第25話 騎士が目を覚ましました。

 例の女騎士はフェンリルであるグレアの腹の上に寝かせる。

 グレアの毛並みが良く気持ちいいのか、女騎士はなかなか起きなかった。

「起きんのう……」

 ノワルはブラックドラゴンに戻り、俺と一緒に女騎士を上から覗いている。

 いろいろ気が張っていたのかもしれない。

『女騎士で家を』って言ってたからな。

 ここまで来るのにも疲れているだろうし、今は寝かせてやれば良いんじゃないかな?」

 と言うと、横になっていたグレアが、

「私は問題ありません。寝かせてやりましょう」

 ドリスを見ながら言うのだった。


 こうして女騎士が起きるのを待っている間に、次の朝になった。

 朝風呂を楽しんでいる俺に、

「ご主人様起きましたよ」

 グレアの声が届いたのでるホールの中に入ると、ドリスは怯えた顔で俺を見た。


 熊スーツのせい?


「おう、起きたか?

 体調悪いとかないか?」

 と聞く俺に、

「私を助けてどうする!」

 怯えながら俺に聞いてくる。

「どうするもこうするも、何もしないさ……。

 まあ、お前を犯すにしろ、慰み者にするにしろ、その体じゃお前は俺の役に立たないだろ。

 ちなみに、俺は食わなくても生きていける。

 だから君のような女性を食う気もない」

 ドリスは気丈にも俺を睨みつけていたがその雰囲気をぶち壊すように「くぅ」と可愛い音が聞こえた。

 真っ赤になる女騎士。


「まずは腹を満たさないとだな。

 何か食べ物あったっけ?」

「ご主人様、先日私が狩った鹿があります」

 そう言うとグレアはホールを出て鹿を引きずってきた。

 

 結構でかいねえ


 マジセンスディアと言うのだがグレアの半分ぐらいの大きさがある。

 体長で四メートル位だろうか。

 俺はナイフで皮を剥いで鹿を捌くと、魔法で火を起こして肉を焼いた。

 暫くすると肉が焼ける香ばしい匂いが漂い始める。

 女騎士にはグレアとノワルが人化した時のため、村からもらった器に肉を切ってのせる。

 残りは、大体半分にしてグレアとノワルに渡すと、バリバリと音をたててグレアとノワルは鹿を食べ始めた。

 それを見た女騎士は引いている。

 

 そりゃ目の前でデカい狼とドラゴンがデカいシカ食らっているのだ。

 引きもするだろう。


「ほい、食え。ナイフもフォークもあるから肉を食べられるだろう?

 俺が動かすと器を壊してしまうから、自分で取ってくれ」

 俺がそう言うと、

「なぜ?

 なぜ私を助ける?」

 女騎士は不思議そうな顔をして聞いてきた。

「別にお前と争う気もないしな。

 困っているようだから助けた。

 察するにお前は結果を残さないと困るんだろ?」

 俺の言葉に、女騎士は黙り込む。


 図星? 違う?


 反応が無いので、

「俺を『倒す』という結果が必要なのか?」

 と聞くと女騎士はコクリと頷く。

「俺も死ぬのは嫌だなあ」

 俺は頭を掻いた。


「そこで妥協案だが『俺がお前に倒されて従属した』ってのはどうだ?

 気を失ったから覚えてないかもしれないが、フェンリルとブラックドラゴンも付けるが?」

 との提案に、

「それでいいのか?

 いや、良いのですか?」

 ドリスの言葉が丁寧語に変わっていく。


 命のやり取りはしなくて済みそうだ。


「んー、別にいいぞ?

 今んとこ暇だしな。

 パスが繋がっているから困ったらいつでも呼べ!

 俺たちが助けてやる。

 ただ俺らを戦争に使うとかは無しな」

 俺の言葉にドリスはしばらく考えると

「わかりました」

 と言った。

「くう」また腹が鳴る。

「悪い、冷めないうちに食べてくれ」

 ドリスは恥ずかしそうにしながら肉を食べ始める。


 食事が終わり、女騎士が落ち着いたようだったので、

「お前、馬は?」

 と疑問をぶつけてみた。

 騎士に馬が無いなんてのは聞いたことがない。

 ドリスは俯くと、

「途中で死にました。

 雪の中、無理をさせましたから……」

 と顔を背けながら言った。

「どうやって帰る?」

「歩いて帰ることになります」

 俯くドリス。

「えっ、この寒い中をか?」

「そういう事になります」

 更に下を向いた。


 ああっ、もう……。

 もどかしい!


「ここからどの位だ?」

 俺が言うと、

「どの位とは?」

 きょとんとするドリス。

「家までの距離だよ!」

「歩いて一週間ぐらい……です」

「宿は?」

「野宿ですね。

 途中の宿場町では泊まるでしょうけどお金はありませんので……」


 金もない、装備もない、馬もない……か。

 面倒な女……。


「はあ……仕方ない。

 家まで連れて行ってやろう」

 と言うと、

「巨人様のお名前は?」

 女騎士は俺を見上げて聞いてくる。

「アリヨシって言うんだ。

 適当に呼んでくれ。

 あとフェンリルがグレア、ブラックドラゴンがノワルと言う名だ」

 女騎士は頷くと、

「では私はアリヨシ様と呼びます。

 アリヨシ様は私をドリスとお呼びください」

 と言う。

 ただ、

「人前に出るときは逆だからな。

 俺がドリス様でドリスがアリヨシって呼ぶこと。

 それが人と討伐された魔物の関係だからな。

 同じくグレアとノワルも人の前では呼び捨てでな」

「わかりました、アリヨシ様」

 そう言ってドリスは頭を下げた。


「俺は離れてるからこれに着替えてくれ。

 洗濯しておいた」

 俺はドリスが鎧の下に着ていたものを出す。

 小さすぎて洗うのが難しくはあったが問題ないだろう。

「ありがとうございます。

 ところでアリヨシ様は私の裸を見たのですか?」

 服を着替えながらドリスが言った。

「ああ、体を洗うときに見たぞ。

 身長は人の女性にしては高そうだが、良く鍛えられて引き締まった綺麗な体だった。

 村でもらった服の胸ボタンが二つも飛ぶとはすごい胸だなと思ったがね」

 俺はドリスに背を向け胡坐を組み、頭を掻きながら言う。

「大きな胸は嫌いですか?」

 と俺に聞くドリス。

「いいや、大好きだぞ?

 俺が人の大きさなら触りたいところだが、この体じゃな……」

 少し恥ずかしくてポリポリと鼻の頭を掻く俺に、

「はい、私もあなたが人じゃないのが悔やまれる……」

 ドリスが呟く。


 ん?


 俺が振り向くとドリスが潤んだ目で俺を見ていた。

「あっ私はなんということを口走ったのでしょう……。忘れてください」

 真っ赤になるドリス。

「おう、忘れとく」

 話をする間に鎧も着け終わる。


「じゃあ、ノワルに送ってもらうからな。

 おーいノワル、こいつの家まで連れて行ってやってくれ」

「えー、面倒じゃ」

 人の顔をしていないが嫌そうなのはよくわかる。

「どうせ暇なんだろ?

 帰ってきたら頭撫でてやるから」

「やる」

 というノワル。


 即決。

 チョロい。

 ノワルがやる気になった。


「出来たらこいつの領内で見せつけるように飛んでやってくれ。

 ドラゴンに乗って騎士が帰ってくるんだ、目立つことこの上ないだろう。

 ついでに『巨人はドリス様に従属した、ドリス様に何かあれば巨人とわれとフェンリルが助けに来るであろう』って感じでアピールしておいて」

「依頼が増えておるが、まあいいじゃろう。

 そこの女騎士、我が背に乗れ」

 ドリスは怯えているのかノワルの背に乗らない。

「大丈夫じゃ、背にさえ乗っておれば風の影響はないからの」

 そうノワルが言うと渋々と言う感じでドリスはノワルの背に乗った。

「ドリスと俺は既にパスというもので繋がっているから、何かあったら念じればいい。

 助けにいくからな」

 俺が言うと、

「わかりました」

 とドリスが頷いていた。

「じゃあ行ってくれ」

 俺がそうノワルに言うと、

「わかったのじゃ!」

 と言って飛び上がり飛んでいった。

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