第45話 農地を見学しました。

 ベアトリス様とウルを連れ農地に戻ると、

 ノワルがやってきた。

「お帰りなのじゃ」

「おう、戻ったぞ」

 ノワルはベアトリスの方へ行くと、

「ベアトリスよ!

 飛ばし過ぎてすまなかったのじゃ」

 ノワルはペコリと頭を下げた。

「いいえ、私も早く行きたいと駄々をこねました。

 その所為でノワルさんが速度を上げたのは知ってます。

 だから、ごめんなさい」

 ベアトリス様もぺこりと頭を下げる。

「これでお相子って事でいいですか?」

 俺がベアトリスに言うと、

「『おあいこ』ってなんじゃ?」

 ノワルが聞いてきた。

「どっちも悪いって事だよ。だから、お互いに謝っておしまいだ。この事はここまで」

 と答える俺。

 すると、

「わかったのじゃ」

「はい、もう終わりです」

 ノワルとベアトリス様はにっこりと笑った。


 ウルはノワルの衝撃波で抉れた農地を精霊に頼んで元に戻す。

「ウルさんは凄いですね、この大きさの農地を一度に耕すなんて」

 ベアトリス様が感心している。


 精霊魔法って農業に使えそうだよね……。

 加減がしやすそう。


 そこにドリスが農地を確認し終わったのかやってきた

「アリヨシ様、農地の確認が終わりました。

 凄いですねこの農地、綺麗に分けられている。

 水も使いやすいように水路が通してある」

「お疲れさん。

 ドリス、どう?

 小麦や飼料用の大根が作れそう?」

「そうですね、問題は無いと思います。

 しかし、小麦を育てる時期ではないので、大豆を育ててはどうでしょうか?」

「おっ、大豆があるのか?」

「大豆がどうかしましたか?」

「いいや、こっちの事だ。

 では大豆を作る。

 六面あるんで二面を家畜用、二面を大豆、二面を飼料大根にしようか」

「そんなに飼料大根を作ってどうするのですか?」

 わけが分からないのだろう。

 ドリスが首を傾げる。

「家畜のえさにもなるし、もしかしたら砂糖もできる」

「砂糖? そんな高価なものが!」

「出来るかどうかは分からないけどね。

 牛に与える餌だと思って作ってみればいいと思うよ」


 本音を言えば砂糖ができるといいな。


「アリヨシ様、凄いですね。見事な畑です」

「ベアトリス様。適当ですよ、朝始めて昼にはできていましたから」

「えっ、この広さを?」

 目を大きくして俺を見る。

「そう、この広さ。ここは木を抜いて平地を作ってから作った農地だから、時間がかかったほうじゃないでしょうか?」

「あの壁も?」

「はい、あの壁もです。ちょっとやりすぎましたね」

「畑を作り城壁を作るのは、領主としてやらなければならない事です。

 もし我が伯爵領で開墾の依頼や城壁の作成依頼を出したらやってもらえますか?

 報酬は払います」

「あまり表に出たくないですね」

「その辺は考慮します」

「それでも、依頼されてから考えます。

 はっきり返事はできませんね」

「わかりました。それでもお父様に進言して依頼します」

「好きにしてください」


 頑固だねぇ。


「ところで、牛と土地の件はベアトリス様にお任せすることになりますがいいですか?」

「はい、問題ないですね」

「牛代は今回のワイバーンの報酬から引いてもらえますか?」

「いいえ、牛の件は私が責任を持ちます。牛の乳というものに興味があります。

 私としては絶対に手に入れなければならないものと思っていますから、今回は私が投資します」


 食べ物への執念?

 一部残念なところへの執念?

 まあ、タダでもらえるならいいか。


「それでは、ベアトリス様に甘えさせてもらうよ」

「ところで、どのような牛がいいのでしょう?」

「乳が出るという事は出産後の牛と言う事。

 この世界の牛の種類がどういうものなのか知りませんが統一しておいたほうがいいでしょう。まずは親牛と子牛を一緒に買うのも良いかもしれませんね、両方が雌だと効率がいいかもしれません」

 ん? ベアトリス様の視線が痛い……。

「この世界……とは?」

 あっ、やらかしたかな? 

 ベアトリス様は俺の失言を見逃さなかったようだ。

 まあ、言っといたほうがいいか。

「まだ誰にも話はしていませんが、私は別の世界から来ています。

 正確には別の世界で死に魂だけこちらに来てこの巨人の体に入っているという状況です」

「だから、色々知っている訳ですね」

 結構ぶっ飛んだ設定だと思うが妙に納得するベアトリス。

「そう、死ぬ前の世界の知識です。いつかは皆に話さなければいけないと思っていますが、今はその時じゃないとも思っています。だから、内緒でお願いします」

「二人だけの秘密ですね」

「そんなに大層な物じゃないと思うのですが……」

「いいえ、私には大層なものです」

 嬉しそうにするベアトリス様だった。

 

 まあ、いいけど。


 ベアトリス様とドリスの農地見学が終わり話をする。

「牛を飼うにしろ鳥を飼うにしろ柵が要る。

 後、牧草地のような場所も要るか。

 まあ土地は余っているから放牧地的な物もあるといいかな?」

「それでは私は大豆と飼料大根の種の手配をしますね。手配出来たら連絡します」

 ドリスが言った。

「私は何とか牛を探します。あとこの辺の土地の事はお父様に相談します。この場所はたいして重要な場所ではありませんから大丈夫でしょう」

 ベアトリス様も言う。

「では、ドリス、ベアトリス様、よろしくお願いします」

 こうして農地見学は終わった。

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