第120話 威圧されてしまいました。

 続いて、

「ゴールさん。

 俺の荷を売りたいんだが、どこに持って行けばいい?」

 と聞いてみた。

「えー、どのような物を売るおつもりで?」

「砂糖と岩塩なんだ」

「さっ、砂糖ですか?

 本当に?」

 リアクションが凄いな。

 砂糖でそんなに驚くことか? 


「こんな辺鄙な場所に、砂糖をお持ちに?」

「ロルフさんには言ったんだが、奴隷を買うついでにこの街で売ろうと思っただけなんだ。

 売れないのであれば、別のところで売るだけなんで……」

「ちょっちょっとお待ちください。

 あっ、こちらでお待ちいただけますか?」

 ゴールさんは別の職員に声をかける。

 俺たちは客室に通され、ソファーに座って待っているように指示された。

 なぜか、お茶まで出てくる。

「どうしたんでしょうね」

 グレアが気にしている。

「砂糖の話が出たら顔色が変わった。砂糖絡みで何かあるのだろう」

「砂糖なんて、アリヨシの村ならいくらでもあるのにね」

 アリーダが面倒臭そうに言った。


 まあ、中世的な世界なら砂糖は高価なんだがなぁ……。

 村では普通に各家庭にあるから価値観が違うのだろう。


 意外と待たされたがドタドタと足音がしてゴールさんと共に赤いマントに鎧を着た小さな女性が現れた。後ろには屈強そうな騎士たち。

「ゴールさん、これはどういうことで?」

「えーっとですね。この辺で甘味というのはなかなか手に入りませんので……はい」

 額の汗を手拭いで拭いながらゴールさんは言った。

「えーい、まどろっこしい。私はアデラ。

 単刀直入に言う。私に砂糖を売れ!

 このような僻地で砂糖を得るのは難しい。

 お前の持っている砂糖を全部売れ!

 言い値で買ってやる」

 おっと、強気な女性ですな。

「…………! …………!」


 話が長そうなので俺はパスでドリスを呼んだ。

「ドリス今いいか?」

「はい、何でしょう」

「イーサの町に居るアデラって知ってる?」

「イーサの町はわかりませんが、アデラと言う名なら『龍血』という二つ名を持っている女性ですね」

「『りゅうけつ』?

 血を流す方か?」

「……」

 しばらくの沈黙の後、

「龍の血で龍血です」

 とクスリと笑うドリスの声が聞こえる。


 ボケだとでも思われたのだろうか……。

 本気で思ったんだが……。


「龍の体に傷をつけ倒したことがあるとか……その時に浴びた血のせいで強くなったそうです。

 ちなみに帝国の王女ですよ。

 帝国は男系の者しか継げませんから、継承権はありませんが……」

「倒したドラゴンはノワル級かね?」

「いいえ、野良の龍でしょう。

 もし敵意を持ってノワル様の前に出た人間は気に入られなければ最初のブレスで消し炭になります。

 多分自我があるかどうかもわからないような龍です。

 それでも血には魔力が含まれていますから、魔力を得た人間は強くなるのです」

 と説明を受け、

「そういうことなのか……。

 了解、ありがとう」

 俺はパスを切る。


 パスでの話を終えて、アデラの話を聞こうとした時、

「……というわけだ、わかったか!」

 丁度話が終わったところだったようだ。

 アデラはハアハアと息が荒い。

 とはいえ途中から話の内容を聞いていなかったのでので、

「悪い、途中から考え事をしていて聞いてなかった。

 まあ、要は砂糖を売れということだな」

 俺がそう言うと明らかに周囲の空気が変わった。


 怒ったかな?


 確かに人の話を聞かなかった俺も悪いが……、ありゃアリーダが震えている。

 ゴールさんの顔色が変わる。

 アデラはニヤリと笑った。

「私の威圧に耐えられた者は居ない」

 アデラ余裕の顔。

「アリヨシ様、あの方は『威圧』をなさっているようです」

 ケロッとしたグレア。

「そうだったのか、知らなかった。

 ああ、だから威圧に慣れていないアリーダが参っているんだな?」

 グレアが頷く。

「アリーダ、こういうのは飲まれたら負けなんだぞ?

 俺がこんなちんちくりんに負けると思うか?」

 と言うと、アリーダの顔色が変わる。

「そうだね、それは無いね」

 ニコリと笑いアリーダも威圧から逃れられたようだ。

 アデラは焦った顔。


「商人に威圧をかけるなど、商談ではあるまじき行為。

 あなたに砂糖は売らない。

 俺は買い取った獣人の子たちと明日にはこの町を出るよ」

 俺はソファーから立ち上がる。

「死にたいのか?

 砂糖を売れ!」

 アデラは俺に剣を向けてきた。

「死にたくはないし、死なないと思っている」

 俺はアデラの剣の中ほどを挟み、ポキリと折る。

「えっ」

「これで戦えないな」

 アデラは折れた剣を見て唖然としていた。

「「「アデラ様! お前アデラ様になんてことを!」」」

 騎士たちが騒ぎ始める。

「丸腰の商人を威圧し、効かなかったからと言って剣を向けていいのか?

 たとえこの町の司令官だろうが筋違いじゃないか?」

 それでも剣を抜き襲おうとする騎士たち。


 あーめんどくさい。

「本当の威圧ってのはこういうものだ」

 俺は騎士とアデラに向け、威圧を放った。

 騎士は崩れ落ちるように気絶し、アデラはガタガタと震える。


 あっ……ヤバい。

 グレアがスンスンと匂いを嗅いでいる。

 俺も気づいた。


 ゴールさんには向けていないので何が起こっているのかわからない。オロオロするだけだった。

「ゴールさん、とりあえず明日の朝、馬車と子供を迎えに来ますね」

「えっ、ああ、かしこまりました」

「まっ、待て」

 という、アデラの声が聞こえたが、腰が抜けて動けない。

「さあ、みんな宿に帰ろう」

 と言って俺達三人は宿に帰るのだった。


「お帰りなさいませ。獣人はうまく手に入りましたか?」

 ロルフさんが声をかけてきた。

「獣人は上手く手に入ったのですが、ここの町の司令官であるアデラって人と揉めましてね」

「ああ、龍血ですね。

 けっこう我儘で困っているんです。

 あれでも姫ですから」


 確かに面倒そうだな。


「まあ、何とかしますよ。

 要は砂糖が欲しいみたいですから」

「あっ、食事はどうしますか?

 今なら出せますが」

「三人分お願いします」

 こうして昼食をとると部屋に戻った。


「アリヨシ、凄かったなあの騎士」

 アリーダに言われ、

「アリーダぐらい我儘そうだ」

 俺がそう言うと、

「俺はあんなことないぞ。

 アリヨシの言うことも聞いてるだろ?」

 と、アリーダは頬を膨らませる

「そうだな、よく奴隷で通した」

 友達たちの前で奴隷のふりをして感情を押し隠す。

 けっこうなストレスだったと思う。

「ありがとな」

 俺はアリーダの頭を撫でると、嬉しそうに目を細める。

「ご主人様、この後どうするのですか?」

 グレアが心配そうに聞いてきた。

「んー、子供たちを連れて帰るだけだが?

 契約書もあるしな」

 と言うと、

「あの人ならもう一揉めありそうですね」

 グレアが呟く。


 あー、グレア、それフラグだわ。

 でも回避したいねぇ。

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