いされていた。


 もう面倒……。


「そうですね、満足させてもらっています。

 それで、あまり周りに迷惑をかけてはいけないので、できれば大きめの部屋をお願いできますか?」

 俺もニッコリと笑った。

 意味を知っているのかアリーダが赤くなる。

「お客様の要望をかなえられるのは当店で一番広い部屋になります。

 料金は一泊一人銀貨五枚ですがよろしいですか?

 防音もしっかりしており、事が終わった後に入る温泉も有りますよ」

 再びニヤリとする店主。

 銀貨五枚の相場がわからないが、結構高いのだろうな……と思いながらも、

「その部屋で頼みます」

 と言うと、

「それでは、準備しますのでしばらくお待ちください」

 店主は店員に指示を出す。一人は階段を上り、一人は店を出て走っていった。

「私の名はロルフと言います。

 役場の方で『ロルフに紹介されてきた』と言えば、獣人たちの所へ行けるでしょう」

 店員が下りてくると、ロルフさんに耳打ちする。

「部屋が準備できました。

 こちらへ」

 ロルフさんのあとに続き部屋まで行くと、いきなりリビング。それを中心にしてベッドルームへの扉が三つと温泉への扉が一つ。リビングには二人掛けのソファーが二つテーブルをはさんで置いてあり、そこには水差しが準備されていた。

 中には水が満たされている。

「凄いな」

「一応、貴族も泊る部屋です。

 ただ、いつも貴族が来るわけじゃありません。

 ですから、少々安くして使っていただく方が助かるのです」

 裏事情をロルフさんが言う。

 そして、

「こちらが鍵になります。

 渡しておきますね」

 と渡され、

「お客様は魔法が使えますか?」

 と聞くので、

「ああ、この娘が使える」

 そう言ってグレアの肩を持つ。

「でしたら問題ありませんね、それではついてきてください」

 俺達三人は脱衣所に入り、そのまま温泉へ向かった。

「これが魔法照明、このボタンを押して魔力を通せば夜の間は十分に持ちます。

 不要になればこのボタンを押せば消えます。

 湯船に湯を張る時はここに手を置いて魔力を通してください。

 湯が溜まります。

 手を離せば湯が止まります。

 湯量が多いので注意してください。

 あとわからないことがあれば受付けに誰か居ますので、そちらに声をかけてもらえれば対応します」

 説明が終わるとロルフさんは部屋を出ていった。


「アリヨシ、夜の方って……」

 モジモジしながらアリーダが聞いてきた。

 ちょっと期待しているようにモジモジするグレア。

 俺はため息をつくと

「アリーダ、ないから。

 それにお前の仲間を助けに来たんだろ?」

「そっそうだよな、無いよな」

 何をがっかりしているのかわからないアリーダ。

 そして、ちょっとがっかりそうなグレア。

 アリーダが居なければ考えるが……今は無いな。


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