第126話 なんかバレました。
「アデラ殿下、そのスレイプニルはどうしたのですか?」
突然後ろから声がかかった。
「おお、お前はエリーザお姉さま付きの騎士、アークじゃないか。
何しに来た?」
アデラが聞く。
「それよりもその馬は?」
「ああ、アリヨシの馬だな」
「ん?」
俺が声の方を振り向くと、
「貴様はあの時の!」
アークは俺を指差し震えていた。
「どの時だ?」
「山でスレイプニルを……」
「うーん、覚えてないなぁ」
まあ、覚えているけども。
ニヤニヤしながら、俺は言う。
「馬から降りろ、切り捨ててやる」
顔を真っ赤にするアーク。
「私の客人に剣を向けるか?」
アデラが言った。
「そっ、そういうわけではありませんが、この者は王国の者です。
私がスレイプニルをエリーザ殿下の命で得ようと山に登った時、もう少しで捕まえられるという時に邪魔をされ、このスレイプニルを取り逃がしたのです。
「そうなのか?」
アデラが俺の方を向いて聞いてきた。
「俺の記憶が正しければ、罠を仕掛けてスレイプニルを得ようとしたバカな奴が居たのは覚えているよ。
三頭居たんだが、それはウラヌス親子だった。
そのうちの子馬が罠にかかり、傷は大きく骨まで見えていた。
あのままでは子馬は死んでいただろうな。
その子が死んで、スレイプニルはそのバカに懐くのかね。
さらには罠を外し治療していたら『一頭よこせ』と、そのバカは高圧的に言ってきた」
「ぐっ」
本当のことを言われて何も言えないアーク。
「アデラ殿下、この者は帝国に喧嘩を売ったのです。
『喧嘩を売るなら俺が買うぞ?
俺は壁向こうの村を統べる者だ。
住民は数十人、相手にしたかったら来ればいい』と言っていました」
自分より強い者に縋るようだ。
「アリヨシ、そんなことを?」
「ああ、言った。帝国だからどうとか、うるさくてな。
でも『我々は数万人を有する軍でいく。勝てると思うなよ!』って捨て台詞を言ってたやつがいたぞ?
売り言葉に買い言葉だろうが『一介の騎士がどうやるんだろう』とは思ったよ」
「そうだな、お前にそんな権力があるとは思えんが……」
「そっ、それは」
固まるアーク。
「それはいい、お前が剣を向けるアリヨシに勝てるのか?
私はこの男に勝てなかったぞ」
「えっ……『龍血』が?」
「私は動く間もなく無力化されたのだが……」
「そっ、それは」
「私はお前がアリヨシとやる気ならば止めはしない。
しかし断言しよう。
確実にお前は死ぬ」
俺は手の関節を鳴らし、軽く威圧する。
アークの額に脂汗が浮く。
すると、
「私は用事を思い出しました。
失礼します」
アークはその場から走り去っていった。
「私への用事は何だったのかね」
「さあな」
ただ、揉め事の匂いはした。
「ちなみに、アデラより強いのは居る?」
「おるぞ、父上に兄上だな。
紹介してやろうか?」
「いや、今はいい」
「強い者は喜ばれるのだがな」
どんだけ脳筋なんだ……。
「さて。納品も終わったし……そろそろ帰るかなあ」
ふとアデラを見ると、睨まれていた。
「ん? どうした?」
俺が聞くと、
「お前は商人ではなかったのか?」
睨みつけるアデラが居た。「商人だよ?
だから砂糖を持ってくる」
「村を持っていると言っていたのだが」
「村というよりは集落だな。
開拓の許可を貰って周囲を開拓している。
まあ、さっき聞いたグレートモスの件はそこの産物にならないかと思って聞いた訳だ」
「帝国軍数万を相手にできるとも言っていたようだが?」
「ああ、それはできる。
現有戦力で多分帝国を亡ぼすこともできる……と思う」
俺はそのために作られた訳だからな。
「帝国を?」
「ああ、正直言うと獣人の村を消滅させたのも俺だ。
これ内緒の奴な」
「まさか、私が兵を押さえる必要は……」
「正直ないな」
ちょっと申し訳ない。
ばつが悪いので俺は鼻の頭を掻いていた。
「では、私がここにいる理由は?」
「アデラがここに居てくれれば、獣人の子を助けることができる」
「それだけ?
だったら、私がその集落に行っても問題ないではないか!」
あっ、今度は拗ねた?
「それだけと言われてもな……。
たまに家の外に出かける理由にもなる。
周りに誰もおらず二人きりなのはお前ぐらいだぞ?」
「私だけ二人きり……」
何を想像しているのか上を向くアデラ。
何もしないぞ?
全員ではないが他のは手を出してるけど……。
「もう、私が知らないことは無いな」
「んー、あるけどここでやったら大変なことになるからやらない」
「どこなら出来る?」
「離れた誰も居ない場所ならいい。
この向こうに森があっただろ、あの中だな」
「えっ、私を襲う?」
顔を赤らめ、モジモジしながらアデラが言う。
そのモジモジは要らないから。
「襲わねーよ。
あと、このことを誰にも話さないこと。
でも、言ったとしても信用されないかも……。
あっ、もしかしたら俺が怖くなるかもなぁ」
「怖くはならない……はず」
それじゃあ、森に行くか。
俺はウラノスの腹を軽く蹴ると、空に舞いあがり森へと馬を走らせるのだった。
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