第80話 デニスさんと会いました。

「ベアトリス様、お久しゅうございます。

 何やら見て欲しいものがあると聞いてまいりました」

 クルーム伯爵御用達の商人と言う事だ。

「急な呼び出し、申し訳ありません。

 今日は私が開発しようとしている岩塩鉱山の鉱石を見てもらいたくて呼んだのです」

 ベアトリスが説明をする。

「岩塩鉱山、うわさでは聞いていましたが実際に開発されるのですね」

「噂になっていたのですね」


 機密が漏れていたわけか……。

 そりゃ問題だ。


「ベアトリス様、商人は金になりそうな噂を聞き逃すわけにはいきません。

 お気になさらず。

 それでは鉱石を見せてもらえますか?」

 おっと、話をすり替えた。

「それでは、庭に来ていただけますか」

「えっ、庭?」

 ベアトリスがソファーを立ち上がると商人が立ち上がり、俺を含めた四人がベアトリスと商人に付いて行く。

 玄関を出て庭が見渡せる位置に来ると、

「あれです」

 そう言って、庭の中央に刺さった赤い岩塩の塊を指さした。

 岩塩は日に照らされキラキラと輝く。

「ベアトリス様、この位置でもわかる。

 不純物が少なく透きとおって向こうが見えている。

 あれが本当に岩塩なら大変な価値ですぞ!

 しかしあのような塊をどのようにして……」

「ルンデルさん、紹介しておきましょう。

 この岩塩鉱山を発見したアリヨシ様。

『私の夫』になる予定です」

「アリヨシです、よろしくお願いします」

 俺は軽く頭を下げた。

「アリヨシ様、こちらがデニス・ルンデルさん。

 クルーム伯爵家御用達の商人です」

「初めまして、デニス・ルンデルと申します」

「この岩塩鉱石を持ってきたのは、そこに居るノワルさん」

「よろしくのう」

 そう言うと、ノワルは人化を解き、バハムートの姿に戻る。


 演出? 


「うっ、うわぁ、ドッドラゴン……」

 二十メートル以上あるノワルを見て腰を抜かすデニスさん。


 デニスさん、それは正しい反応だと思う。


「ちなみに、ノワルさんはアリヨシ様の従魔です」

 ベアトリスの説明を聞き「えっ」って感じで俺を二度見するデニスさん。

「申し訳ない、ノワルがからかったようだ。

 ノワル、人化して」

 再びメイド姿に戻るノワル。

 わざとバハムートに戻って俺の価値をアピールしてくれたようだ。


「ところでデニスさん、あの岩塩が取れる鉱山がクルーム伯爵領内にあり、販売を依頼する商人を探しているとしたらどうします?

 まあ、まだ調査して人手も集めなければいけないんですがね」

 静かに目を瞑るデニスさん。

 計算しているのだろう。

「海水を原料にした塩が流通していますが、この塩は最終的に塩にする際、大量の薪が必要になり薪代の分高くなります。

 更に南部の遠方から運ばれてくるため輸送費で北部であるこちらでは高くなってしまいます。

 噂では薪のために木を切り倒すため森がなくなっているとも聞きます。

 こちらの岩塩は掘り出すだけで済みますから、南部産の塩よりも安くそして大量に流通させることができる。

 北部周辺だけでも顧客を取り込むことができれば、南部産の塩の半分で売ったとしても十分利益は出るのは間違いありませんね。

 私どもに販売を依頼していただけるのなら、喜んでお受けしましょう」

 俺たちに説明しているのか、自分を納得させているのかわからないような言い方で、デニスさんは言った。

「ベアトリス、デニスさんとの交渉はベアトリスに任せるよ。

 両方が納得できる契約にしてくれ」

「わかりました、アリヨシ様」

「デニスさん、後の交渉はベアトリスに任せてあります。

 よろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 俺とデニスさんは握手をした。

「先ほども言いましたが、まだ表面しか見ていない状態です。

 どの程度の埋蔵量があるのかもわかりません。

 人手さえない状態です。

 ですから詳細が分かれば、ベアトリスのほうから連絡するようにします」

「わかりました。良い報告をお待ちしております」

 デニスさんが頭を下げるのだった。


 面通しは終わりか……。

 あっ……。


「ベアトリス、あの岩塩どうする?」

「私どものところでは、あの量は要りませんね」


 そりゃそうだ、縦三メートル、横二メートル程度の卵型である。削れてもいないから使うのも一苦労だろう。

大きすぎたな。


「デニスさんは、あの岩塩要る?」

「あの大きさでは荷車で運べません」

 トン単位の岩塩の塊か、確かに荷馬車には乗らないだろうなぁ。

「小さくしたら、要ります?」

 と聞くと、

「小さくなるのであれば」

 デニスさんは不安げに俺を見る。


 塩の結晶は正六面体だからうまくやればサイコロ状に割れるはずだ。

 一辺十センチ程度のサイコロ状に切ってくれと土の精霊に頼むと、庭に刺さっていた結晶が無数のキューブ状の物になり崩れ落ちた。

「これでいいかな?」

「あっ、アリヨシ様は魔法が使えるですか?」

 驚くデニスさん。

「まあ、程々に」

 ばらばらになった岩塩鉱石を見て

「これならば荷馬車に乗せられます。

いただいていいのですか?

これだけでも相当な価値がありますが……」

「ああ、いいのいいの。

 どうせ持っていても使いきれないから。

 ん?

 だったら、試供品として塩を使うようなところへ提供してもらえますか?

 『こんなのが売り出されるかもしれない』って感じで……」

「試供品として渡してお客様の声を聞くと言う事ですね。わかりました。お任せください」

 ドンと胸を叩いたあと、お約束でむせるデニスさんだった。


続いて砂糖。

「砂糖というのは高いと聞いたんだけど、もし家で砂糖が取れるとしたらどうする?」

「それは……本当のことなのですか?」

 デニスさんはゴクリと生唾を飲み込む。

「お父様に見せた残りがあります」

ベアトリスがツボを差し出すとデニスさんは壺の中から砂糖をつまみだすと舐めた。

「!?」

驚いた顔をして俺を見るデニスさん。

「間違いない、砂糖です。

 これを販売なさると?」

「できればね。

 岩塩のついでに売ってもらいたいんだ。

まあ、まだ量はできないから、これはもっと生産が可能になってから。

うちの名物になると思うから、その時は頼むよ」

「畏まりました」

デニスさんが頭を下げた。


 さあ、ここでのことは終わり、家に帰るかなぁ

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