第20話 お嬢様を助けてしまいました。
私の名はベアトリス。
クルーム伯爵の娘。
ちょっとした用事で私は馬車に乗っています。
それはやりたくもない見合い……。
そりゃ、女なんて家を大きくしたり家を維持するための駒にしか過ぎないんだろうけど。
それでも、やっぱり……好きな人の下に嫁ぎたい……。
それは乙女心というもの……。
まあ、向こうは子爵、こっちは伯爵だから「行きたくない」と言えば行く必要はないんですけどね。
「旅をしたい」
と言う我儘に合わせて、お父様が準備してくれた理由。
そのくらいの我儘は聞いてもらえるくらいにいい娘をしているつもりです。
苦笑いしながら私は窓から空を見ていた。
そんな時、
「ベアトリス様、賊です。
馬車が揺れますがご容赦を!」
御者の声が聞こえると、馬に鞭が打たれ、速度が上がる。
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俺はホールで横になっていた。
広くなったレーダーの端に数個の白の光点と十数個の赤い光点。
んー襲われている感じ?
しかし、味方認定と敵認定ってどういう判断なんだろう……。
フンと一息すると立ち上がり現場を目指した。
動き出した俺に気付いたノワルとグレアも俺についてくる。
「どうかなさいましたか? ご主人様」
フェンリルの姿で俺を見上げながら聞いてきた。
「んー、何かが襲われている。
魔物なのか盗賊なのか知らないが敵対心のある者に……」
と言う俺に、
「アリヨシよ、助けるのか?」
ノワルが聞くので、
「まあ、一応ね」
と頷いておく。
「なら私も手伝いましょう」
「
そう言ってグレアとノワルを連れて援軍に向かった。
馬車に護衛五人程度か……賊は馬に乗った十三人。
相手の発見と共にグレアとノワルは人化して向かう。
対人の時は二人には人化してもらうようにしている。
そのほうが交渉をしやすいからだ。
俺は縮小化が無理なのでそのまんま。
俺が近づき木立の上から頭が見えると、俺を発見した馬たち棒立ちになった。
そのせいで振り落とされる者も居るが、そこは「ごめんなさい」と言う事で……。
賊の馬から落ちた者にはグレアとノワルが当て身を入れて気絶させた。
その後二人は残りの賊を殲滅する。
すべてが一撃である。
人化しても能力にはあまり変わりはない。
「助勢ありがとうございます」
って感じで二人に駆け寄る護衛達。
「ご主人様が助けろと言ったんです」
「アリヨシが助けろと言うたのじゃ」
「ご主人様? アリヨシ? と言う人はどこに?」
と護衛が聞く。
すると、グレアとノワルの二人は俺を指差した。
「やあ」って感じで右手を上げる俺。
自分の十倍ぐらいある裸の大将な巨人に見られたら、普通は皆引くよね……。
一応筋肉質だけど。
「あれが……アリヨシ……様?」
唖然とした表情で護衛達が俺を見た。
「そうじゃ、あれでいて頭は良いのじゃぞ?
この近くの村もアリヨシのお陰で干害にならなかったのじゃ」
「そうなんですか?」
「まあ、知りたければ村人に聞けばよいのじゃ!」
面倒になったのかノワルが話題を放り投げる。
「ところで、そこに転がした者たちは何者なんですか?」
グレアが護衛に尋ねる。
「多分、伯爵様の政敵が放った者ではないかと思われます」
護衛が言う。
「政敵?」
あっ、グレア意味が分かっていない……。
まあ、俺が聞こえているから何とかなるでしょう。
理解されていないと思ったのか、
「現在この国と周囲の国と、戦争を行う行わないで揉めております。
伯爵様は戦争に反対をしておりまして主戦派に疎まれているようです。
ですから伯爵様の娘であるベアトリス様を誘拐しようとしたのかもしれません」
と説明をする護衛。
「へー、そうなんですかー」
気のない返事のグレア。
グレア、やっぱり意味が分かってないだろ。
しかし俺らが伯爵の娘を助けたって事で後々なんか起こらなきゃいいんだけど。
まあ、主戦派が来たら来たで追い払うだけだが……。
そんなことを話ししていると馬車から縦巻きロールのお嬢さんが出てきた。
護衛の一人がお嬢さんに耳打ちをした。俺らのことを話しているんだろう。
「アリヨシ様、我々の危機を救っていただきありがとうございます」
俺の顔を見ながらお嬢さんが言った。
俺を一度見た後、もう一度トランクスの隙間から俺の何かを見ると頬を染める。
「私は大きいのが好きです」
ん?
なんじゃそりゃ。
どういう事?
上から驚きと共に女性を見てしまう。
「訳が分からないですね」
グレアが言った。
俺はそんなこと言っていないが、まあ確かに訳は分からないので助かる。
「あなた達はアリヨシ様とお話ができるのですか?」
不思議そうに二人を見る縦巻きお嬢さん。
「私はご主人様に名を貰いましたから念話で話ができます」
「
二人は質問に答えた。
「それに我々はアリヨシに仕える神獣じゃ、人に対する時だけ人化しているだけなのじゃ」
ノワルは人化を解きブラックドラゴンの姿に戻ると、さすがに驚いたのか、縦巻きお嬢さんは腰を抜かして座り込んだ。
「と言う事は、そちらの白い方も」
縦巻きお嬢さんはグレアのほうを見て言と、
「私はフェンリルです。耳と尻尾は名残ですね」
グレアは人化したままピコピコ、ファサファサと耳と尻尾を動かした。
その後、俺を見上げると、
「助けられたお礼はどのようにすれば」
お嬢さんが二人に聞いた。
「気にしなくていいそうです。
ご主人様の気まぐれですから」
念話で言った通りにグレアが話をしてくれる。
「それでも、伯爵の娘たる私が助けてもらって何もしない訳にはいきません」
すると、ノワルが顎に手を置き考え始めた。
「じゃったら、魔道具が作れるものを紹介してもらえないかのう?
体が小さくなる魔道具を作ってもらいたいのじゃ。
アリヨシが人の大きさになる程度の物をな」
俺をチラリとみてサムズアップするノワル。
グッジョブだ。
俺はノワルを見て頷く。
「魔道具ですか……、難しいかもしれませんがお父様の伝手で探してみます」
おとがいに手を当てて考えるお嬢さん。
「他には?」
と再び聞いてくる。
「『他にはない』と言っていますね。
元々礼を貰う気も無かったようなので……」
グレアが伝えてくれると、
「わかりました、私の全力で魔道具を作れる者を探してみます」
よしっ……とでもいうように握りこぶしを作って気合を入れていた。
イヤイヤ、そんなにがんばらなくていいから。
そんなことを思っていると、
「『無理しなくてもいい』と言ってますので、じっくり探してください」
グレアが言うのだった。
「アリヨシ様、助けていただき本当にありがとうございました」
そう言うと縦巻きお嬢さん……多分ベアトリス様は馬車に戻った。
俺達が話をしている間に賊たちは手首を縛られ数珠つなぎにされる。
そして、ゆっくりと馬車は動き出す。
馬車を見送る俺たち。
「魔道具を作れる人が見つかるといいのう」
俺を見上げるノワル。
「そうだなあ、人サイズに慣れるなら皆と旅してみたいねぇ」
「いいですね」
そんなふうに三人で取り留めのない話をしながらホールに帰るのだった。
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