第82話 戦うことになりました。

「姫様、巨人と戦ってもよろしいでしょうか?」

 クルツが言った。

 

 ん? どういうこと。


「わかりました。

 広場でやりましょう」

 ウルが言う。


 えっ、何で決定? 


「戦うのか?」

 と聞くと、

「お願いします」

 ウルが頭を下げる。

 有無を言わさぬ雰囲気。

「あなたの力量を図るためにクルツが仕掛けてきているのです。

 本当にここの村人を守る力があるのかを確認するために」


 やらなきゃいけないらしい。

 

 「仕方ないなぁ」

 と言いながらも俺は広場の中央に向かい縮小化するとクルツと正対した。

「ウル、どうなったら勝ち?」

 と聞くと、

「戦闘不能か死んだら終わりです」

 と言った。

 

 えー、殺してもいいの?

 そんなつもりはないけど……。


 俺にどうしろって言うんだ。

 どうせできるだけ傷つけちゃいかんのだろ。

 戦闘不能って事は気絶させればいいのならあれで行くか……。


 ウルの、

「はじめ」

 の言葉と同時に、風の精霊にクルツの顔の周囲の酸素を抜いてもらった。

 窒息を狙ったのだ。

 首を掻きむしるしぐさをすると、一瞬でクルツは倒れ落ちる。

 すぐに復旧。


 これ暗殺で使えるね。

 使わんけど。

 思惑通りクルツ気絶してるね。


「クルツ様が一瞬」

「あのクルツ様が」

「…………」

 エルフたちはクルツが一瞬で気絶したことに驚いていた。

 ウルでさえ、目を見張っている。

 結構強い人だったのね。


 クルツの頬を軽く叩きながら、

「大丈夫か?」

 クルツに声をかけると、

「ん? あぁ、大丈夫だ」

 と目を覚ました。

 俺が手を出すとクルツも俺の手を掴む。

 そして俺はクルツを引き起こした。

「勝てると思っていなかったんだろ?

 俺は見えないが俺の周りにはすごい量の精霊が張り付いているってウルに聞いたことがある」

「わかっておったのか?」

「なんとなくだけどね。負けて負け様を見せようとしたのかなと……」

 俺が言うと、

「村人も戦いの結果を見れば、おぬしがどのような性格なのかよくわかるだろう。

 残虐に殺すような者には誰もついて行かん」

 その通りだったのか、クルツは頷いた。


「それじゃ合格でいいか?」

「ああ合格だ」

 俺の問いにクルツはニヤリと笑うと、

「そして、では我々は何をすればいい?」

 と言って俺を見る。


「そうだなぁ、牛とランニングバードの世話。

 飼料大根を育てて砂糖づくり。

 岩塩の採掘。大豆の栽培。

 のちには小麦栽培。

 ああ、香辛料もあるな。

 菓子作りもある。

 お酒も欲しいね。

 やりたいことは一杯だ」

 指折り説明していると、

「おぬしの頭の中は楽しそうだな」

 と聞かれ、

「ああ、楽しい。

 だから俺たちだけでなくここの人たちも一緒に楽しめたらいいと思っている」

 俺は頷いた。


 ん? 


「ところで、ウルは何で姫様なんだ?」

 今更ながら聞いてみた。

「エルフの国であったヴィルヘルト王国十七代目の正統なるご息女。

 本名はウルリーク・ヴィルヘルト。

 大戦後では二代目になる」

「大戦時の王がお爺さんになるわけか」

 

 なんか、後で揉めそうだなぁ。

 そん時はそん時か。


「おぬし名は?」

「アリヨシだ、あんたはクルツだな」

「そうだ、だが、今から儂はお前の下で働く。

 だからアリヨシ様と呼ぶ。

 おぬしはクルツでもどうにでも呼べばいい」

「じゃあ、クルツだな」

 と呼び捨てにした後、

「よろしく頼む」

 と手を差し出すと、

「かしこまりましたアリヨシ様」

 俺の手を取りクルツは俺の前で傅いた。

 そのあとの話は滞りなく進み、十日後に迎えに来ることを約束し、村を離れる。

 

 さて、住居を作らないとな。

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