第125話 めんどくさい女らしいです。

 先日見た芋虫のことを思い出す。

「ベアトリス、グレートモスの布と言うのは有名なのか?」

 ベアトリスは顎に手を添え考えるが、

「私は聞いたことがありませんね」

 と言った。

 帝国で流通し、王国では取り扱っていない布ということなんだろうな。

 ルンデル商会に問い合わせれば、いろいろ情報が入りそうだけど……。

 もう少しすれば砂糖の納入の時期。イーサの町に行ったとき、アデラに聞いてみるか。


 そして定期の砂糖納入の日……と言っても大体なんだが。

 俺はスレイプニルのウラノスに乗りイーサの街まで駆ける。

 まあ、音速が出るウラノスだ、数分もしないうちに、イーサの町にたどり着いた。

 ウラノスとともに税を払い町に入る。

 そのままウラノスを連れ、騎士の駐屯地へ向かった。

「アリヨシと申します。アデラ様はいらっしゃるでしょうか?」

 と、商人風に近くに居た騎士に繋ぎをつけてもらうと、早速アデラが迎えに来る。

「アリヨシ、いらっしゃい」

「ああ、砂糖を持ってきた。

 そろそろ一ヶ月だからな。ところで獣人の子は居たか?」

「いいや、まだ見つかっていない。

 ここを出てしまうと足取りを探すのは難しいな。

 役場の奴等も奴隷にして売るよりは労働力として使う事を考えればいいのだが。

 あの身体能力は兵士として十分に役に立つ」

「アデラ、俺もそう思う」

「だろ?

 ただ、帝都の役人はそれを考えなかったみたいだな」

「でも、獣人の村に砦を作ろうとはしたんだろ?」

「あれは、中央の者が強引にやった事。

 急に壁ができたことに危機感を覚えたんだろうな。

 まあ、砦なんか作ったとしても、あの規模じゃ囲まれて終わりだ。

 この町に救援を求めて援軍を出すころには落とされてる」

 アデラがため息をつきながら言った。


 アデラは俺が連れたウラノスを見た。

「そういえば、それスレイプニルだろ?

 初めて見た。

 アリヨシはすごい馬に乗っているんだな」

 ウラノスをまじまじと見ながら一周まわる。

「触っていいか」

 なんと言ってもアデラは騎士だ、馬に興味があってもおかしくない。

「好きにすればいい。

 脅かして蹴られないようにな」

「馬の扱いはわかっておる」

 アデラはウラノスの腹を触ったり、鼻筋を触ったりしていた。

 ウラノスは我関せずで、無視している。

「乗っても大丈夫か?」

「さあ、わからん。

 というか背中まで届くのか?」

 俺はニヤリと笑った。

「うっ」

 アデラが黙る。

 ウラノスは俺の身長よりも体高がある。それに引き換えアデラは俺より頭一つ以上小さな体だ、どう見ても届かない。俺はウラノスを裸馬で乗っているので、鐙のような足を置くようなところはない。

「うー、上れない」

 アデラがピョンピョンと飛ぶが届かない。

 俺が乗るときは、ウラノスが中側の二本の足を軽く曲げ、階段のようにしてくれる。俺はそれを足場に背に乗る。

「ちょっと待ってな」

 そう言ったあと、ウラノスの前に行き、

「ウラノス」

 と頼む。

 するとウラノスが中側の二本の足を軽く曲げ階段を作った。

 俺はひょいとアデラを抱え上げると、それを足場で俺はアデラと背に乗り、小脇に抱えたアデラを俺の前に乗せた。

「これでいいか」

「高いな。私が乗った馬の中でも一番体高がある。

 ああ、私が大きくなったようだ」

 アデラは周りをきょろきょろしながら、ウラノスの上から見る風景を楽しんでいるようだった。

「私は馬に乗り始めた時以来、男の前に座って馬に乗ったことは無い。

 ただアリヨシだと安心するな」

 アデラは振り返り、微笑みながら言った。

「俺じゃなくてもいいだろうに」

「いや、アリヨシじゃないとダメなんだ」

 俺に体を預けるアデラ。


 即答ですか……。

 おっと、聞こうと思っていたこと。


「アデラ、グレートモスの糸で織った布ってのはいいモノなのか?」

「そうだな、帝国内では高値で取引される。

 消滅した獣人の村が産地でな、もう生産されることは無いだろう」

「服を仕立てる分ぐらいの布があったらどれぐらいになる?」

「金貨十枚ぐらいにはなるんじゃないのか?

 私はああいう服は苦手でな、仕方なく着ることはあるが、それ以外は鎧か楽な格好だな」

「そうか、でもアデラってドレスみたいなのも合いそうだが?」

「見てみたいか?」

「機会があればね」

「それでは亡命の際にはドレスを一着持って行こう」

 アデラがにこりと笑う。


「俺んち来るの?」

「ああ、押しかけ女房だ」

 その言葉こっちにもあるのね。

「でも女房いっぱい居るぞ?」

「末席で十分。

 傍に居られればいい」

 俺は頭を掻く。

「めんどくさいなぁ」

 すると、アデラは

「私は面倒くさい女なんだよ」

 どっかで聞いた言葉を言うとケラケラと笑うのだった。

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