第30話 エルフを助けました。

「たぶれっと」という板が赤く光ってからしばらく経った。

「このタブレットが赤くなる時、巨人が動き出す」と聞いていたのに……。

 特に何も起こらない。

 たしか、この地図のこの場所に巨人が隠されている施設があるとお父様に聞いていた。

 巨人が起きなければ、その施設に入ることさえできないようにしてある……とも。


「クルツ! 

 これを見て!『たぶれっと』が赤くなっている!」

 私、巨人が隠されているという場所に行きたい!

 お父様も人間を蹂躙し、エルフの時代の再来を期待しているはず」

 と私は言った。

「ウルリーク様! 何をおっしゃっているのですか?

 巨人が起きて活動しているのであれば、既に何らかの魔法を使い人間を殲滅しようとしているはずです。

 しかし、そんな気配もない。

 既にそのタブレットも500年以上使われているのです。

 誤報かもしれない。

 ウルリーク様はエルフの最後に巻き込まれずに生き残ったなかで、ヴィルヘルト王家の血を引く最後の方です。

 このクルツ! そんな危ないことをさせるつもりはありません!」

「でも!」

 と続けようとしたけど、

「デモも何もありません!

 ダメです!

 今は我慢してください!」

 結局許可は出なかった。


 でも一度はクルツの言うことを聞いてしばらく我慢したけど、ある日我慢できずに村を飛び出してしまったの。


 この先のはず……。

 でも、道も無くて、なかなか見つからない。


 すぐに見つかると思って食料をあまり持たなかったのが災いしました。

 道に迷って食料も尽き、ふらふらになって歩いていた時、五匹のオークを見つけたのです。

 最初は見つかっていなかったのですが、オークがブヒブヒと鼻を動かし始める。

 そして、私は気づいた。


 あっ……、ここは風上。

 私のにおいが……。

「オークと戦うときは風上を避ける」そんなことも忘れてしまうなんで……。


 私が走り出したのとオークが私を追い始めたのが同時だった。

 森の中ではエルフは強い。

 しかし、それは自分の場所が相手に知られていないことが前提。

 オークは匂いで場所を知る。

 距離があるうちに精霊魔法で二匹のオークを倒したけど、三匹のオークに追いかけられる。

 仲間を倒したせいか怒りに任せているようだった。


 食べていないのと疲れがたまっているせいか、足がもつれて倒れ込むとオークたちは近寄ってきた。

 目の前のオークの怒りが欲望に変わるのがわかる。

 そしてオークに襲われそうになった時、私は意識を手放した。



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 春も近づき雪が融け始めた頃。

 相変わらずやることがなくボーッとしていた。


 そういえば、あそこ開墾していいって言っていたんだよな……。


 グレアもノワルもフェンリルとブラックドラゴンの姿で絶賛入浴中だ。

 温泉の方から

「いい湯じゃのう」

「生き返ります」

 と、年寄りくさい会話が聞こえてくる。

 本格的に温泉に嵌ってるな。


 すると突然パスが繋がり、

「きゃーーー!」

 女性の悲鳴が頭に響いてきた。

「誰?」

「助けてーー!」

 という叫び声。

 ただ、グレアにもノワルにもその声は届いていない様子。

「大丈夫か?」

 パスを通じて話をしようとするが、俺の声が聞こえてない。


 一方通行? 


 レーダーで確認すると複数の何かに追われる一つの何かが見えた。

 俺は起き上がり熊スーツを着ると、ナイフを持ってその反応の方向に走った。

 しばらく走ると、そこにはオークに追われる女性の姿が見えてくるのだった。


 そこには腰まで伸びた金髪のエルフ。

 

 んー、初めてファンタジーの定番エルフを見たね。

 それも女性。

 細いなぁ、触ると壊れてしまいそうだ。

 

 そしてそのエルフを襲おうとするオークが五頭。

 

 オークってでかいのね。

 でも二メートル五十センチ位かな。

 エルフの服は破られ、真っ白な裸体が晒されている。

 オークは……見たくないモノはヤル気満々だった。


 俺の姿を見ると、エルフもオークたちも俺を見上げ固まる。


「オーク見つけたけど、要る?」

 グレアとノワルにパスで話す。

 グレアもノワルもオークを食べるのを知っていたので聞いてみた。

「要ります」

「要るのじゃ」

 二人の嬉しそうな声が届く。

「お土産、お楽しみに」

 俺と目線があったオークが逃げようとしたが、素早く首を掴むと、そのまま折った。

 残りのオークもボキリと首を折る。

 グレアとノワルにお土産完成。


 目の前でオークが一方的に殺されるのを見て、恐れおののくエルフ。


 怖がらせるつもりは無いんだけどなあ。

 端から見れば、全裸の人形を拾う熊になってる気がする。


 まあ、助けられたから良しか……。


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