第94話 エルフの引っ越しをしました。

朝、薄明るくなったころから俺とグレア、ウルはノワルの背に乗ってエルフの村を目指す。

 俺的には迷惑な時間かと思うのだが、ウルが言うには、

「エルフは朝が早いので、明るくなれば問題ないですね」

 とのことで、この時間となった。

 明るいうちに終わらせたい……ということもあるのだ。

 実際エルフの村に着くと、クルツを先頭に全員がすでに整列していた。

「アリヨシ様、この村の住人三十三名、いつでも移住が可能です」

 クルツは綺麗に気をつけをして俺に報告する。


 えっ、エルフって軍隊? 


 まっすぐな列。

 荷車に山のように積み込まれた荷物。

 生活雑貨のようなものが多かった。

「いつでも移住が可能」という言葉にピッタリな状況。


「じゃあ、引っ越ししようか。グレアの背に十名。残りは俺の肩と手に乗ってくれるか?」

 俺は巨人に戻っていうと、

「アリヨシ様、その前に一つお願いがあります」

 と言って真剣な顔をしたクルツが一歩前に出る。

「何だ?」

 と聞くと、

「この村を焼き払って欲しいのです」

 クルツが顔を顰めながら言った。

「えっ、いいのか?」

 驚いて聞いてしまう。


 百年単位で暮らした場所だろうに……。


「我々はアリヨシ様の下で暮らすと決めました。

 ですから、もうこの村は必要ありません。

 戻る場所があると言うことは甘えになるのです。

 ですから、村そのものを消し去って欲しい」

 と言うクルツは拳をぎゅっと握りしめ、顔を顰めていた。

 俺が他のエルフを見ても皆頷く。

 中には涙を浮かべている者も居る。

 厳しい生活だったかもしれないがここが彼らの故郷だったのだ。


 俺は火の精霊に頼み、言われた通り全ての家屋に火をかけた。

 森の木と草の屋根の家屋は一度火がつけば燃えやすく、すぐに燃え上がり、しばらく見ている間にも村の家屋すべてを焼き尽くされる。

 エルフたちそれぞれが涙を流しながら村が消えていく様を見送った。


 数百年暮らした土地を離れる。

 辛いだろうなぁ。

 こんだけ覚悟を決めて来て俺のところに来てくれているんだ。こいつらも幸せにしないと……。

 俺が知っている知識を総動員して幸せにできたらいいな……。


 完全に燃え尽きたところで移動を開始する。

 馬が四頭いるそうで、ウルとエルフ三名は馬に乗って俺んちを目指す。三日ほどかかるということなので、運び終わったら迎えに行くということで先行してもらった。

 場所確認は俺のレーダーを使えばいいので問題ない。


 俺とグレアはエルフを乗せて運ぶ。

 ノワルには馬車運びを依頼した。

 ノワルには手があるから荷物を抱えられる。そこも利点である。

 俺らより格段に移動が速いので、俺たちが集落にたどり着く前に、荷車は移動し終えていた。

 クルツは指示を出し村人たちを家へと導く。

「クルツ、こんな感じの家で良かったか?」

「そうですね、この家であれば問題ありません。村の家はありあわせの手作りでしたから、いろいろと問題が……。

 周囲の魔物の心配をしなくていいだけでも安心できます」


 あの森の中だからなぁ。

 オークやゴブリンなどの魔物が居てもおかしくはない。

 ウルも襲われていたし……。

 

 各人の荷物を家の中に運び入れる姿が見えた。

 荷物の運び入れが落ち着くと大きな袋を持ってエルフたちが出てくる。

 袋の中に草をパンパンに入れているのだ。

 その後、水の精霊に何かを頼んでいた。

 袋の中から水球が現れ、排水路の上で弾ける

「クルツ、あれはもしかして草の布団を作っているのか?」

「そうです。水分を抜いてまた草を入れることで固めの草のマットができます。

 布団は逆にほどほどに抑えます。結構温かいんですよ。

 枕も作り方は同じです」


 そう言えばエルフの荷車に寝具系は少なかった。

 そういう理由だったわけね。


「薪はあそこにあるから、使ってくれ」

 時間のあるうちに作って置いた薪の場所を指差す。

「わかりました。

 我々も薪は作れますからあとはこちらでなんとかします」

 クルツが言うので、

「助かるよ。

 あとで昨日狩ったオークを置いておくから、好きに食べてくれ」

 と言っておいた。

 グレアが「エルフに」と言って狩ってきていたのだ。

 周りを見ると、エルフたちは各々の家に落ち着いたようだった。

「グレア、オークをこの広場まで持ってきておいてくれ。ノワルは俺とウルを回収に行くぞ」

 と、俺は指示を出す

「はい!」

「了解じゃ」

 グレアはホールに向かう。

 それを見て俺は小さくなりノワルに乗ってウルの場所へ向かった。


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