第95話 ウルたちを迎えに行きました。

 レーダーでウルを探す。

 固まった八つの光点。あれだろうな。

「あそこら辺に居るようだ、高度を下げてもらえるか?」

「わかったのじゃ」

 ノワルは返事をすると、俺が指差す辺りで高度を下げ森の中を確認する。

 俺たちに気付いたウルたちはノワルに怯える馬たちを宥めていた。

「お待たせだ、集落まで移動するぞ」

 そう言うとウルが、

「アリヨシ様、ノワル様や今のアリヨシ様では馬が怯えます」

 言った。

 確かに、ウルたちは手綱を持ち馬を抑えている。

「ふむ、眠らせるか……」

 スリープクラウドを唱え馬を眠らせて暴れないようにした。

 最初っからこうして置いたら良かったと後悔する。

「お主らわれの背に乗れ」

 ノワルには背にエルフ三人と左右の手に馬一頭ずつの計二頭を抱え、早々に飛び立つ。

「ごゆっくりじゃ」

 とニヤけながら家の方へ飛んでいった。

 変な気を遣いやがって。

 俺はウルを肩に乗せ馬を二頭片手に持ち歩き始めた。


「アリヨシ様、ありがとうございました。

 あのままでは、村はゆっくりと朽ち果てるしかなかった……」

 ウルが俺に礼を言ってきた。

「こっちこそ助かったよ。人手は欲しかったからね。

 あのままじゃじり貧だ。

 お転婆なウルのお陰かな」

 俺が言うと、

「言わないでください。

 あの時は本当に怖かったんですから」

 ウルが俺に抱き着いてきた。

 少し震えているのは思い出したからだろうか……。

「悪かったな」

 と謝った後、

「とはいえ、精霊魔法を使えるエルフが仲間になってくれて助かる」

 俺も礼を言っておく。

 実際、精霊魔法が使えるエルフは人手としては十分だと思う。

「生活環境の変化に刺激を受けてエルフに子ができればいいのですが……」

「ああ、混浴もあるからね。

 お互いの体を見ていれば、なんとなく……というのもできるだろうし、それぞれの家があるってことは安心して寝られるってこと。

 環境の変化で子供もできるかもしれないな。

 まあ、子供ができるできないはタイミングが合うかどうかだろう。

 元々長寿のエルフだ、タイミングなど簡単に作れるだろうし、長い目で見ては?」

 その話をしたとき、ウルの表情が変わった。

「どうかしたのか?」

 とウルを見ると、

「私は印がきてから二週間経ちました。

 だから、私はあなたを迎える準備ができています。

 私はあなたの子が欲しい。

 ダメでしょうか?」

 目を潤ませて俺を見るウル。


 そんなことも話したが、種族的に合っているかどうかもわからない。


「以前にも言ったけど、俺とウルの間で子供ができるかどうかさえもわからないんだぞ?」

 と聞くと、

「『出来ないかも』であって、『出来ない』と言うわけではありません。可能性が無いわけではないのです。

 ですから『愛しあうなら子供のできる確率が少しでも高いときにしたい』と思いました」

 そう言った後、真剣な目でウルは俺を見る。


 あっ……。


「この事はノワルも知ってたな?」

 と聞くと、

「引っ越しの最後に、できれば二人きりにして欲しいとお願いしました」

 ウルはコクりと頷く。


 だから、ノワルに「ごゆっくり」と言われたわけか。


 俺は頭をポリポリと掻いて考えながら、腹を決める。

 巨人状態で熊スーツの上を脱ぎ、ついでに馬二頭も適当に寝かせた。

 そして、俺は縮小化してウルとスーツに潜り込んだ。

 

んー、熊スーツが簡易のラブホになりつつあるな。

そんなために作ってもらった訳じゃないんだが、意外と便利。

意外と寒くもなく温かすぎないしなぁ……。


 白磁のように白い肌、腰まであるブロンドの髪、小振りの胸、小説やアニメの中でしか居なかったエルフが目の前にいる。

 尖った耳を触ったとき、ウルの体が固くなるのがわかる。

「私は胸がないから……魅力ないですか?」

 と聞いてきた。


 ああ……、グレアやノワルのことを言っているのかな?

 しかしそんなことを聞かれてもどう言ったら良いのかはわからん。


「あ、ああ。ウルには十分に魅力はあるよ」

 としか言い返せなかった。


 もうちょっといいセリフが出ないもののかね。

 正直、自分の女性経験の少なさが情けない。


 二人きりの空間で俺はウルが気持ちよくなるように出来る限りのことをして、ウルはそれを受け止め続ける。

 そしてウルは果て、眠りについた。

「お疲れさん」

 ウルの体と周囲を精霊に頼んで洗浄しておく。

 そのあと、ウルの髪を撫でながら寝顔を観察していた。


 どのくらい経ったのかはわからないが、馬が嘶く声に俺は気づく。

 ウルも目が覚めたようだ。

 自分の乱れ具合を思い出したのか真っ赤になる。

「さすがにスリープクラウドの効果が切れたか……。ちょっと外の様子を見てくる」

 そう思ったが、馬以外に二つの光点。

 俺はスーツの外に出て確認すると、犬っぽいのが馬を見ていた。

 一頭は大きめで、その後ろに少し小さいのが従う。

 俺は再びスリープクラウドを唱え、犬ごと眠らせる。

「番犬にならんかね。グレアに頼めばなんとかなるかな?」

 そんなことを考えていると、ウルも外に出てきた。

「フォレストウルフですね。どうするのですか?」

「飼い慣らして、エルフの集落で番犬にでもできればとね」

「ウルフ系は慣れづらいですが、慣れてしまうと良く言うことを聞きます」


 慣れづらい?

 ウルフ系の頂点がうちに住んでいるんだが。


「そこら辺はグレアに任せてみるよ」

「はい、そうですね。

 フェンリルであるグレア様に任せておけば問題ないでしょう」

「さあ、帰ろうか。

 みんながウルの話を聞きたくてウズウズしているだろう」

 そう言って俺は巨人に戻った。

 手に乗るウルは、恥ずかしそうに赤くなった顔を下に向ける。

「ウル、しっかり捕まっていろよ」

「はい」

 ウルはギガントベアの毛を手に巻き付け体を固定する。

 それを確認すると、俺は馬とフォレストウルフを抱え、家に帰るのだった。

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