第7話 いい匂いですぅ。
「ああ、お腹いっぱい。
ふわぁ……眠い」
お肉を食べて満腹の私。
そして、ご主人様の傍は安心できる場所だからか私のあくびが止まらない。
「眠たいのか?」
ご主人様が聞いてきた。
「はい眠たいです
でも……」
私は眠いのに、ご主人様を見てしまう。
いいのかな?
許してくれるかな?
父さんと別れて以来、誰かにしてほしくてしてもえなかったこと……。
「どうかした?」
ご主人様が聞いてきた。
私は決心して、
「ご主人様に抱っこしてほしいです」
と言ってみると、
「そりゃ別にいいけど、抱っこするならこっちだな」
とご主人様は頭を掻き「ホール」という巣穴の中に私を連れて行く。
「ここが俺の家みたいなものなんだ。
ここで寝るか?」
と言って、ご主人様が横になったので、
「はい」
私はご主人様の横に寝ころんだ。
その横に寝ころんだ私を抱くように、ご主人様の手が私のお腹を撫でる。
ああ……気持ちいい。
ただ撫でられているだけじゃない。
ああ、ご主人様の手から魔力が漏れているんだ。
優しい魔力……。
それが私にしみ込む。
ご主人様が軽くトントンと私の体を叩きはじめた。
「んっ、気持ちいいです」
思わず口に出た言葉。
私は心地よくて目を細める。
ご主人様に触られているうちに私は寝てしまっていた。
私は目を覚ます。
あまりよく眠れなかった日々。
でも今は背中に安心がある。
だから、父さんと別れて、こんなにぐっすり寝られたは初めてのような気がする。
ご主人様は目を覚ましていないみたい。
私は起きると、ペロペロとご主人様の顔を舐った。
私が舐ったせいか、
「ふあぁ、おはようさん」
あくびをしながらご主人様が起きた。
「おはようです」
尻尾を振って挨拶を返す私。
「もう朝か?」
ご主人様が聞いたので、
「いえ、夕方です」
と私は言った。
空が赤かったせいで、ご主人様は朝と勘違いしたみたい。
「散歩でも行く?」
ご主人様が誘う。
当然私は、
「はい!」
と頷いた。
自然と嬉しさで私の尻尾が大きく振れた。
私は大きなご主人様を見上げながらそばを歩く。
ご主人様は太めの枝を持つと私の前で振る。
えっ、えっ、遊んでくれる?
これで私と遊んでくれる?
思わず尻尾がパタパタ振れる。
すると、
「取ってこーい」
とご主人様が枝を投げた。
いやっほー!
ご主人様と遊べるぅ!
ご主人様の匂いはと……。
こっち。
こっちね。
うん、こっち。
あっあった。
私は枝を咥え、ご主人様の所に枝を持って行った。
「やるなお前」
ワシワシと体を撫でながらご主人様が言ったので、
「当然ですぅ。
私は銀狼だから、鼻がいいのですぅ」
と体を撫でられながらも得意げにご主人様に言った。
ちょっと動いて少し熱くなった私はハッハッハッハッと口で息をする。
つぎ、あるよね?
もう一回、あるよね?
私は期待して尻尾をブンブン振ってしまう。
「まだやる?」
というご主人様。
「はい、楽しいですぅ。
まだやりたいですぅ!」
ご主人様は私の言葉を聞くと、全力でその枝を投げる。
いやっほーい!
今度はさっきより飛んでる。
追いかけるよぉ。
ご主人様の匂いもあるし。
絶対見つけるんだから!
私は風のように走っていた。
やった!
あった!
すぐに枝を咥えると、ご主人様の所に向かう。
「お前凄いな、木に埋まって枝なんか見えないだろう?」
というご主人さまからの質問。
「ご主人様の匂いがするんですぅ。
だからすぐわかりますぅ」
クンカクンカとご主人様の体を嗅いで見せた。
「うーん、いい匂いですぅ」
すると、ご主人様は自分の体を嗅ぎ始めた。
「俺ってそんなに匂う?」
「はい、いい匂いが漂って来ます」
ご主人様が何かに納得をした。
そして、
「俺が臭うんだろ?」
とご主人様が言う。
「いいえ、ご主人様はいい匂いです。
私は狼ですからご主人様の匂いを敏感に感じられるのです」
「俺が臭いって訳では……」
ご主人様が言うと、
「決してありません」
私は否定した。
ご主人様は自分が匂う事を気にして、私を不快にさせていると考えたようです。
そんなはずはありません。
ご主人様の匂いは……大好きです!
「でも風呂が欲しいな」
ご主人様が言いました。
「ふろ?」
私は「ふろ」というものを知りません。
首を傾げてしまいました。
「温かい水が溜まった場所。
とても気持ちいいんだ。
汚れも取れる」
とご主人様は言います。
ご主人様は「ふろ」というものを想像し、目を細めていました。
すごく気持ちがいいんだと思います。
「俺のサイズじゃ風呂なんて入れないんだろうなぁ……」
と残念そうなご主人様。
あれ?
そう言えば……。
「熱い水が出る場所がこの近くにあるんですぅ」
私はご主人様に言いました。
「おっと、温泉か?
マジか!
温泉なんてこの世界にあったのか!」
ご主人様が喜んでいます。
わたしは、私が言ったことでご主人様が喜んだことが嬉しくて、尻尾がブンブンと振れてしまいました。
「グレア、連れて行ってくれるか!」
強い意志がこもった目でご主人様が言います。
ご主人様のために!
「わかったですぅ。
こっちですぅ」
と言って私は駆けだしました。
ご主人様をあの場所に連れて行かねば!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます