第31話 エルフを保護しました。

「大丈夫か?」

 俺が声をかけても首を振るだけでなにも変わらない。

「グレア、ノワル、人化してこっちに来てくれないか?

 温泉の水路沿いに来れば居るから。

 あっそうそう、この前村人が持ってきた鹿皮の毛布持ってきてくれ」

 パスで二人に声をかけた。

「了解です」

「わかったのじゃ!」

 返事が聞こえたので待つことにした。

 エルフは腰が抜けて動けないようだ。


 胸など露出したままの状態。春が近づいたとはいえ寒かろうに。

 俺が手を伸ばすとあからさまに逃げる。

 

 んー、やはり二人を待つか……。

 

「ご主人様、お待たせしました」

われも到着じゃ」

 毛布を持ったグレアとノワルが現れる。

「悪いんだけど、毛布を渡して名前を聞いてくれない?

 ついでに誤解も解いてくれると助かる」

 グレアとノワルはエルフに鹿皮の毛布でエルフの体をくるむと話を始めた。


 とりあえず、

「ご主人様は悪い巨人じゃないんですぅ」

「そうじゃぞ。

 おぬしを取って食おうと等しない」

 とグレアとノワルが説明する。

 そして、

「あなたのお名前は?」

 とグレアが聞くと、

「ウル……」

 と聞こえてきた。


「『ウル』ね了解」

 名前を聞いたことで俺からエルフへのパスを繋ぐ。

「あっあー、聞こえる?」

 と声をかけてみた。


 このくだり何回目だろ……。


「誰?」

 どこから聞こえているのか分からないのか、エルフはキョロキョロする。

「俺は君の目の前に居る巨人。

 パスを繋いで話せるようにしたんだ」

「パス?」

「頭に直接話しかけるための線みたいなもの。

 見えないけどね。

 それで、どうしてこんなところに?」

「わからない。

 気づいたらここだった」

 首を振るウル。

「誰かと住んでいた?」

「わからない」

 再び首を振るウル。

「記憶喪失かね?

 もしかしたら色々事情があるのかもしれないな」

 俺が言うと、

「記憶喪失とは何じゃ?」

 とノワルが聞いてきた。

「ノワル。

 たまに精神に大きな傷を持ったときなんかに、記憶を忘れてしまうことがあるんだ。

 それが記憶喪失」

 と説明すると、

「アリヨシは色々知っておるのじゃな」

 ノワルが驚く。


「まあ、色々あってね」

 と誤魔化そうとすると、

「いつか教えてくれるのかの?」

 と聞いてくるので、

「ああ、いいぞ?

 いつか話そう」

 俺は頷いたあと、

「ただ、このエルフをこのまま放っておいても仕方ない。

 家に連れていこう。

 そういえば、『巫女様に』ってもらった服があったな。

 あれでも着せておくか。

 ボロボロの服のままでもいかんだろう」

 村人たちがグレアとノワルのために作ってくれた防寒着のような服である。

 グレアとノワルが寒いのにいつも同じ服なので気にしていたということで作ってくれたのである。

 二人にとってこの程度の寒さは問題ないのだが、村人の気遣いを無下にできず受け取っておいたものがあるのだ。

 何度か村人の前で着た後、ホールの奥に眠っていた。

 グレアもノワルも要らないからなぁ……。


「とりあえず、手に乗せろ」

 俺は右の手のひらをトレイ状にして地面に置いた。

 その上にグレアとノワル、そしてグレアに付き添われたエルフが乗る。

 乗ったのを確認すると、五匹のオークを掴み慎重に家まで帰った。


「温泉に入るか?」

 毛布をかぶったエルフに聞いてみたが、

「温泉?」

 どうも温泉を知らないらしい。

「グレア、ノワル、温泉に入れてやってくれ」

「わかりました」

「今日二回目じゃのう。じゃが温泉はいい」

 二人はエルフを連れ、俺の手で作った即席の湯船で温泉に入る。

 体が冷えきっていたのか、かけ湯をすると痛がっていたが、湯に馴染むと「ふぅ」とため息をついてウルは暖まる。

「下着あったっけ?」

「ああ、ドリスさんが粗相したときに貰ったものがあります」

 グレアが言う。


 そんなこともあったな。


「グレア、後でいいから出して着せてやってくれ」

「わかりました」

 すっかり体が暖まり全身を洗ってスッキリしたエルフは、グレアが出した下着をつけエスキモーのような防寒着を着ると、うつらうつらしだした。

 そしてスウスウと寝始める。

「あんな目に遭って疲れたかな」

 上からのぞきながら言う俺に、

「私の上で寝かせましょう」

 グレアはフェンリルに戻ると丸くなり、ウルの襟を咥え自分の腹の上に置く。

 エルフは寝返りをうったが目を覚ますことはなくそのまま寝続けるのだった。

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