第26話 結局連れて行きました。

 ドリスを見送り、剥いだ鹿の皮を処理していると、ノワルがパスを通してドリスとの会話を聞かせてきた。

「一つ聞いていいかの?

 なぜアリヨシを倒さねばならんかったのじゃ?」

「私はそんなに裕福ではない騎士の娘として産まれました。

 跡継ぎが私しかいなかったせいで騎士の道を歩むことになったのです」

「ふむ」

「人が言うには、私は綺麗な部類なんだそうです」

「そういえばアリヨシもそんなことを言うておったのう」


 ノワルめ、よく聞いてらっしゃる。


「その容姿が気に入ったと言うことで、力ある貴族の次男が求婚してきました。

 ちょっとした模擬戦で私が負けたというのもあるのでしょう。

 さらに父上の借金も見つかり、知らない間に肩代わりされていました。そして証文を盾に結婚を迫って……きたのです」

 ドリスは泣きだしたようだ。

 鼻をすするような音が聞こえる。

「泣くではない、続きじゃ」

 ノワルが促す。

「何度も断る私に条件が出されました。

『この先の村に巨人は出たという。その巨人を倒してきたのなら、結婚の話と借金の件は帳消しにしてやろう』と……。

 私が女と言う事もあって舐めていたのでしょう、本当に巨人を実際に倒しに行くとは思わなかったようです」

「そういう奴等なら、われが言っても聞かんかもしれんのう。まあ、そのときはアリヨシが何とかするじゃろう」

「アリヨシ様にはもう色々していただいてますし……」

 ドリスは黙ったのか声が聞こえなくなる。


「と言うことらしいぞ? アリヨシ」

 ノワルが言った。

「はいはい、俺も行けばいいんだろ?

 ここは任せたぞ、グレア」

「はいお任せくださいご主人様」

「ちょっと行ってくる」

 そう言って、熊スーツを着てノワルが飛んでいった方へ走った。


「遅いぞアリヨシ」

 口角を上げ笑いながら言うノワル。

「空を飛べる奴には言われたくないな。俺は地を這っているんだ」

 ノワルを見ながら俺は言い返す。

「ドリスよ、一度降りるぞ」

 そう言ってノワルがふわりと降りてきた。

 ドリスは俺が来たことに驚いたようだ。


「なぜアリヨシ様が?」

 不思議そうにドリスが聞いてきた。

「悪い、ノワルとドリスの会話を聞いたんだ。

 ノワルがパスを使って俺に聞かせたってのが正解かな。

 それ聞いて俺が行くほうが良さそうと思ったんでね」

 俺とドリスが話していると。

「はよう降りろ、人化するでな」

 ノワルは長い首で振り向くと、ドリスを急かした。

 ドリスが降りるといつもの黒いゴスロリ服を着た少女に変わる。

「アリヨシよ。われとドリスを乗せてもらえるかの?」

「ハイハイ……って、お前も一緒に行くのか?」

「当たり前であろう?

 ドリスはアリヨシの友達じゃろう?

 だったらわれも友達じゃぞ?」

 少し拗ねたように言うノワル。


「まあいか。

 ドリスとノワルは俺の手のひらに乗れ!」

 そう言うと、ドリスは恐る恐る、ノワルはピョンと俺の左の手のひらに乗る。

 そのまま二人を右肩に乗せた。

「走るぞ! ノワル、ドリスが落ちそうになったら頼む」

「心得たのじゃ!」

 ノワルの声が聞こえるとすぐ俺は走りだした。


「ドリス大丈夫か?」

 ちらっと右肩を見ながら言うと、

「ギガントベアの毛で守られていますから大丈夫です。

 意外と快適ですよ」

 ドリスの楽しそうな声が聞こえる。

「だったらいいんだ。

 で、この道で間違いないか?」

「はい、アリヨシ様問題ありません」

われは?

 心配してもらえんのか?」

 口を尖らせ拗ねているノワル。

「ハイハイ、ノワルも大丈夫か?」

「何じゃ、そのやっつけ的な『大丈夫か?』は!」


 おっと、ちょっと怒ったかな?

 

「わかった、このあとドリスん所で頑張ってくれたら、撫でてやる」

「わかった、頑張る!」


 再びチョロい。

 どんだけ撫でて欲しいんだ、お前……。


 ドリスの誘導のもと、暫く走ると小さな村が見える。

 そのころには日が傾きだしていた。

「ここが私の村」

 ドリスが教えてくれる。

 お世辞にも活気があるようには見えないな。

「あそこに居るのが私に求婚している貴族の次男、アントン様です」

 ドリスの指差す先には小さな館があり、そこには十人程の騎士と丸々と太った青年が居た。


 さあ、とりあえずドリスのことを何とかしようか。

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