第93話 交渉の内容を聞きました。
その日のうちに、ベアトリスとノワルが帰ってきた。
「お父様に聞いてみましたが、『王都側の道ではないため、問題ないだろう』とのことです。
アリヨシ様が作った壁とアリヨシ様たちが効いているようですね。
『帝国から国内への侵入を抑える要になるだろう』ともおっしゃっていました」
と言った後、
「影にお母様の後押しがあったことを伝えておきます」
ベアトリスが苦笑いしながら言った。
プリンの力ここにありってところか……。
オヤジさんとしては、ただ単に街道を整備するだけなら外部の敵がオピオに進軍する速度を上げるだけだ。
しかし、俺が国境付近に壁を作りその近くに俺たちが居ることで、容易に外部からの侵入ができない。
外敵が来た場合にも、軍の移動速度が上がることで、俺たちが抑えている間に援軍が到着する。
そんな感じで考えたかな?
まあ、援軍など要らんけどね。
お陰で街道整備ができる。
「ルンデル商会とは、月に一回、岩塩の回収にアーネコス村へ来てくれるそうです。
無料で配布した岩塩の評判も良く『価格によっては南方産の塩との切り替えをしてもいい』と言う意見も多かったようで、一回につき馬車五台程度の量でお願いしますとのことでした。
状況によっては、増産も依頼するかもと言うことです」
俺たちは、販売網を持っていないから、あとはルンデル商会の営業努力次第か……。
「行商人は?」
「空荷でアーネコス村に来るときに、生活雑貨等を積んできて販売してくれるそうです。
依頼をしてもらえれば、次の便で届けると言うことも可能です。
岩塩の販売がうまくいけば、村に商店を作ってもいいと言っていました」
こっちもほぼ思い通りか。
実際の販売価格がどうなるのかがわからないが、こっちは、精霊を使っての採掘になるわけだから、少々安くても十分利益が出るだろう。
「上等だね。
ベアトリス、ありがとう。
ノワルもありがとな」
と礼を言っておく。
「いいえ、自分のためですから」
「アリヨシのために動くのは当たり前なのじゃ」
と言って、二人が抱きついてきた。
ベアトリスは、俺を見上げながら、
「あと、ドリスさんの事ですが、近日中に村へ代官が派遣されるようです。
ですから、しばらくすればドリスさんもこちらへ合流します。
ちょうど、私の館が完成するごろになりそうですね」
と教えてくれる。
ドリスも合流するのか、賑やかになりそうだ。
「了解だ。
ドリスは機密保持のために俺のところへ来るわけだけど、表向きは傭兵団や騎士団でも作るってことにしたほうがいいのかな?」
ベアトリスは少し考えると、
「そうですね、貴族でない者が騎士団を作るということはないので、表向きは私の護衛としての傭兵団でいいのではないでしょうか」
と言う。
「今後、私の計画ではアリヨシ様には貴族になってもらう予定です。
その際にドリスさんに騎士団長になってもらえればいいと思います」
絶賛、計画進行中な訳らしい。
「俺、貴族になるのか?」
「なっていただきます。
いえ、ならせます。後にはお父様をも越えていただく予定です」
えっ、貴族化は確定?
「伯爵越えは難しいような気がするけど」
「アリヨシ様の知識と魔力、武力があれば可能です」
「武力と言えば、
「はい、まず壁の向こうから帝国軍が来ても問題ないでしょう」
自信満々のベアトリス。
「俺は侵略をしたいとは思わんよ?」
「はい、侵略者として戦う必要はありません。
お父様の下に居る間は、壁の向こうの備えとして、ここに居ていただければいいのです。
向こうからの侵略があった場合のみ戦えば問題ありません。
防衛戦で大きな武勲を上げれば十分に爵位を得ることができます。
数年に一度は小競り合いがありますから、それで武勲については十分でしょう。
もしかしたら、条約などで領土の割譲があり、そこの領主になることもありえます。
ただ、目立った武勲をあげるときは、人の状態でお願いしますね」
なにこれ、ベアトリスがめっちゃ考えてる。
ノワルはポカンとしている。
「収入については、岩塩鉱山、砂糖の生産、香辛料の生産も始まりましたし、これ等が軌道に乗れば莫大な収入を得ます。
その功績で知名度を上げれば王都にも声が届くでしょう。
そのあと有力な貴族や王族にお金やお菓子をばらまけば、爵位は思いのままです」
「お菓子で思いのまま?」
「私のお父様を見てわかるように、比較的男性は妻の尻に敷かれます。
そして、王都で暮らす女性は、演劇、茶会ぐらいしか娯楽がないのです。
私の母がいい例ですね。
ですから見たこともない甘いお菓子を見れば興味を持ちます。
そして、お菓子で女性の胃袋を握れば王都で大きな影響力を持つことができるのです」
風が吹けば桶屋が儲かる?
本当かどうかは、ベアトリスを信用してやってみるしかないな。
「お菓子ってそんなに影響力あるんだ」
「はい、ですから新しいお菓子もお願いしますね」
おっと、結局そっちもなのね。
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