第121話 龍血と話をしました。

 俺は宿屋の炊事場を借り、プリンを作る。

 材料は持ってきていた。

 意外とうちの素材って魔力量が多いせいか腐らない。

 この世界、魔力を多く含むものほど傷みづらいらしい。

 

手際よくプリンを作ると、容器は金を払い宿にあった丁度いい大きさのものを買う。

 そして魔法で冷やす。


「あなたも魔法が使えるのですね」

 ロルフさんが聞いてきた。

「生活魔法程度です」

 出来上がったプリンを三つに紙を被せ紐で縛り蓋にする。

 そして硬めの紙で箱を作ると、プリンとスプーンを入れて蓋をした。


「アリーダ、グレア、俺はあの司令官のところに行ってくる。

 明日面倒なことになっても嫌だしね」

「わかりました。お気をつけて」

「何かあったら、グレアとアリーダで逃げろ。

 お前ならそのくらいは容易いだろ?」

「ご主人様は?」

「最悪巨人に戻って逃げるよ」

 そう俺が言うと、

「畏まりました」

「アリヨシ、わかったよ」

 二人は頷く。


 ロルフさんに騎士の駐屯地の場所を聞いて、その場所へ向かう。

 司令官ならそこに居るだろう。

 中を覗くと、数百人程度の騎士が剣や槍、馬術を練習していた。

「ここに居る司令官のアデラ様に話があるんだ、取り次いでもらえないかな?」

 入り口に立つ騎士に声をかける。

「アデラ様に何の用だ!」

 と聞くので、

「騎士が十人程ボロボロになって帰って来なかったか?」

 と聞くと、

「ああ、さっき帰って来た。

 それがどうした?」

 騎士が言う。

「その原因の男だ。

 まあ、そう言えばアデラ様はわかるだろう。

 取り次がないのなら、そのまま入るが?」

 そう言って薄く威圧をすると、

「少し待ってろ」

 と騎士は言って中に入って行った。


 ドドドドドドドドドという足音がすると、三十人ほどの騎士が現れる。

「お前、何をしに来た!」

 その中のリーダーらしき騎士が俺に詰め寄った。

「アデラ様に直接会って謝りに来たんだ。

 お詫びの品として甘いお菓子も持ってきている」

 俺は、プリンの入った箱を前に出す。

「それとも、俺のような商人には会えないというのかな?

 えっもしかしてアデラ様は俺が怖いとか?」

 俺がアデラを煽ることを言っていると、

「わっ私があなたを怖いって?

 バカなこと言うんじゃないわよ」

 騎士たちの後ろからアデラが現れた。

「だったら最初から前に出て来ればいいのに」

 と突っ込む俺に、

「そっそれは……」

 と言葉が無くなる。

「謝罪をしに来たわけだが、お茶ぐらいは出してもらえるのか?」

 と聞くと、怒ったように俺を見て、

「仕方ないわね、こっちへ来て」

 俺はアデラの後ろをついて行った。

 数十の騎士の中を気にせずに歩く俺。

 まあ、負ける気はしない。


 応接室のようなところへ通される。

「そこに座って」

 俺はソファーに座る。

 アデラは備え付けの茶器を使って紅茶を入れると、俺に差し出した。

「おっ、ありがとう。

 そういう所は姫様らしいんだな」

 俺が言うと、

「うるさい!」

 と怒鳴られた。

「で、何で私に謝りに来た?」

 顔を近づけてきたアデラ。

「ん?

 何となくな。

そんな風に紅茶の準備をしていると可愛いのにな」

 俺が不意打ちでそう言うとアデラは真っ赤になる。

「正直このままにしておいたら明日の朝まともに街を出られないかと思ってね」

 俺の言葉にアデラはビクリとした。


 図星だったかね。


「別に俺が襲われるのはいいんだ。

 それを何とかする力は持っている。

 この町の最高の力を持つあんたがその程度なら問題はない。

 それがわかって部下を俺と戦わせるのを止めに来ただけだ。

 おっと悪い、コレ土産。プリンってお菓子な。

 俺が宿で作ったもの。

 冷えているうちに食ってくれ」

 俺はプリンの入った箱を差し出した。


 アデラは恐る恐る箱を開けると、中にある容器に触る。

「あっ、冷たい」

「冷やしてあるほうが美味いんでね」

 その後容器を取り出し、紙の蓋を外した。

「あっ、香ばしい匂い」

 一応砂糖を使ってカラメルも作って上に乗せてある。

「そのスプーンを使って食べてくれ」

 アデラはスプーンを持つとプリンを掬って食べ始めた。

 無言のまま食べ続けるアデラ。

 一つ、二つ、三つすべて食べ尽くす。


「美味かったか?」

 コクリと頷くアデラ。

「まあ、そういうことで手打ちな。

 砂糖は同じ重さの金貨と交換だ。

 相場だろ?

 買う気があるなら、明日の朝、金貨を準備しておいてくれ」

 俺はそう言うと席を立つ。

「それと、そんなに気が強い振りをしていると損だぞ?

 敵を作らないようにしないと……。

 あっ、まさかそれでこんな僻地に飛ばされたのか?」

 と推測を言うと、

「うるさい!」

 と怒られてしまった。

 図星?

 まあ、あんな言い方をしていちゃ敵作るよな……。

 我儘が通るところばかりじゃないし、どう見ても脳筋だしなぁ。


「さっき言っただろ?

 ちゃんとしてれば可愛いんだ、男たぶらかして甘えられる相手を探すんだな。

 じゃあ俺は宿に戻る」

 さあ帰ろうと扉を開けようとした時、袖を引っ張られた。

「ん? どうした?」

 と見ると、アデラの顔が赤い。

「みんな弱いんだもん」

 と少し甘えたような声。

「だもん?」

 思わず聞き返してしまった。

 すると、

「他の者は甘えて抱きしめたら壊れる!」

 と声を上げる。

 龍の力で力が強くなっているって言ってたから、そのせいで思いっきりができないわけか……。


「壊れない者を探せば良いだろ?

 それか甘える時は手を抜け」

 俺は当たり前のことを言ってみたのだが、

「ここに居る」

 アデラは俺を指差すので、

「いやいや……俺なんて嫌いだろうに。

 言わなかったが、俺の威圧で失禁しただろ?

 そんなことさせる奴だぞ。

 そんな奴を選ばなくても……」

 嫌われそうなことをあえて言ってみた。

 ボッという音がしそうなくらいに赤くなるアデラが、

「きっ気付かれてたんだ……」

 とボソリ。

「まあ、そうだな。

 気付いた」

 俺はポリポリと頬を掻く。

 そして、このくだりが起こると……えーっと、このまま居るのは危険をはらむような気がした。


「じゃあ、そろそろお暇を……」

 そそくさと応接間から出ようとした時、

「そんな恥ずかしい姿を見られたら、私はお前に嫁ぐしかない」

 天井を見ながらどっかで聞いたことがある言葉を話すアデラ。

「なんでだよぉ!」

俺はアデラを置いて部屋を出ると俺は宿に戻るのだった。

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