第108話 獣人の子を助けました。

 俺が連れてきたフォレストウルフのメスが三頭の子を産んだ。

 現在絶賛子育て中だ。

 オスは俺の依頼をこなして森の中を走り回っている。

 何か異常があったら遠吠えで教えるということになっていた。

 そして、「ウワォーン! ウワォーン!」と遠吠えが聞こえる。


 フェンリルなグレアが先導して巨人な俺、バハムートなノワル、そしてウラノスに乗ったドリスで向かった。

 レーダーには壁の向こう側でエルフ以外の人を表す赤い光点が一つ。その後ろから赤い光点が三つ。

 追われて囲まれているかな?


 俺たちが壁にたどりつくとフォレストウルフはカリカリと壁を掻いた。

 街道がこの壁で遮られている今、街道を走ってきてもここで遮られ、追手に捕まるのが目に見えている。

「俺とグレアとノワルでいく。

 ドリスは隠れていろ。

 お前が見つかったら戦いの火種になる可能性があるからな」

 というと、

「わかりました、私はこちら側で待っています。

 お気をつけて」

 ドリスが声をかけてきた。


 俺は壁の上から覗き込んだ。

 壁に阻まれ囲まれている子供が一人。

 追手を見て怯えていた。

 尻尾がだらりと下がり耳がぴょこんと出ている。


 獣人か……。


「おいガキ、あそこから逃げ出したら殺されるのは知ってるだろう?

 というか、俺たちがお前らを逃がすはずが無いだろうに」

「へへへ、この壁のせいで、もう逃げ場は無いな」

「命令でな。

 子供とはいえ容赦できないんだ。

 悪いな」


 んー、追手三人は人間らしい。

 同じ鎧を着ていた。ちょっとスレイプニルのときに会った騎士っぽいのと似てる。


 帝国軍?  

 

 目が合う俺と追手。

 俺たちが壁を越えた瞬間、表情が凍りついた。

 まあ、巨人と巨狼と巨龍だからねぇ。

 俺は壁を越えて帝国側へ入った。


 俺は所詮魔物。

 巨人のままであれば問題ないか。

 魔物には国境は無い。

 俺が逃げ場のない獣人の子を掴むと気を失った。


 丁度いいな。


 俺は追っ手に見えるようにして口の中へ入れた。


 噛まんけどね


「食われた。もうあいつはダメだ」

「俺たちも逃げるぞ」

 そう言うと、三人は森の中へ消えた。


 俺は口の中から獣人の子を手のひらに出す。

 そして水の精霊と風の精霊に頼んで洗浄と乾燥しておく。

「アリヨシよ、本当に食べたのかと思ったぞ」

「ご主人様がそんなことはしないのはわかっていましたが驚きました」

 と言われて、ちょっと飲み込みそうになったのは黙っておこう。


「グレア、ノワル、人化してこの子を見ていてもらえるか?」

「了解じゃ」

「わかりました」

 二人はいつものゴスロリ姿に戻る。


「ドリス、壁を作ってからずっと街道を塞いでいたのだが……問題なかったのか?

 今回、壁のせいでこの子は逃げ込めなかった」

「アリヨシ様、現在帝国とは国交が無いことになっています。

 ですから街道が遮られても問題ないと思います」

 ドリスはそう答えた。

「しかし逃げてきた者の邪魔になるのもな……」

「そうですね、では門を作りますか?

 そして開けておく。

 帝国との戦争になっても、門が狭ければ王国側に入れる兵士も少ないでしょう。

 できるだけ早く門を閉めるようにすればいいと思います。

 ああ、アリヨシ様なら強引に地の精霊を使って門を埋められますね。

 もしも悪意のある罪人が来た場合でも、アリヨシ様とグレア様、ノワル様が居れば問題ないでしょう」

「帝国で犯罪を犯してこちら側に来るのは困るが、帝国で虐げられてこちらに来る者は受け入れられるようにしたいな」

 俺は壁にメイピで寂れた細い街道の上に人が一人ギリギリで通れそうな大きさで門を作り、メイスで壁全体を石化させた。

 扉は後でドワーフに作ってもらおう。

「こんなもんかね」

「そうですね、人だけが入ることを前提にするならこれでいいのではないでしょうか。

 王族や貴族は馬車を使いますが、亡命なのであれば諦めてもらえばいいと思います」

「じゃあ、コレでいくか。

 大きさは後でも変えられるしな」

 魔法万能である。

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