第79話 あみだくじ

「ステファン様、結局プリンを食べられませんでしたね」

「ああ、儂は甘いものをあまり好まんからいいのだ。

 あれで機嫌がよくなるのなら尚更な」

 ヤレヤレ感を出してオヤジさんは言った。

「貴族の妻と言うのは次代を産むためでしかない……と思われておる。

 ベアトリスのような娘は稀だ。

 ブレンダの楽しみと言えば、子供の成長、あと社交界や衣食ぐらいしかなくてな。

 これで孫でもできればまた違うのだろうが……」

「その事です。

 お父様、巨人の知識らしいのですが、子供を授かる確率を上げる方法があるらしいのです」

 今だ! と言わんばかりにベアトリスが立ち上がると、オヤジさんのところへ。

 何かを耳元で話している。

「何?

 巨人の秘術か?」


 あっ、俺がこの前言った奴か? 

 大層な話になっているな。


「まあ、そんな感じですね。これがメモになります。

 マルスお兄様にお渡し願えませんか?」

「わかった、預かっておく」

 オヤジさんはベアトリスからメモを受け取った。

 メモをチラ見するオヤジさん。


 それは、オヤジさん用じゃないからね。

 年の離れたベアトリスの弟や妹ができたりするんじゃないだろうね。


「アリヨシよ、砂糖の件は自由にしていい」

 オヤジさんが言った。

 砂糖は俺が自由にしていいらしい。

「それでは儂の用事は終わりだ。

 あとは好きにしてくれ」

「えっ、そんだけ?」

 驚いて言う俺に、

「ああ、それだけだ」

 オヤジさんが即答。

 こうして話は終わった。

 

 本当に、ベアトリスの母ちゃんの機嫌取りだったのね。

 オヤジさんも大変だ。


「お前の方からは何かあるか?」

 と聞かれ、それなら……と、

「早速ですが、ドリス・ベックマンをベアトリス付けの騎士にしてもらえませんか?」

 オヤジさんに進言する。

「ドリス・ベックマンを?」

「はい、砂糖製作の知識はドリス・ベックマンも知っています。

 ドリス・ベックマンはあの村で一人生活しているので、砂糖が流通し始めると製法を知るため襲われる可能性があります。

 ですから、あの村へは誰かドリスの部下として代官を置き、ドリス・ベックマンについては私の手元に置いておきたいのです」

「ふむ、機密保持のためというわけか……」

「そうです」

「よかろう。

 代官はこちらから派遣しておく。

 入れ替わりでドリス・ベックマンはお前の所へ行くようにしよう」

「ありがとうございます」

 俺はオヤジさんに頭を下げた。

 まあ、これで俺の話も終わりだけど……そう思ってベアトリスを見ると、気づいたようで、

「それではお父様、失礼します」

「ステファン様、失礼しします」

 そう言ってベアトリスと俺はオヤジさんの執務室を去るのだった。

「ドリスさんの件、うまくいきましたね」

 ベアトリス歩きながら言ってきた。

「覚えていたのか?」

「はい」

「これで全員そろうな」

「はい、でも私の事もよろしくお願いしますね」

 ニッコリ笑ってはいるが目はちょっと怒っているベアトリスだった


 ということで後は、岩塩に関すること。

「ベアトリス、あの岩塩どうする?」

「そうですね、商人に見せましょう」

 岩塩の件はベアトリスが仕切るので、オヤジさんに言う必要はない。

「見に来る?

 持って行く?」

 あの塊を俺が運ぶなら、巨人に戻る必要がある。

 わざわざ貴族風の服を着てきたんだ。

 そういえば、ベアトリスのお泊りを謝りに来た時、サーベルが巨大化したよな。

 身につけている物は適正な大きさに変わるはずだから、まあ、服に関しては巨人に戻っても問題ないわけか。

「とりあえず、見に来てもらいましょう。

 伯爵家の懇意にしている商人がいますから……」

 ベアトリスは再び家令に指示を出すと、家令からメイドへ指示が出たようだ。玄関から外へ出ていく姿が見えた。

「『ルンデル商会』の者が来ると思います。

 岩塩を見てもらいましょう」

 ベアトリスが言った。


 リビングに戻ると、

「ご主人様、ちゃんと待っていました」

「アリヨシ、われも待っておったぞ?」

「アリヨシ様、お帰りなさい」

 グレア、ノワル、ウルのそれぞれが立ち上がり俺を迎える。

 何も起こさずに待っていたことを誉めて欲しいのか、グレアの尻尾がブンブン振られていた。

 頭を撫でる俺。三人は気持ちよさそうに目を細めていた。

 でも何も起こさないで待っているのって普通じゃない? 


 ん? 


 俺の傍でじっと立っているベアトリス。

「ベアトリスもか?」

「いっ、いえ、私は……」

「まあ、ついでだ」

 俺はベアトリスの頭も撫でる。


 応接セットに五人で座って待っている。

 すると俺の両側の取り合いが始まった。

 ゴソゴソとちょっと鬱陶しい。

「あみだくじするか」

「「「「あみだくじ?」」」」

 紙に四本の縦線を引き、そこに二つ丸を付ける。丸が付いたところはわからないように折って、後は適当に横線を引いてっと。

「ほい」

 厳正なるあみだくじの結果。

 俺の隣に座ったのはベアトリスとウルだった。結局ケモノーズは両端になった。

 そして座る場所が決まったころ、恰幅のいい中年の男が現れる。

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