第110話 思ったようには行かないようです。

 巨人の姿に戻った俺の手にアリーダが乗るのを確認すると、俺の肩に乗せる。

「振り落とされないようにちゃんと持ってろよ」

 アリーダが熊スーツの毛をギュッと力を入れて掴むのが見える。

 それをもって俺は壁に向かって走り始めた。

 追従するグレアとノワル。

 さあ、行こうか。


 俺は帝国との壁をハードルのように飛び越える。

「きゃあ!」

 アリーダが悲鳴を上げた。

「悪いな、揺れたか」

 右肩の辺りにしがみ付くアリーダを見た。

「この服の毛で体を固定しているから大丈夫。それよりも急いで!」

「おう、了解」

 邪魔になりそうな木などは折りながら走る。

 レーダーで光点が集まる場所へ向かった。


 村の近くにつくと、アリーダを降ろす。

 レーダーで再確認すると、数十人の光点から少し離れて数人の光点、さらに離れたところに十数人の光点があった。

「俺は巨人に戻って村を襲うふりをする。

 兵士は二、三人逃がして村の結果を報告させればいいだろう」

「アリーダ、グレアと一緒に村人のところに行って説明してくれ。

 話が決まれば壁の方へ行ってドリスと合流だ」

「わかった」

 アリーダは頷いた。

「グレア、アリーダと一緒に村人のところに行ってもらえるか?

 グレアは人化しても獣人だから話しやすいだろう。

 それとアリーダの護衛も頼む」

「ご主人様わかりました」

われは?」

「上空から様子を見てもらおうか、壁の方へ走る兵士が居たら倒してもらっていいから」

「わかったのじゃ」

 それぞれの配置が決まり、アリーダとグレアはさっそく村へと向かった。

 ノワルは空を舞う。


 俺はわざと気付かれるような大きな足音を立てて歩いた。

 監視の兵士が居ると思われる場所へ向かう。

 音に気付いた兵士が俺と目が合い顔がぎょっとする。

 居るはずのない巨人が急に現れたのだ。驚いて当然。

「巨人だー! 巨人が来たぞ!」

 と言って俺を指差し、奥の建物に走りだす。

 別の建物からも増援の兵士が飛び出してきた。

  これが全部かな? 

 

 わざと二人をスリープクラウドの範囲から外して魔法を使い、兵士たちを眠らせる。

 バタバタと二十人近くの兵士が急に倒れ込む。

 俺はそれを見て大げさに笑い。一人をつまむと口に入れるふりをした。

 残った二人の兵士はそんな俺を恐れて近くに居た馬に乗ると、村から出て逃走を始める。


「ノワル、どんな感じ?」

 パスでノワルに話すと、

「この方向なら問題ない。

 逃げて報告に行くじゃろうな」

 と、教えてくれる。

「了解だ、方向を替えそうなら軽くブレスで追い立ててやって」

「わかったのじゃ」

 俺はグレアにパスで話す。

「グレア、どんな具合?」

「今、アリーダちゃんが説得中です。

 しかしアリーダちゃんの言葉だけでは難しそうですね。

 村を捨てるわけですから……」

 こりゃ長引きそうだ、効果の長いスタンクラウドに変えておこう。

 俺は眠っている者たちにスタンクラウドをかけ痺れさせると、縮小化して村人たちのところへ向かった。

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