第92話 お父様に許可を貰いに行きました。
バハムートの姿のノワルさんと共に屋敷に戻る私。
回数をこなしたせいか、当たり前のように兵たちが現れると、私の姿を確認してお父様に報告に向かう姿が見えた。
私を屋敷に連れてくるとノワルさんは庭で蹲る。
難しい話は私の仕事。
「お忙しい所でしょうが、お邪魔します」
と執務室の中に入った。
「その服、珍しいな」
「ああ、アリヨシ様が出てきた洞窟の中で見つけました。
体に合うような魔法が付与されているらしいので、オーダーメイドのように着心地はいいのですよ」
「エルフの服か……。
遺跡があってもまともに使えるものは無かったはず……」
首を傾げるお父様に、
「それならば一度アリヨシ様とその遺跡の中に入ってもいいでしょうか?」
と聞くと、
「どうせろくなものはあるまい。
好きにすればいい」
と私は言質を得た。
アリヨシ様ならいろいろ使える者を探し出すかもしれない。
「それにしても、最近ここに帰ることが多くなったな」
と嬉しそうなお父様。
「ええ、アリヨシ様がお父様に聞きいてきて欲しいというので……」
と私が言うと、
「聞きたい事?」
と私に聞いてきた。
「ルンデル商会の荷馬車の行き来のために、アーネコス村からオセレ村経由でこのオピオまでの街道を整備しようかとアリヨシ様が言っています。
本来の街道を整備する感じですね」
と私が言うと、
「街道を? どうやって?」
お父様が驚いた顔をする。
「壁の話は聞いていませんか?」
報告は上がっているはず。
「丁度帝国との国境手前にできた長い壁。あれは帝国の侵入を抑える要になる壁になるだろう。
あれを作ったのがあの
しかし、ここからアーネコス村まで結構な長さだぞ?」
と言う。
「それはアリヨシ様が何とかするでしょう。
あの方は精霊と仲が良いですし、膨大な魔力を持っていますから、精霊たちが協力してくれるんです
まあ、普通の魔法も凄いのですが……」
「伯爵領から王都側に道を作る訳ではなく、自領内の道の整備だ。
帝国侵攻の際に早急に兵を展開するための手立てということにしておけば、特には問題ないだろう」
というお父様に、
「では、道を作っても……」
いいですか? ……と聞こうとした時、
「しかし、早急な開発というのもな……。
王都への報告も……。」
急に渋りました。
すんなりお父様の許可が出ると思っていたのですが……。
そんなとき、
「ベアトリス、今日は?」
とお母さまが執務室に入ってきました。
「今日とは?」
とわざと私は聞きます。
目的はアリヨシ様のお菓子だというのはわかっています。
「あなたが来たのです。
あのアリヨシ殿なら、何か持たせているのではないですか?」
少し言い辛そうなお母さま。
はーん、やっぱりプリンの事のようです。
「ああ、アリヨシ様から『いつもお世話になっております』とお母さまへこちらを……」
私はアリヨシ様が包んだ箱をお母さまに差し出した。
お母様は箱の中身を確認すると、
「さすがあなたの婿になる方。
気遣いができること……」
と言ってニヤリと笑った。
そして、
「あなた、街道は整備したほうがよろしいのではなくて?
アリヨシ殿の所から様々な荷物を素早く運ぶことができるのでしょう?
その中には岩塩や砂糖もあると聞きます。
ルンデル商会との取引が増えればアリヨシ殿の所が富むということ。
それは我が領への税が多くなること。
それに街道の整備はアリヨシ殿がするのですからこちらが手をかけるわけではない。
出費が抑えらるうえに、いいことだらけではありませんか」
と、お父様をチラリと見る。
どこで聞き耳を立てていたのでしょう?
しかし、その言葉の効果はてきめんで、
「そっ、そうだな。
ブレンダの言う通りだな。うむ『街道の整備は任せる』とアリヨシには言っておいてくれ」
と、お父様は許可を出す。
それを聞いたお母様は
「ベアトリス、良かったわね。
アリヨシ殿によろしく」
ニコリと笑った。
「それでは、アリヨシ様にそのように言っておきます。
お母さまの後押しがあったことも……」
と私は言う。
「お母さまの後押し」ここが重要だと思う。
すると、
「よろしくお願いしますね」
お母様は自分の用事が終わったとばかりにプリンを持って執務室を出ていくのだった。
お母さまが出て行くと、
「ドリス・ベックマンはどうなっていますか?」
私は聞いた。
「代官は手配した。
あまり時間はかからないだろう」
というので、
「わかりました。それではお父様、失礼します」
私も執務室を出た。
続いてルンデル商会へ。
庭で暇そうなノワルさん。
「一緒に行きますか?」
と声をかけると、
「いや、ここで寝ておる。
帰る時に起こしてくれ」
とおっしゃりました。
私は馬車を呼び、先触れをしてルンデル商会に向かうと、
「お嬢様いらっしゃいませ」
と店先に会頭のデニスが現れた。
そのまま応接室に通される。
「突然の訪問、申し訳ありません」
私の言葉に、
「いえ、それで、岩塩の件でしょうか?」
と言うデニス。
話が早い。
「ええ、それで、月に一回アーネコス村の方に岩塩を取りに来て欲しいのです」
「しかし、道の状態を考えると、アーネコス村との往復は距離的に一カ月での往復は難しいかと……。
そのためには、二隊の隊商が必要になります。
そうなると経費が……」
「そのためとは言いませんが、アリヨシ様は街道の整備を考えておられます。
デコボコな土の道が平らな石畳のような道となればどうなりますか?」
「荷が重い馬車でも楽に走ることができます。
アーネコス村までの道中も早くなると思われます。
確かに、それであれば一カ月での往復は可能になるかと……」
デニスは私の顔を見た。
そして、
「畏まりました、一カ月に一回、岩塩の回収に向かいたいと思います」
すると、思い出したように、
「無料で配布した岩塩の評判も良く『価格によっては南方産の塩との切り替えをしてもいい』と言う意見がありました。
領内の塩だけではなく、領外の塩についても、価格によってはルンデル商会の岩塩に変更してもらえると思います」
とデニスは言った。
「その辺の機微については、デニスに任せます。
岩塩としては、ひと月にどの程度の生産を求めますか?」
「そうですね。まずは荷馬車五台分。
結果により増量もありますのでその際にはよろしくお願いします」
「あと、アーネコス村へ来るときに、生活雑貨などの行商人を手配したいのですが?」
「それは、アーネコス村に行く際に、ある程度の生活雑貨を荷車に積んで持って行こうかと思っています。
一カ月に一回と言う頻度ですから、対象が出発するまでに依頼を頂ければ、次の便で必要な物を届けるということも可能でしょう。
ルンデル商会として支店が必要と考えた時には、村に商会の支店を建ててそこで生活用品の販売をしたいと思います」
アリヨシ様が考えていたことに近い。
これなら問題ないでしょう。
「それでは、我々が街道の整備を終わったのを確認した後、最初の便をアーネコス村へ派遣していただきましょう」
「畏まりました」
これで私の交渉は終わりです。
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