第46話 やっと査定が終わりました。
農地見学を終え、俺は肩に五人を乗せドリスの村へ向かう。
そして疑問……聞いていいかどうか迷っていたのだが。
「今更なんだが……ホント今更なんだが……ドリスの村の名前って何?」
「そういえば言ってなかったですね。オセレという村になります」
再び疑問……。
「あのー、ベアトリス様?
『アントン』という名に心当たりは?」
まあ、伯爵家ってこの辺じゃベアトリス様の家でしょうから。
「それは私の腹違いの弟です。
お父様の威光を盾に悪いことをしているとか……。
最近、騎士を連れてどこかの村の女騎士に結婚を迫ったと聞きました。
ドリスさんに迷惑をかけたようで申し訳ありません。
早めに言わなければと思ってはいたのですが、表立って言えることでもなく……」
ベアトリスはドリスに頭を下げた。
「ベアトリス様はドリスとアントンの件を知っていた訳か……」
ボソリと俺が言う。
「ベアトリス様。
でも、嫌なことばかりじゃないんですよ?
アントン様のお陰で、アリヨシ様に会う事ができたんです。だから気にしていません」
「私もアリヨシ様に助けられたんです。同じですね」
そういや、助けたねぇ。
「ですから、私とは仲良くしてください」
「こちらこそよろしくお願いします。ベアトリス様」
「で、アントンにどのような事をしたのですか?」
ベアトリス様は俺に話を振る。
「知りたいんですか? ベアトリス様」
「はい、参考までに」
「俺の拳の寸止めで転がってもらって……」
と俺が説明すると、
「お父様の威光を笠に無茶をしていた結果。
いい薬です」
ベアトリス様はニコリと笑った。
村に着くと俺は五人を降ろし待機の姿勢を取る。そして五人は館に向かった。
おっと、護衛の騎士たちが走ってくる。
あー、黙って出たの? そりゃ怒るわ……。
パスを通して話を聞く。
「ベアトリス様、困ります。勝手に出歩かれては!」
「大丈夫よ、最強の護衛が居るんですから。あなた達、ドラゴンとフェンリル、そしてあの巨人に勝つ自信はある?」
「しかし、あの者たちは魔物です。ベアトリス様に牙を剥くかもしれません」
「大丈夫、ドラゴンとフェンリルはどうかわかりませんが、あの巨人の根っこには人の心があります。でないと私を賊から守ったりはしません。巨人が計算したり、更には農場経営しようと思いますか? 力があるのですから奪えばいいだけでしょう?」
黙り込む騎士たち。
「あなた達に言っておきます。そしてお父様にも言うつもりです。絶対にあの巨人に手を出してはいけません。あの巨人はこちらから手を出さない限りこちらに手を出してくることは有りませんから」
よくお分かりで……。
まあ、俺が転生者ってのも知ってるしな。
マーカーは、
「査定ができました。
このワイバーンは大きい。それに素材も痛みが無く一級品だ。通常のワイバーンの素材だと膜や皮が破れて使い物にならないものが多いのですが、これはそれが無い。
グラスレックスリーダーも丁寧に解体されていて、素材としては一級品。
それも希少性が高い。
両方で金貨百二十枚。
両方で金貨百十枚と見ましたが、次回も魔物の素材をこちらに回してもらいたいので色を付けました。
ワイバーンの肉の代金を足して金貨百四十五枚でどうでしょうか?」
ドリスを見るマーカー。
「ドリス、コレで契約成立させてくれるか?」
パスで俺が伝えると、
「この金額でお願いします」
ドリスが言った。
マーカーは契約書を取り出し書き込む。
自分のサインと金額を書いているようだ。
「それではこの書類にサインをお願いします」
ドリスは書類にサインした。
「これで契約成立ですね。素材は私たちが引き取り、冒険者ギルドの方へ入金しておきます。ここで入金するのですぐに確認できるでしょう」
そう言いながらマーカーが冒険者ギルドのカウンターへ書類を渡すと、受付嬢が処理を始めた。
「ドリス、金貨百四十五枚ってどのくらいの価値?」
「大きなお屋敷が買えますね」
「お屋敷って言われてもな……」
「んー普通に生活するなら、ひと月に銀貨十枚あれば家族が生活できます。だから、百年以上暮らせますね」
一般の百年の生活費……。
「大金って事はわかったよ。
それじゃ、一度帰る」
取引が終わると、俺とグレア、ノワル、ウルは家に帰ろうとする。
「帰られるのですか?
寂しいですね……」
というベアトリスに、
「パスがあるから話はできるだろ?」
というと、
「とりあえずそれで我慢しておきます」
ぎゅっと手を握りながら言うのだった。
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