第81話 エルフの村に行きました。

 アリヨシ様には人手が無い。

 グレア様やノワル様が居れば戦いはどうにかなるかもしれない。

 でも、砂糖を生産したり岩塩を採掘するとしたら……。

 ベアトリス様のところから人手は借りられるだろうけど、それではアリヨシ様が直接声をかけられる人手ではない。

 だったら……。

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 俺がデニスさんと別れて家に帰ろうとしたとき、ウルが俺の服の袖を引っ張る。

「どうした? ウル」

 俺が聞くと、

「アリヨシ様は人手が欲しい?」

 と俺を見上げて言ってくる。


 なんか言い辛そうだな。


「人手は欲しいな。

 でも秘密を守ってもらわないといけない。

 だから、なかなか見つからないと思っている」

 正直なところを言うと、

「アリヨシ様はエルフということを気にしないの?」

 と再び聞いてきた。

「気にするも何も、お前と一緒に暮らしてるだろ?」

 と返す。


「ベアトリス様は?」

 ウルが聞く。

「私も気にしませんね」

 ベアトリスが答えると、

われに聞いても同じじゃぞ?

 エルフだからどうとか言う気はない」

「私もですね。

 ウルさんと暮らしてますから」

 ノワルもグレアも当然のように言った。


 ウルは少し考えると、

「ノワル様、私の村に連れて行ってもらえませんか?」

 とウルはノワルに頼み込む。

われは良いが、アリヨシは?」

 ノワルは急に頼まれて少し戸惑っているようだった。

「俺は別にいいぞ?

 どういう場所かはわからないが、ウルの故郷ならば行ってみてもいいだろう」

「だったら、私も行きます」

「私もですね」

 ベアトリスとグレアも続いた。


 ウルと最初に会ったときは、俺んちの近くをオークに襲われていた。

 意外と近くからきたのではないかと思っていたが、しばらく暮らしても探しに来る者が居なかったのは気にしていたのだ。

 まあ、めちゃくちゃ遠い所に故郷があるとは思わなかったが、実際には思ったより離れた場所だということに驚いていた。

 帰りは岩塩の塊を持たないので、ノワルは俺の家の近くまで音速で飛ぶ。

 そして速度を落としてウルのいうままにウルの故郷を目指した。

 鬱蒼とした森林の中にポツンと広場のように開けた場所が見える。

 レーダーにはその周囲に光点が見える。二十個前後? 

 これがエルフかな? 

 広さはクルーム伯爵の庭よりまだ狭い。

 ノワルはホバリングしながらゆっくりと広場へ降り立つ。

 俺、ウル、ベアトリス、グレアの順でノワルの背から降りる、そのあとノワルは人化した。


 広場の周りに掘っ立て小屋のような建物が十ほどあった。

「誰かいませんか! ウルリーク・ヴィルヘルトが帰りました」

 周りに向け大きな声で叫ぶウル。

 

 ありゃ、たいそうな名前。

 名字持ちって貴族以上だよな。


「姫様、心配しておりましたぞ。

『巨人が復活した』と言って急に村を飛び出しその後の音信は不通、どういう事でございますか!

 伝説の巨人は見つかりましたか? 何ですか、その人間と獣人は」

 杖をつきローブを着たエルフが質問を続ける。

 その後ろからぞろぞろとエルフが現れた。

 ウルってこの村での立ち位置はどうなんだろう。


 つか伝説の巨人?

 イデオ〇か? 


 そんなことを思って自分でドン引きする。

「巨人は見つかりました。この方です」

 えっ、俺? 

 俺をチラ見するウル。

 えっ、元に戻れって?

 そういうことは事前相談をお願いします……なんて言っている場合じゃなさそうなので、俺は、スプーンへの魔力供給を止め巨人に戻った。


「えっ、巨人」

「巨人だ……」

「人類を打ち滅ぼす巨人だ……」

 うわっ、今聞いちゃいけないことを聞いたような気がする。

 俺は、スプーンに魔力の供給を再開し、人に戻る。

「ウル、俺は人類を滅ぼしたりはしないぞ?」

 俺はウルに近づき小声で話す。

「アリヨシ様、わかっております。

 もう少しお待ちください」

 ウルも振り返り小声で話す。

「しかし、巨人は人と争うことを求めていません。

 共存することを求めています。

 私は巨人の下で人とともに生活していましたが、人間もすべてが悪いわけではないのです。

 今、巨人は、種族を気にせず人手を求めています。

 私はそこに移住したいと思う」

「姫様、我々の先祖は五百年前に人間に負けたのですぞ?

 そして我々は森の中で隠れて暮らすようになった。

 その待遇を嫌がり人間に復讐をすると言っていたのはあなたではありませんか」

「クルツ、申し訳ない。

 私は外の世界を知らなかった。

 既にこの世界は人に満ちている。

 外の世界を知り、私が考えた結果が巨人の土地への移住だ。

 今のままではこの村もなくなるだろう」

 ウルが言った後、

「いつからだ?

 我が村に子供が生まれていないのは。

 私より年下の者などおるまい?

 自分たちの生活だけで精一杯、元々子供のできづらいエルフが子を成す行為さえしなくなった。

 このままではエルフは滅亡してしまう」

 と続けた。

「だから何だと?」

 ウルに言われたクルツが聞く。

「だから、巨人を手伝うのだ。

 あの巨人はバカではない。

 我々を守ってくれるだろう」

 と俺を言って見上げた。 


 ウルがここまで言ったんだ、ちゃんと話しとかないとなぁ。


「話に割り込んですまないが、実際人手が欲しいんだ。

 今開拓している土地はまだまだできることがある。

 人間が嫌いならそのままでもいい。

 手伝ってくれるなら、食の心配はしなくていいようにする。

 魔物からも守る。

 来たい者だけでも来てもらえると助かるよ。

 だから、考えてみてくれないか。

 よろしくお願いします」

 俺は頭を下げた。

「巨人が頭を下げたぞ?」

「巨人って傲慢で我が儘なはずなのに」

「代償を取られるとも聞いたが。守ってくれるのなら」

 ぽつぽつと声がする。

 

 巨人って悪い奴らしい。

 傲慢って?

 

 あまり良く思われていないのかね?

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