第33話 冒険者になりに行きました。

 翌日悲鳴で目が覚める。

  ウルがグレアのフェンリル姿に驚いたようだ。

 いそいそとグレアから降りるウル。


「おう、おはようさん」

  俺はウルを見下ろすと、

「おはようございます……」

 びくびくしながら、ウルは俺を見上げて言った。

「眠れたか?」

「毛皮が温かくて気持ちよかった。

 でも、なんでこんなところにフェンリルが居るのですか?」

「それは、私がご主人様に助けられたから居候になったのです」

 そう言いながら、グレアは人化する。

「あっ、グレアさん」

 ウルの声に気付いたノワルが、

「おっ、起きたのじゃな」

 と言って起きてきた。

「ひぃ、ドラゴン……」

 真っ黒なノワルの姿を見て驚くウル。

「そう言えばこの姿は見せておらんかったの」

 そう言って、ノワルも人化する。

「あっ、ノワルさんだ」

 人の姿にウルが安心したようだ。

「そういう事じゃ。

 そしてわれもここの居候じゃ」

 と言ってノワルが笑う。


「俺の自己紹介がまだだったな。

 俺はアリヨシ、見ての通りの巨人。

 エルフに作られた存在らしい。

 だからなのか、君の悲鳴が聞こえてきた。

 それで、君を助けたって訳だ。

 で、名前は『ウル』だったっけ?

 呼び捨てでいいか?」

「はい、呼び捨てで結構です」

「私はあなたをどうお呼びすれば?」

 とウルが聞く。

「まあ、『さん』でも『様』でもなんでもいいから。何なら呼び捨てでもいいぞ?」

「でしたら、アリヨシ様とお呼びます」

「行くところは?」

 ウルに聞くと、

「わかりません。

 思い出せないんです」

 一度寝れば記憶が戻っているかもしれない……と思ってはいたが、そうではなさそうだ。

「ウルもここで暮らすか?」

 と聞くと、コクリと頷くウル。

 こうしてウルも俺んちホールの居候になる。 


「それじゃ、今日の予定……。ドリスの村に行って冒険者登録します。

 ついでにウルの服の確保」

「はい!」

 グレアが手を上げた。

「はい、グレアさん」

 俺はグレアを指差す。

「何で冒険者になるのですか?」

「それは、お金を稼ぐためだ。

 この世ではお金が必要だ。

 だから、冒険者になってお金を稼ぐ。

 この前のように魔物の討伐を行ったり、物を探したり見つけたりして報酬を得る」

「無ければ奪えばよいじゃろう?」

 力あるドラゴンであるノワル。

 当たり前のように言う。

「はいはい、その考えはダメ」

 俺は胸の前でバッテンを作る。

「周りと共存共栄。

 お金があれば必要な物は買えます。

 気をつけないとノワル討伐依頼とか出ちゃいます。

 冒険者になった俺が受けたら困るだろ?」

「アリヨシの敵になるのは嫌じゃな」

「俺もノワルを攻撃するのは嫌だ。

 だから奪わない」

「わかったのじゃ」

 納得したのかノワルが頷いた。


 ウルと三人を俺の肩に乗せ、歩いてドリスの村に向かう。

 しばらく歩くと、

「くぅ……」

 お腹が鳴り真っ赤になるウル。

「そういや、朝飯食ってないな。

 ドリスのところで何か食べさせてもらうかね」

「すみません」

 申し訳なさそうなウル。

「謝ることはないぞ?

 俺はお腹が空かないから、そういう事に気付けなかったんだ。

 謝るのはこっちの方」

 俺は頭を下げた。

「何で、アリヨシ様のような上位者が、私なんかに頭を下げるんですか?」

「『なんかに』かどうかは知らないけど礼儀だね。

 間違ったりダメなことをしたら、どんな立場でも謝るのは当然だろ?」

 俺が言うと、びっくりしたような目で俺を見るウル。


 えっ、違うの?


「力を持つ上位者は力なき弱者に強制してもおかしくないのです」

 目を伏せながらウルが言った。

 見たところ、中世の雰囲気。

 そういうことがあるのかもしれない。

 ましてや今、エルフは弱者。

 あまりいい目は見ていないのかもしれない。


「ところでウルは料理できる?」

 俺は聞いてみた。

「はい、少々であればできると思います」

「だったら、自分の食事は自分で作ってくれる?

 この体では普通の包丁は扱えないんだ。

 大きな魔物の解体とかならできるんだけどね」

「わかりました」

「ってことは、ドリスに料理道具も頼まないとな。

 そのためにも金が要る。

 ドリスならお金は要らないと言いそうだが、小さな村であまり余裕もないだろう」

 俺が言うと、

「人間は色々面倒じゃのう」

 ノワルがやれやれという感じで言う。

「そう、いろいろ面倒なんだ」

 俺は頷いた。


 まあ、頼りすぎて迷惑になるのもな……。


 ドリスの村が見えてきた。

 入り口に居るのは……ドリス。

 俺が手を挙げると、

「アリヨシどのぉー」

 と声をあげながら走り寄ってきた。

「俺、一応討伐された巨人の設定なんだが……。

 もうちょっと高圧的に言えばいいのに」

 愚痴を言いながら片ひざをつきグレア、ノワル、ウルを降ろすと頭を下げる。

「呼び出しにより巨人と共に参上しました」

 グレアがドリスに言って頭を下げた。

 

 あれ、ドリスの機嫌が悪い。

 もっとなんか期待していたのかな? 

 

「巨人と我々の冒険者登録を頼むぞ。

 あと、ウルの食事も頼みたい」

 ノワルが言うと、

「わかりました。

 巫女たちはこちらへ。

 巨人はこのままここで待っていなさい」

 と言うドリスの指示。

 俺は無言で頷く。

 巫女設定の三人。

 ゴスロリ二人にアイスクライマーのウル、統一感が全く無いがドリスはあまり気にしていないようで、三人を連れて冒険者ギルドへ向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る