第10話 早速温泉に入ろう。

 ああ……まだ温泉は溜まり切っていないか……。


 朝になり目を覚ますと、腕にあったはずのグレアの頭が知らないうちに俺の胸の上に……。

「グレアって寝相悪い?」

 俺が聞くと、

「ご主人様が上を向いて寝ていたので、お邪魔させてもらいました。

 トクトクという心臓の音が心地いいのです」

 と耳を胸に当てうっとりしていた。


 赤ちゃんが心音を聞くと眠るって聞いたことがあるな。

 心音で落ち着くのかね?


「えっ一度起きて、俺の上に乗ったのか?」

「そうです。

 寝心地良さそうだったので」


 寝ている俺の事は考えてくれなかったのね……。

 でもまあ、一応寝られたから良しとするか。


 と思った後、


 さて、温泉はどうなったかな?


 温泉のことを思い出す。

 グレアを降ろし、ホールを出て外に出ると温泉が湯船一杯になっていた。

 湯気が上がっている。

「おぉ、湯船に湯が張れている。

 あとは温度だよな」

 湯船に近づき手を入れると少し熱い。

 我慢してかき混ぜると丁度いい感じになった。

「源泉かけ流し温泉完成」

 早速、大将状態のタンクトップとトランクスを脱ぎ、すっぽんぽんになると湯船に入る。

 洗面器が無いのがもどかしい。

 仕方ないので俺仕様の兜を洗面器の代わりにしてかけ湯を行う。

 何か桶を作らないと兜が変色しそう。


「あーーーー気持ちいい」

 被ったお湯の温度はちょっと熱めの肌を刺すような感じ。

「染み渡るぅ」ってとこかな?


 肩まで浸かりボーっとする。

「私も入りますぅ」

 俺が風呂で気持ち良くしていたのを見たグレアが風呂に飛び込んできた。

「ダメダメ、一度出て!」

「なぜです?」

「かけ湯をしてからじゃないと汚れが入っちゃうだろ?

 お風呂に入る時はそうしないといけないの。」

 俺とグレアは一度湯船から出た。

「うわっ」

 濡れた動物特有の例のブルブルを食らってしまった。

「あっすみません。

 無意識に……」

 伏せの体勢になり上目遣いになって謝るグレア。

「まあいい、そこに立って」

 俺は兜で湯を汲みグレアにかける。

 すると流れに落ちる湯の色が黒く変わる。

「お前、結構汚れているな?」

「わかりません。

 お風呂に入ったことも無いから汚れなど気にしたことも無かったし、痒かったら木に体をこすりつけるぐらいでしたから……」

 体を見ると灰色の毛皮の中に黒や白の汚れが見える。

 虫も居るのか?

 意外と体毛も長いのか木の葉っぱや枝も纏わりついていた。


「洗ってやろうか?」

 と見下ろしながら言うと、

「洗ってもらえるんですか?」

 嬉しそうに尻尾を振る。

「いいぞ、ちょっとじっとしてて」

 俺は湯をかけながら背中や脇を洗ってやった。


 本当はシャンプーが良いんだけど、そんな便利なものは無いしなぁ。


 そんなことを思っていると、 

「あっ、えっ、何これ」

 グレアが声を出して震えはじめ、そのうち体の力が抜けてダランと伏せの状態になる。

「立ってないと洗えないだろ?」

 とグレアを見るが、

「ご主人様の指が気持ちよすぎて、立ってられません」

 と無理とでもいうように首を振る。


 そんなもん?


 首を傾げてしまう。


「まあ、頭と背中や足は終わったから、お腹出せ!

 あと尻尾も洗ってやる!」

 俺が言うと、言われるがまま服従のポーズになるグレア。

「えっ、ダメ、ご主人様の指が私のぉ……」

 触るたびに震えながらグレアが言った。


 ただ洗ってるだけなんだがなぁ……。

 なんだか罪悪感。

 

 触っているうちにグレアの体から力が抜けた。


 仕方がないので洗い終わってぐったりとしたグレアを抱き上げ、湯船に入れる。

「どうだ? 気持ちいいだろ?」

「ふう、落ち着きますね。巨人ってお風呂に入るんですね」

「いや、普通の巨人は入らないと思うけど……」

 と言うと、グレアは気になったのか、

「ご主人様はなぜお風呂に入るのですか?」

 と聞いてきた。

「んー、この体は昔エルフが作った体みたいなんだ。

 その中に入った魂……まあ俺の事なんだけど……は別の世界の巨人じゃなくて人間だった。

 だから俺が生きていた前の世界の人間の知識を持っている。

 前の世界では毎日風呂に入ってたからその癖だね」

と答えてみたものの、グレアはあまり分かっていないようで首を傾げていた。

 そして、

「ご主人様はちょっと違うんですね」

 と一言で納得する。


 おぉ、大分端折ったな。

 

 と思いながらも、

「まあ、それでいいよ」

 俺は頷く。


 りかいしてもらうつもりはないしな……。

 グレアは横に居てくれるだけでいいのだ。


 俺は湯船の縁を枕代わりにして朝焼けの空を見ると、グレアは湯船に顎を置いて目を瞑る。

 二人で温泉を堪能しながら朝の静かな時間を過ごすのだった。

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